磯貝サイモンはシンガーとして、作詞作曲家として、プレイヤーとして、10周年にどんな景色を見ているのか

インタビュー
音楽
2016.5.21
磯貝サイモン  Photo by Taiyo Kazama

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磯貝サイモン、10周年。ピアノ・シンガーソングライターとしての鮮烈なデビューから、楽曲提供、サポート・ミュージシャンとして多忙を極める現在まで、その10年の軌跡は実に波乱万丈と言ってもいい。いずれそのすべてを語る機会を作ってほしいと思っているが、その中で一つだけ変わらないものがある。それは「一生歌っていく」という固い決意。サポートの合間にも決して忘れない、歌うたいとしての揺るぎない自覚。「今は第二のターニング・ポイント」と語る現在の心境、そして11月22日に渋谷TSUTAYA O-EASTで行う『磯貝サイモンデビュー10周年記念SPECIAL LIVE~今日は1日予測不能~』について。飾りなき胸の内を語るインタビュー。

――サイモンさん、デビュー10年ですか。感慨深いです。

10年なんですよ。長いのか短いのか、よくわからないですけども。でもこの10年間のどの1年を抜き取っても、同じ1年がまたとなかったというか。毎年違うカラーの1年になってるイメージがあるんですね。だから飽きないというか、毎年必死で生きているというか。ひょっとして、自分が一番、アニバーサリー感を感じてないかもしれない。

――あ、そうなんですね。

肉体的には10年間の重みは感じますけど(笑)、気持ち的には実感は全然ないです。10年というと、もう少しいろんなことが達成できていたりするのかな?と思っていたんですけど。まだできてないこともたくさんありますしね。

――プロフィールを振り返ると、10年のうちの前半はシンガーソングライターとしてのアーティスト活動一本でしたが、後半になると楽曲提供やアレンジ、ツアーサポートの仕事なんかもぐっと増えてくる。

まさに2011年は、前の事務所から独立した時期で、そこが一回ターニング・ポイントとしてありますね。そして、この10周年が第二のターニング・ポイントになってくるのかな?というかターニング・ポイントにしなきゃいけないという気はしてます。

――アレンジ仕事の最初は、2010年、植村花菜さんのミニアルバムでしたっけ。あの「トイレの神様」が入っている。

そうです。それは寺岡呼人さんに声をかけてもらったのが一番大きくて。ある日、呼人さんから電話がかかってきて、“ちょっとお願いしたい仕事があるんだけど、とりあえずスタジオにおいでよ”と言われて。そこで聴かせてもらったのが植村花菜ちゃんのデモ音源でした。“実はアレンジを手伝ってほしいんだよね”という話になって、もちろん即答で“やりたいです”と。それまではそういった仕事は興味はあっても、なかなか携われる機会がなかったので、やはりいろいろなきっかけを作ってくれたのは呼人さんですね。その後、他アーティストのツアーサポートの仕事が出来るようになったのも、元はと言えば呼人さんが、プレイヤーとしては当時未経験の僕をどんどんでかい現場に引っ張ってってくれたおかげですし。奥田民生さん、桜井和寿さん、ムッシュかまやつさん、仲井戸麗市さん、小田和正さん、松任谷由実さん、そして僕が高校からの憧れだったゆずとも。ゆずに関しては、今ではツアーにまで参加させていただけるようになりました。呼人さんには感謝しきれないくらい感謝しています。

――そして最近だとスキマスイッチ、flumpool、レキシなどなど。たくさんのアーティストのツアーサポートや楽曲提供を経て今に至る。どんな思い出がありますか。

スキマスイッチの常田さんから広がったご縁も多いですね。もともと音楽雑誌で僕のインタビューを読んで気にしてくれてたらしいんですね。当時は”ピアノ・シンガーソングライター”という肩書きでデビューしてたんで、同じ鍵盤奏者として僕のデビューシングル「君はゆける」に興味を持ってくれてたそうなんです。でも“カップリング曲のほうが好きなんだよねー”って今でも言われるんですけど(笑)。

――「コインランドリー」。僕も好きです。

どういうわけか常田さんのツボに大ヒットしたそうです(笑)。キャンペーンで札幌に行った時、時計台の前で偶然ばったりお会いしたのが最初です。たまたま当時のマネージャー同士が知り合いだったのもあって、ちょうど雪が降り積もる時計台の前で立ち話でご挨拶させてもらったのを今でも鮮明に覚えてます。そこからのつながりですね。そのあと、常田さんが持っているプライベート・レーベルでプロデュースするアーティストのツアーをやるということで、“良かったら一緒にスプリットツアーやらない?”と声をかけてもらって。常田さんもそのアーティストのKeyboardで参加してたんですよ。それがきっかけで一緒に音を出すようになって、プライベートでも会うようになって、フットサルに連れてってもらって、そしてナオトくん(ナオト・インティライミ)と出会うことになります。

――ああ~。なるほど。

フットサルは人をつなぎますね(笑)。最近プロデュースさせていただいたGAKU-MCさんも出会いはフットサルですし。ナオトくんは、僕がKyleeに提供した「CRAZY FOR YOU」という曲を聴いて、僕が作った曲だというのを知らずにいい曲だと思ってくれてたみたいで。ある時何かで僕の曲だという情報を知った時に、だったら一緒に歌詞を書いてみたいと思ってくれたようで、それでお願いしてくれたんです。いろんな出会いがありますね。

――なるほど。椎名慶治さんとも深い縁ですよね。

椎名さんはもともと同じ事務所ですから、言わずもがななんですが、実は今のような関係性になったのは意外にも事務所から独立してからですね。椎名さんも同様に未経験の僕をプレイヤーとして起用してくれて、大きいステージでたくさん経験値を積ませていただきました。お世辞抜きになんでもアドバイスしてくれるので頼れるセンパイです。

磯貝サイモン  Photo by Taiyo Kazama

磯貝サイモン  Photo by Taiyo Kazama

――作曲仕事はどうですか。先ほど話に出たKyleeをはじめ、KARA、Dream、Dorothy Little Happyなどなど、女性アーティストがかなり多いですけど。それはまた違う頭で?

メロディを作るという作業に関しては、提供先が男性アーティスト・女性アーティスト問わずそんなに大きくは変わらないです。歌詞に関しては大きく違いますね。男性目線の歌詞だと、どうしても自分の男としての一個人の主観が入ってしまってどんな言葉を綴ろうか悩むことも多いんですが、女性目線となるともはや想像するしかないわけです。でもそのぶん自由奔放に書けるし、あとはもともと女性シンガーソングライターの歌詞が好きだったっていうのも大きいです。aikoさんとか、矢井田瞳さんが書くようなTHE女性な歌詞が大好きでよく聴いてました。

――なるほど。でも振り返ってみると最初の楽曲提供は、なんと嵐。2005年です。

しかも自分のデビュー前なんですよね。これは本当にラッキーで。普通はたくさん候補曲が集まる中で会議があって選ばれたりするものなんですが、この時はそういった会議も何もなく1発で僕の曲を気に入ってもらえたらしく、予兆もなくいきなり決まったんですよね。事務所もビックリで、僕なんて嵐のHPに掲載されてるのを見て初めて知りましたから(笑)。それが印象的な経験となって、そのあとは少しずつ提供用の曲を作りためていって、2010年以降に少しずつ採用されていった感じですね。

――鍛えられましたか。ソングライターとして。

そうですね。例えば“こんな言葉も歌詞に出来るんだな”とか、“メロディに対してこんな言葉の乗せ方もあるんだな”とか、自分の中でどんどん扉を開けるきっかけになったので。ひょっとしたら、先ほど話した女性アーティストの作詞経験は大きいかもしれません。自分と真逆だからこそ、思いきって書ける。それが自分の中で結果的に幅を広げることになりましたし、刺激にもなっていると思います。まだ世には出てないけれど、ロカビリー、ヒップホップ、EDM、本当にいろいろな幅の曲も作りました。このままお蔵入りかなぁ(笑)。

――歌詞に関しては分かりましたが、メロディはどうですか?

メロディに関しては、実はツアーサポートとかで他のアーティストに携わってるほうが刺激になるんですよ。演奏に携わるということは、その楽曲を深く知るということになるので、メロディの構造とか、楽曲の構成とか、あるいは曲調そのものが自分の辞書にはないものだったりするので、とにかく刺激を受けまくります。最近だとflumpoolは最たるところですね。ギターの阪井一生くんがほとんどの作曲を手がけてますが、僕にないアプローチだったりニュアンスだったりをたくさん持ってるんですよね。今後機会があればぜひ一緒に曲を作ってみたいなと思っているうちの1人です。今までは1人で最初から最後まで作り上げることにこだわってましたが、これからはいろいろな方と共作してみたいなとも考えています。

――総括的な質問です。十代のサイモン少年は、ハードロックにはまって、Charとクラプトンをコピーして、ファンクを聴いて、STUFFのリチャード・ティーが好きで……。

生意気でしたね(笑)。年齢に合わない音楽ばっか聴いてたので、友達と音楽の話しても全然合いない少年でしたね。そりゃサイモンと名付けた父親の影響も大きいとは思いますが……(注:彼はサイモン&ガーファンクルが好きな父親により名付けられた本名)。

――そして小沢健二が好きで。その後デビューを果たして、ソングライターとして幅を広げて、今どういうものを作りたいですか。

今、もう一回、聴く音楽をゼロに戻したいなと思ってるんですよ。最近では聴く音楽も少し偏ってたというか、新規開拓を怠っていた部分もあったので、それを一新したいなと。童心に戻って先入観なくいろいろ音楽を楽しんで聴くところから、もう一回やってみたいなと考えてます。どうしても仕事っぽくなってきてたんですよ。聴き方や、聴く音楽のチョイスも含めて。そうじゃなくて、本当はもっといろんな音楽が好きなはずだし、好きだと思ったらもっと掘り下げたい。好きなアーティストの系譜図をたどったり、小学生や中学生の頃はやってたんですけど、大人になるとそんなこともやらずに、インターネットで簡単に調べられるからこそ、調べなくなっちゃってて。とにかく、もっともっと音楽を聴きたいですね。すごくシンプルに。

――ああ~。はい。

最近、あるプロデューサーの方とお話をする機会があって、“君はまだ全然音楽が好きじゃない。もっと好きになれるでしょ”って言われたのがカルチャーショックだったんです。その時はちょうどレコーディングの手法について話してたんですが、僕が“自分が興味あるレコーディング手法は一通りやった感があるんですよね”みたいなことを言ったんですよ。そしたら、僕のCDも全部聴いてくれた上で、“もしそう思ってるんだとしたら、まだまだほんのこれくらいしかやれてないよ”と。音に関してもっとこだわれるところはたくさんあるし、追求できることは無限大だよと。“まだまだ行けるよサイモンくん”という話をされたんです。それで一念発起というか、もう一回ゼロから音楽と向き合ってみようと思ったんですよね。そこからの、今の話です。もう一回童心に戻って、本能的に興味を持ったものを掘り下げてみる。音楽だけじゃなく、映画とか、本とか、旅行とか、そこにぜいたくに時間を使ってみる。もう一度、20代前半にやっていたインプットする努力をやっていきたいなと思ってます。それを経て、次の4枚目のアルバムに行きたいんですよね。

磯貝サイモン  Photo by Taiyo Kazama

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――いいですね。目が輝いてる。

あらためて音楽を好きになれそうだなとも思っています。趣味がないのがずっとコンプレックスだったんですけど、やっぱり自分の趣味は音楽なんでしょうね。それをやっとみつけたというか。

――10年たって。今にして。

今にして(笑)。デビュー前から、趣味をみつけなきゃダメだよってずっと言われてたんですけど、自分の最大の趣味は音楽であり、だったらその音楽を突き詰めていかないと、仕事も中途半端、趣味も中途半端、それじゃ人生も中途半端になってしまうので。人生最大の趣味である音楽を、たまたま仕事にできているというありがたい環境の中で、命の限り突き詰めていかないと。そういうことが、そのプロデューサーの方との話をきっかけに、ガラッと変わってきてるんです。……今日はこんな話、するつもりなかったんですけど(笑)。話してみるもんですね。

――めっちゃいい話。10年たってこんな話ができるとは。

まだまだ、やれることいっぱいあるなーと思ってる自分が楽しみになってます。ワクワクしてる。それを具現化するのは大変だけど、ワクワクするだけならタダですから(笑)。11月22日まで、あと半年ぐらいしかないですけど、そこを一つの目標として、さらに15周年、20周年へ向けて、ワクワクを途切れさせずにやっていこうという、新たな思いが出てきてます。

――その、11月22日のデビュー10周年記念ライヴ。今、内容はどこまで決まってます?

バンドメンバーの発表はしてます。ただ内容は、サブタイトルが「今日は1日予測不能」なので、普通にワンマンライヴをやるだけじゃない。今まで10年間でいろんなことをやらせてもらったんで、それを総括するようなことや、新たなことに挑戦したりとか、いろいろやりたいんですよ。たとえば僕が、ダンスに挑戦してみるとか(笑)。

――どうかな(笑)。それ、要ります?

(笑)。とにかく、新しいことに挑戦するセクションもほしいなと思ってます。音楽以外の要素もあるライヴにしたいなと思ってるんですよ。10年間でお世話になった方にゲストに来ていただくかもしれないし、コラボレーションがあるかもしれない。ま、なんせ半年後なので、これから考えます(笑)。こんなに早く発表することって今まではなかったので(ライヴが発表されたのは公演の8カ月前)。

――ですよね。

今までは単純に早いもの勝ちでスケジュールを決めていくスタンスだったので、ツアーサポートとかが入ると自分の活動が出来ない時期もあったんですけど、2016年からは自分のスケジュールをどんどん先に決めていこうと。11月22日のO-EASTも1年以上前から計画をしていたので、まずはそこを決めて、今年はすべてO-EASTのために、そこに向けて一直線に活動していってます。

――昔ながらのファンも、最近知ったリスナーも。いろんな人たちに来てほしい。

この半年で初めて僕の音楽を知ってくれる方もいると思うし、なんならこの記事を読んで知ってくれる人もいると思うんです。そんな方々にも是非会場に足を運んでもらいたいですね。平日なんですけどね。アニバーサリーライヴが火曜日って大丈夫かな?って一瞬悩んだんですけど、やっぱりドンピシャがいいなと思ったんですよ。

――デビュー記念日ですからね。2006年11月22日。

ドンピシャの日じゃないと、ドンピシャ感のあるライヴは絶対出来ないなと。とにかく11月22日を大きな目標にして、2016年の10周年イヤーは、自分のためにぜいたくに使っていきたいと思ってます。曲のタネは日々生まれてきていて、ここ最近はなかなかそれを形にするまとまった時間がなかったんですけど、4月からはスケジュールにちょっと余裕が生まれつつあるんですよ。今年は意図的にそうしているので、その時間を使って自分の制作意欲をどんどん爆発させていかなきゃなと思ってます。自分の音楽人生として、自分で歌い続けていくことがど真ん中にあるので、これからはそこをもっともっと大事にしていきたいと思ってます。


撮影=風間大洋 インタビュー・文=宮本英夫

磯貝サイモン  Photo by Taiyo Kazama

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ライヴ情報
『磯貝サイモンデビュー10周年記念SPECIAL LIVE~今日は1日予測不能~

日時:2016年11月22日(火) OPEN18:00 / START18:30
会場:渋谷TSUTAYA O-EAST
出演:磯貝サイモン
料金:全自由¥5,000 (税込、ドリンク代別途)
問い合わせ:DISK GARAGE (TEL:050-5533-0888) ※平日12:00~19:00

<BAND MEMBER>
Drums:岡田梨沙 (D.W.ニコルズ)
Bass:海老沼崇史
Guitar:平田崇 (Tahnya)
Keyboard:土屋佳代
Vocal, Guitar & Piano:磯貝サイモン
 
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