「オリジナルはこれだ!」イキウメが『太陽』を再演

インタビュー
舞台
2016.5.7
前川知大

前川知大

前川知大原作の舞台と映画が同時期上演、小説も併せて読んでみるべし!

夜しか生きられない進化した人類「ノクス」と、太陽の下で暮らす旧人類「キュリオ」。コミュニティが二つに分断された近未来を舞台に、引き裂かれる若者たちを描いた前川知大によるSF作品『太陽』。2011年にイキウメで初演後、2014年に蜷川幸雄が演出、2016年2月に前川による小説版(KADOKAWA刊)が刊行され、さらには入江悠監督による映画が公開になった。ダイナミックな展開を経た戯曲が、本家イキウメによってよみがえる。

世界的なバイオテロにより拡散したウイルスで人口は激減し、政治経済は混乱、社会基盤が破壊された未来。数年後、感染者の中で奇跡的に回復した人々が注目される。「ノクス」と名乗る彼らは頭脳明晰で、人間よりはるかに若く健康な肉体を長く維持できるが、一方で、紫外線に弱く太陽光の下では活動できなかった。やがてノクスになる方法も解明され、徐々に数を増やした彼らは、弾圧されつつも変異の適性は30歳前後までのため、若者の夜へ移行は歯止めが効かない。次第に政治経済の中心はノクスに移り、遂には人口も逆転してしまう。ノクスの登場から40年、普通の人間は3割ほどになり、ノクス社会に依存しながら共存していたが--。
 
イキウメ初演『太陽』 撮影/田中亜紀

イキウメ初演『太陽』 撮影/田中亜紀

-- ひとつの戯曲がさまざまなメディアを行き来し、話題を呼ぶのは演劇としては珍しく、うれしい展開だと感じます。そもそもこの戯曲はどういった経緯で生まれたのですか?

 2006年に、瀧川英次君の七里ガ浜オールスターズに書いた『双魚』という短編がベースなんです。「趣味で書いていいよ」と言われて、藤子不二雄の「流血鬼」を持っていって、こういうのをやりたいと。それはヴァンパイア物で、『太陽』の根っこみたいな物語です。キュリオとノクス、ヴァンパイアになった人間と太陽の下で生きる人間が反目するように生活していたのですが、最後は混血が生まれて人類が進化していく。希望的なエンディングの作品だったのを、ずっと書き直したいと思っていたんです。2011年、東日本大震災の後にこの作品を書き直す時に、違うテーマが見えてきて。都会的な生活を送るノクスと地方での生活を送るキュリオの格差、差別がテーマだったのが、老いと死がないヴァンパイアって人間の理想形だというところから、ノクスとはなんなのかをひたすら考えて、『太陽』では理想と現実の話だということになったんです。そして後半ががらっと変わって現代社会とつながる話になりました。

-- 蜷川さんの演出した舞台があり、小説を書き、映画にもなった。ある意味で、作品世界を探る作業をしたわけですよね。そこからの気づきは何かあったんですか?

 今こうやって『太陽』のことが話せているのは、それらの作業があったおかげです。最初は客観的には見えていなかった。蜷川さんの現場のために設定資料集を作ったり、入江監督と映画の脚本を作ったりしながら、何が書いてあるのか、どういうテーマと問題があるのか自分で理解していきました。小説はそれを全部盛り込みました(笑)。

 蜷川さんの時は俳優さんたちに説明するために、資料をほじくり返して、何年にバイオテロがあったみたいなことを考えて必死にまとめてお渡ししたんです。映画では入江監督が質問の山を持ってくるので一緒に考えるんですよ。演劇ではいろんなことを抽象化してできるのですが、ノクスが何を着て何を食べているのか、どの程度の未来感なのか、どの程度の限界集落なのかとか具体的にしていくわけですよね。

 普段の再演でも劇団内に共通理解があるんだと思い込まないように注意してやってはいるんですけど、今回はひたすらそういう確認作業を行っています。劇団員みんなに小説も配りました、読めというわけではないですよ(笑)。

-- いちばん苦労したなあと感じる作業はどれでしたか?

 小説で苦労しました。読み物として文章が面白くないと読み進められないじゃないですか。いろいろわかってしまっていることで説明的にならないようにしていくのが大変でした。やっぱり小説でも戯曲でも書きながら自分で発見して、自分で感動するみたいな客観的な視点がありますからね。

-- 映画版は4月23日に公開になりましたが、タイミングが一緒になったのは狙いですか? 

 いえ、映画のほうのスケジュールが押して、結果一緒になったんです。でも宣伝の相乗効果もあるだろうし、お互いよかったね、みたいな感じです。あと舞台はここでやっておかないと、オリジナルキャストで上演できなくなってしまうんですよ、ノクスは歳を取らない、肉体ピークを維持するという設定なんで(笑)。

-- それぞれの大もと、原則であるイキウメ版を上演するにあたり、逆に大変だなあというような思いはありませんか?

 へんなプレッシャーはなくて、むしろオリジナルはこれだ!みたいな感じですね。でも役者はあるのかなあ? 大窪人衛の鉄彦役なんかは、綾野剛さん、神木隆之介さんがやっているし、今度、本人に聞いてみよう(笑)。

-- 映画版、舞台版それぞれの魅力を教えてください。

 映画がいちばんストイックですね。ノクスとキュリオの格差が一目瞭然、すごくリアリティをもって描かれているんです。そしてあまり説明がなされてないんです、演劇よりしてない。だからあんまり優しい作品ではないかもしれません。若者2人がノクスとして生きるかキュリオとして生きるかを選ぶ話ですが、ノクスの生活のほうがよく描かれているんです。でも主人公はキュリオとして生きざるを得なくて、その葛藤を丸々観客に投げかけてくるんです。

 舞台版は、映画にはない、ノクスをキュリオが妬むんですけど、彼らにも苦労があるんだということが描かれている。やはり9人しか登場しないぶん、それぞれが抱える問題がはっきり見える、会話劇としては演劇のほうが濃密でメッセージ性もわかりやすいと思います。それと今までやった再演の中では、もっとも忠実に物語を伝えるということを大事にしています。いつもは演劇だからこそできる演出、演劇の構造を使ったSF的なからくりみたいなものを台本に織り込むんですけど、『太陽』はそれがないんですね。面白い物語を書こうと思った作品だから、僕のほかの作品とも少し違う。それがほかのメディアに広がった理由かもしれないですね。

前川知大
劇作家・演出家。SF的な仕掛けを使って、身近な生活と隣り合わせに潜む「異界」を描く。劇団イキウメおよびカタルシツを拠点に活動。主な舞台作品は『聖地X』、『語る質』、『地下室の手記』、『片鱗』、『獣の柱』、『散歩する侵略者』、短編集『図書館的人生』ほか。またスーパー歌舞伎II『空ヲ刻ム者』の脚本・演出や、『太陽2068』(蜷川幸雄演出)、『暗いところからやってくる』(小林絵梨子演出)などの脚本提供もある。『太陽』で第63回読売文学賞シナリオ・脚本賞、『太陽』『奇ッ怪 其ノ弐』で第19回読売演劇大賞、『プランクトンの踊り場』で第14回鶴屋南北戯曲賞を受賞、『関数ドミノ』『奇ッ怪〜小泉八雲に聞いた話』で第60回芸術選奨新人賞。
 
公演情報
イキウメ『太陽』
 ▽日程|2016年5月6日(金)~5月29日(日) ※5月6日プレビュー公演
 ▽会場|シアタートラム
 ▽作・演出|前川知大
 ▽出演|浜田信也 安井順平 伊勢佳世 盛 隆二 岩本幸子 森下 創 大窪人衛/清水葉月 中村まこと
 ▽料金|【全席指定・税込】一般4,500円/当日4,800円 ★5月6日(金)プレビュー公演 4,200 円 (前売・当日共通)
 ▽開演時間|火~金曜19:00(18日14:00 / 19:00)、土曜13:00 / 18:00(7日18:00のみ)、日曜13:00、月曜休演
 ▽お問合せ|イキウメ Tel.03-3715-0940
 ※6月3日(金)~6月5日(日)大阪・ABCホールでも公演

 
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