"いつでも、どこでも、誰とでも"創作を行えるようになりたい アムリタ主宰・荻原永璃インタビュー

インタビュー
2016.3.26
アムリタ4「糸、巡礼、失うこと」(2014年2月)

アムリタ4「糸、巡礼、失うこと」(2014年2月)

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「アムリタとは、主に演劇をする人や場所、機会、集団、の名前。」と自身を語るアムリタ。シンプルな舞台装置、演出ながらも、観るものを巻き込み、圧倒するほどの世界観を生み出すパワーは早くも演劇界で注目されている。今回、そんなアムリタの作・演出・構成を担当する荻原永璃にインタビュー取材を敢行。次回公演や、活動のポリシーや目指す姿についてまで、たっぷり伺った。

 

--アムリタ結成の経緯を教えてください。
2009年に大学に入り、早稲田大学の劇団森という演劇サークルに入って演劇を始めました。2010年の6月に初めて企画公演を打つことになり、3人芝居をやりました。そのあとSAF(シアターグリーン学生芸術祭)で「荒川チョモランマ」という劇団の受付に入っていた時に、あるお客さんから「6月の公演の作演さんですよね?公演すごく良かったです!」と言われたんです。劇団をはじめたきっかけとして、その時の経験はあります。その後も、野外でやったり劇場内でやったりと何度か企画公演を打っていきました。そして、2011年の秋ごろから「自分で団体作ってやろうと思うんだよね」っていう話を、いまの構成員である河合恵理子と藤原未歩にちょっとずつし始めていました。でも、その段階で河合と藤原には面識がなくて。というのも、藤原は高校演劇部の後輩で、河合は大学から知り合ったという関係だったんです。2012年の2月に『かわいいので無敵』という企画公演をやって、初めて藤原と河合が顔を合わせて一緒にやりました。その公演の小屋入り初日に、私がSAF(シアターグリーン学生芸術祭)に応募する書類を書いていて、劇団名はその時に決めました。

劇団森女の子のための企画公演「かわいいので無敵」(2012年2月)

劇団森女の子のための企画公演「かわいいので無敵」(2012年2月)

 

--数ある早稲田の演劇サークルのなかでも、劇団森に入った理由は?
劇団森だけが、新人公演で新入生に作演をやらせてくれたからですね。脚本よりは、演出が特にやりたかったんです。私は、なにかを見るために一番良い状態を整える、みたいなことに興味があるんです。試薬をめちゃくちゃいれてみるとか、温度を調節するとか、攪拌してみるとか。というのも…ほぼ物語は語りつくされていると思っているんです。物語の定型なんて、神話などで消費尽くされているし「これが私のやりたいことです!」っていうものは大体1000年以上前に一番洗練されつくされた方法でやられている。それでも、私達がいま演劇で、生身でやることには意味があると思っています。結局人間の身体を使ってしかわからないことはある。だから私達は、自分たちでやり直さなければいけないと思う。自分の作品で引用するために、シェイクスピアのセリフとか見てみると「なんだよシェイクスピア天才かよ!」ってなりますよ(笑) 本当に悔しくなります。でもそれは、嬉しいし楽しいです。

アムリタ1「虚構の恋愛論」(2012年8月)

アムリタ1「虚構の恋愛論」(2012年8月)

 

--個性的な劇団名ですが、その由来は?
ざっくり言うと私がお酒好きだからなんですよね。「アムリタ」っていうのは、ヒンズー教の神話に出てくる、飲むと不老不死になれるといわれているお酒なんです。あと、水っぽいものが好きだからというのもあります。水はどこにでも行くでしょう?「上善如水」っていう言葉もあるくらいで、一番よい行いは高きから低きに流れてどこへでも形態を変えていける。あと、吉本ばななが「アムリタ」っていう小説を書いているけれど、あの一番後ろのほうにも「生きるっていうのはおいしい水をごくごく飲むようなものだ」という一節があるんです。それで「アムリタ」というのはいいなと。あとは4文字がよかったから、ですね。5文字以上劇団名があると略されますよね。私、省略するのもされるのも、あんまり好きではなくて。それで、省略されないぎりぎりの文字数の劇団名にしました。

アムリタ2「n+1、線分AB上を移動する点pとその夢について」(2013年3月)

アムリタ2「n+1、線分AB上を移動する点pとその夢について」(2013年3月)

 

--アムリタの特徴のひとつに「ドラマトゥルク」の存在があります。ドラマトゥルクを担当される吉田恭大さんと交流を始めたのはいつごろからでしょうか?
彼は劇団森の私の1個上の先輩にあたる人です。私が大学2年生の時に、早稲田大学と岐阜県美濃加茂市の文化交流事業というものがあって、そこで野外劇を滞在製作する機会がありました。その時に、吉田が脚本、私が演出で、初めてタッグを組んだんです。私はインカレで早稲田のサークルに入っていたので、正面切って早稲田から来ました!と言えなくて、吉田さんに主宰者として立ってもらって、私が外部から呼ばれた演出家という体で参加したんです。吉田さんとはその頃からの付き合いですね。

早稲田大学・美濃加茂市文化交流事業第三回「百間」(2010年9月)

早稲田大学・美濃加茂市文化交流事業第三回「百間」(2010年9月)

早稲田大学・美濃加茂市文化交流事業第三回「百間」(2010年9月)

早稲田大学・美濃加茂市文化交流事業第三回「百間」(2010年9月)

 

--吉田さんとはどういう関わり方をしているんですか?
ドラマトゥルクというのは、役割によって3つに大別できるそうです。1つは「創作ドラマトゥルク」という、物作りの部分に介入していくもの。2つ目は劇場との調整だったりとか、演劇教育に関することなどを行う「劇場ドラマトゥルク」。3つ目は「制作ドラマトゥルク」といって、制作面の提案や企画をするという立場。もともと私が吉田さんに期待したのは「制作ドラマトゥルク」としての役割です。今は、私が企画を考えて相談したり、これからアムリタがどういう方針でいくといいのか、アムリタって外部から見てどうなのか、みたいな点から意見を貰っていたりもします。あとは、稽古に来て観てもらった時に「ここの語尾は直せ」みたいな細かい修正を指摘してもらったりもしています。創作の面では、大きな変更をしようかどうか悩んだときに、バランサーとして客観的にみてもらっています。例えば、今までずっと「僕」「わたし」という人称でやっていたのを「彼」「彼女」にしようか悩んだときに「外から見てどうですか?」と聞いてみたり。なので、一番近くにいる批評家っていう感じですかね。

アムリタ3「廻天遊魚」(2013年8月)

アムリタ3「廻天遊魚」(2013年8月)

 

--次回公演『わたしたちの算数 あるいは 握手を待つカワウソ、とても遠い犬』について、どのようなお話になるのか聞かせてください。
算数の「みはじ」、つまり「道のり・速さ・時間」の話をします。時間が経過すると、どんどん距離が開いていく。時間とともに加速度的に速度も上がっていって、距離はさらに遠くになっていく、という話です。私達は本当にタイトル通りの芝居をする団体なので、『わたしたちの算数 あるいは 握手を待つカワウソ、とても遠い犬』は出てきます(笑) 算数の兄弟の話と、カワウソの話と、犬の話です。算数の兄弟というのは、「弟が忘れ物をしたから兄が追いかけて…」っていう、あの算数の問題に出てくる兄弟を指しています。「あるいは握手を待つカワウソ」は、神奈川県にある油壺水族館とか、のカワウソです。各地の水族館や動物園にカワウソと握手をできる企画があったんですが、そのカワウソのエピソードに面白いものがあって、それを発想のもとにして話を展開していきます。「とても遠い犬」に関しては、ソ連の実験などで宇宙に飛ばされたライカ犬のイメージが基になっています。犬はすごく飼い主のところに戻りたいのに、どんどん遠くの宇宙に飛ばされて、戻って来られなくなる、っていうイメージです。
算数の兄弟の弟の足が早かったら、お兄ちゃんは永遠に追いつけないということも、宇宙に飛ばされた犬が戻ってきた時には、犬が会いたかった人は死んでいるかもしれないということも、全部同じものだと思っています。それは「遠さ」です。速いことも、時間が経ち過ぎることも、遠いんだと思います。どんどんものが遠くなっていく、というのは中々とっても悲しいけれど、それはどうしようもなく覆せない。その中でどう動こうかな、っていうことを描いていくつもりです。
舞台は円形舞台になっています。どの席でみても面白いと思います。あと、役者さんがめっちゃ走ります。なにぶん、算数の兄弟の兄が弟を追いかけるので。

 

--次回公演のみどころは?
空間なのかなあと思います。劇場空間自体が一個の装置みたいになっているところがあるんです。アムリタは客席の配置とか音響照明と、役者の動き方がとっても立体的で、自分がその中に放り込まれたような状態になります。うちの公演に行くことを「アムリタしにいく」とか「アムリタされにいく」「アムる」なんていう風に言ってくれる人がいるんです。「観劇する」「芝居をみにいく」ではなく、もはや動詞として表現したくなるような体験があるんだと思います。なので、みどころに関しては劇場で見ないと全くわからないし、中に放り込まれてそれを体験して下さいとしか言いようがないですね。

アムリタ・ふゆ小「周回と退出」(2013年12月)

アムリタ・ふゆ小「周回と退出」(2013年12月)

アムリタ6「死に至る眼、光る」(2015年9月)

アムリタ6「死に至る眼、光る」(2015年9月)

 

 

--アムリタの今後の野望を教えてください。
ざっくり言うといつも遠くに行きたいんです。遠くに行けば、見えるものが大きくなって、もっと楽しくなるかなって思っています。最終的に「いつでも、どこでも、誰とでも」やれる団体になりたいという気持ちがあります。都市部の大きな劇場でやりたいという気持ちももちろんあります。東京芸術劇場やKAATも大好きです。一方で、過去に滞在製作をした美濃加茂や宇陀のような地方でもまた公演をやりたいなとも思うし、海外も行ってみたいし、母方のルーツである沖縄も行きたい。行きたいことやりたいことはすごくたくさんあって、それをやるために体力をつけなきゃなということをいつも考えています。

アムリタ・はならぁと出展/マレビトの宿る社「から、へ、流れる」(2015年10月)

アムリタ・はならぁと出展/マレビトの宿る社「から、へ、流れる」(2015年10月)

アムリタ・はならぁと出展/マレビトの宿る社「から、へ、流れる」(2015年10月)

アムリタ・はならぁと出展/マレビトの宿る社「から、へ、流れる」(2015年10月)

 

--「いつでも、どこでも、誰とでも」というのは面白いポリシーですね。そのように考え出したきっかけはありますか?
大学に入ってすぐ見た先輩の公演っていうのが、早稲田の戸山公園の中でのゲリラ公演で、二人芝居の会話劇をやるというものでした。本当は勝手に公演をやってはいけないんですけれど、それがめっちゃ面白くて。まずそこで、演劇は公園でもやれるんだっていう気持ちは芽生えましたね。ああいうコンパクトな座組みで演劇ができるのもいいなと思いました。美濃加茂市での滞在制作では、美濃加茂という土地の良さに気付かされました。芝生広場は星がすごくよく見えて、そこにいる人たちもすごく面白くて。日本全国にいっぱいある、こういうところでも公演をできればいいなと思うきっかけになりました。この間行った、奈良の大宇陀というところもすごくいいところでしたね。空き家になった古民家に一ヶ月住み込み、そこで公演をしたのですが、そことは別に昔芝居小屋だったというすごくかっこいい木造建築の建物を見せてもらって……。今はぼろぼろの物置状態ですがこんな素敵な劇場で公演をやれたら、そうして建物を復活できたらいいなと思いましたね。こういった経験があって「いつでも、どこでも、誰とでも」公演ができるように、という意識が出来上がっていったんだと思います。長い時間をかけて決まった劇場でちゃんと訓練した劇団員とやるっていうのもいいんですけれど、もうすこし身軽になりたくて。短い時間でも1つ作品をあげるとか、世界中どこでもできるし、劇団員ともやるし、演劇やってない人ともやるし、っていうかたちを目指しています。

利賀演劇人コンクール2014上演審査「楽屋」(2014年7月)

利賀演劇人コンクール2014上演審査「楽屋」(2014年7月)

 

--アムリタに関心を持たれた方に、メッセージをお願いいたします。
ぜひ一度体験してみてください。私達は「今、目の前にいる人たちに向かって話す。その人たちを聞いて話す」っていう芝居をやり続けています。なので、私は今この記事を読んでくださっている方の顔を見てお話できればいいなと思っています。ぜひ一緒に、その場で話しましょう。

 

インタビュー終盤、読者へのメッセージを聞いた際「劇場に見に来て」とは一度も発しなかった荻原。その言葉選びがすべてを物語っているように感じられて仕方なかった。アムリタは、劇場にも、演劇にもこだわらない。アムリタは、これからも世界のどこかでアムリタの空間を生み出していくのだろう。活動を続けるたびにどんどん身軽になっていくアムリタから、これからも目を離すことができない。

 

アムリタ『わたしたちの算数 あるいは 握手を待つカワウソ、とても遠い犬』をお得に観に行こう!

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イベント情報
アムリタ『わたしたちの算数 あるいは 握手を待つカワウソ、とても遠い犬』

日時:2016年3月25日(金)~28日(月)

上演日時:
25日(金) 20時00分
26日(土) 13時30分/19時30分
27日(日) 13時30分/19時30分★
28日(月) 13時30分
※受付開始・開場は開演の30分前
※上演時間は90分を予定
★27日夜の回は終演後にアフターイベント「アムリトーーク」実施

会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて (東京メトロ南北線王子神谷駅)

出演者:
大矢文
鈴木太一朗
立川周((石榴の花が咲いてる。))
永渕沙弥(たすいち)
野村由貴
 
アムリタ

2012年、演出・荻原永璃を中心に、主に演劇をするための機会・あつまりとして活動を開始。嘘でしかない演劇の中で徹底して真実であることを追究する。 古典戯曲から俳優の個人史まで様々なテキストを人称や配役に囚われず柔軟に再構成し、 多様なイメージを結びつけ深化させる。 論文のような緻密で広がりのある劇構造と、祭礼のような場に対しての働きかけ・必然性を併せ持つ演出が特徴。イレギュラーな上演環境や多面客席を効果的に使用し劇場の内外を問わず精力的に活動を続ける。  2014年、利賀演劇人コンクールで『楽屋』を演出し、荻原永璃が奨励賞受賞。 近作に「から、へ、流れる」(奈良・町家の芸術祭はならぁと2015 レジデンス)、 「死に至る眼、光る」(板橋 サブテレニアン)など。

所属
荻原永璃(作・演出・構成など)
河合恵理子(役者)
藤原未歩(役者)
吉田恭大(ドラマトゥルク)

アムリタ公式サイト

 

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