月乃助としての最後の舞台! 三越劇場「六月新派特別公演」市川月乃助インタビュー

インタビュー
舞台
2016.5.23
市川月乃助(撮影/大倉英揮)

市川月乃助(撮影/大倉英揮)


歌舞伎俳優の頃から『日本橋』『大つごもり』などの新派の名作に客演し、好評を博してきた市川月乃助。今年1月に河竹黙阿弥家を描いた新作『糸桜』で劇団新派に正式入団し、9月には二代目喜多村緑郎の襲名が控えている。

今回の三越劇場「六月新派特別公演」では、『深川の鈴』で文学青年の信吉役、また『国定忠治』では念願の忠治役に初挑戦する。

『深川の鈴』は作者、川口松太郎の自伝的作品で、実に38年ぶりの上演、深川で紡ぐ繊細な人間模様が魅力の作品だ。一方の『国定忠治』は、徳川治世の天保年間、大飢饉と過酷な年貢の取り立てに苦しむ村民を助けるために、寺院の金蔵を破って村民救出の資金にしたご存じ国定忠治の物語。「赤城の山も今宵を限り」の名ゼリフで知られるヒーロー活劇である。
いよいよ月乃助としては最後の舞台になるこの公演にかける思い、襲名に向けての心境を話してもらった演劇ぶっく6月号のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。
 
市川月乃助(撮影/大倉英揮)

市川月乃助(撮影/大倉英揮)

男なら誰もが憧れるダーティヒーロー
 
──まず『深川の鈴』の役柄から伺いたいのですが。
 
この信吉役は以前、同門の市川春猿さんとの朗読劇で演じたことがあるんです。信吉の純朴さや熱っぽさ、溢れる優しさなど、当時自分の中で膨らんだイマジネーションを、この舞台で表現できればと思っています。あのとき僕が味わった、心がほんわかする感覚を、お客様がご観劇の翌日になっても思い出していただけたらいいですね。
 
──もう一役は『国定忠治』で、まさに月乃助さんで見てみたい! という役です。
 
ありがとうございます(笑)。新派には素晴らしいレパートリーがたくさんあって、もちろんこれからはそういうものをやらせていただこうと思っているのですが、それとは別に歌舞伎を離れた自分にできるものを考えた時、新国劇の作品が浮かびました。新派はやはり女優さんが主人公の作品が多いのですが、自分は立役ですので、男が主役のレパートリーが少しでも増えたらと。ですから、これぞ新国劇の決定版という『国定忠治』を演じさせていただけると決まった時は、本当に嬉しかったです。
 
──忠治の指導はどなたに?
 
この公演にも出てくださいますが、新国劇から劇団若獅子に受け継がれて、ご自身も200回以上『国定忠治』をされている笠原章さんです。「大丈夫だから月乃助さんのいいように」と言ってくださいますが、新国劇の中で脈々と受け継がれてきたものを少しでも多く教わりたいです。忠治は日本の男性が誰もが憧れるダーティヒーローの一人ですから、こんなに光栄なことはありません。「天神山」のところは歌舞伎で言えば大時代、様式美です。「山形屋」が世話物、「小松原」は殺陣で舞の要素を感じます。義理人情の台詞をいかに美しく、新国劇の中での「時代らしさ」で聞かせるか。今はまず新国劇のエッセンスを徹底的に頭と身体に叩き込んで、丁寧に最後まで演じ切りたいです。
 
──2つの役をふまえての今公演の見どころは?
 
『深川の鈴』は大正、『国定忠治』は幕末と、時代は違っても市井の人たちの叫び、情の交流が共通テーマで、それはどんな時代でも通じると思います。とくに『国定忠治』はぜひ男性に観てほしいですね。頑張る男性への応援歌になると思いますし、骨っぽい男たちのドラマに憧れる気持ちは、日本人なら絶対にまだ残っているはずですから。
 
市川月乃助(撮影/大倉英揮)

市川月乃助(撮影/大倉英揮)

バトンを受け継ぎ、次に継承していきたい
 
──新派に正式に入団してから3ヵ月経ちましたが、改めて感じたことは?
 
3月の国立劇場公演で劇団員の多くが揃いました。そして、とにかく芝居を支えるためにはどんな仕事もするという気持ちが強い方ばかりだなと。新人にも懇切丁寧に、時に厳しく教える姿を見て“家族”だと感じました。明治大正のあの味、雰囲気は新派にしか出せないもので、僕もそこを目指していかなければと諸先輩を見て痛感しました。
 
──9月には、いよいよ二代目喜多村緑郎の襲名ですね。
 
移籍となった時点から決意は固まっておりますので、あとは全身全霊で向かっていきたいです。新橋演舞場という新派のホームグラウンドで披露させていただけることは本当に嬉しいです。また水谷八重子さん、波乃久里子さん、歌舞伎からは苦楽を共にした市川猿弥さん、春猿さん、僕の歌舞伎最後の舞台、『あらしのよるに』で共演した尾上松也さんが出てくださることになり、皆さんにとても感謝しておりますし、本当に心強いです。
 
──最後に「三越劇場公演」への意気込みを改めてお願いします。
 
入団第一作に『糸桜』という新作で華を添えていただき、市川月乃助として最後の舞台では師匠猿翁から勧められていた念願の『国定忠治』、さらには二代目喜多村緑郎という大きな名を継がせていただけることを幸せに思っています。初代は新派の礎を作られた方ですので、僕も新派の新しい可能性を含めて、微力ながらも模索していきたいです。先輩方からのバトンを受け継ぎ、それが何なのかも勉強しながら、次に継承していきたいし、我々の世代の「新派」をこれから作っていきたいと思っています。
 
市川月乃助(撮影/大倉英揮)

市川月乃助(撮影/大倉英揮)

いちかわつきのすけ○新潟県出身。88年3月国立劇場第九期歌舞伎俳優研修修了。同年4月歌舞伎座『忠臣蔵』で初舞台。同年7月、市川段四郎門下となり10月から市川段治郎を名のる。94年3月三代目猿之助(現猿翁)の部屋子となる。11年12月、二代目市川月乃助を名のる。新派公演は波乃久里子と共演した『日本橋』(11年)で初参加。その後『葛西橋』『舞踊 小春狂言』『滝の白糸』(12年)、『お嬢さん乾杯』『婦系図』(13年)、『螢』『江戸みやげ 狐狸狐狸ばなし』(14年)『大つごもり』(15年)に出演。16年1月「初春新派公演」から劇団新派に入団。9月に二代目喜多村緑郎を襲名する。

【取材・文/内河 文 撮影/大倉英揮】

〈公演情報〉

『六月新派特別公演』
・深川の鈴 
・国定忠治―赤城天神山より小松原まで―
出演◇波乃久里子 市川月乃助 笠原章 伊吹吾郎
●6/2~25◎三越劇場
〈料金〉¥9,000(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489 http://www.shochiku.co.jp/play/others/schedule/2016/6/post_267.php

 
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