東京交響楽団、2017/2018シーズンプログラムを発表!

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2016.9.3
東京交響楽団が4月にシーズンを開幕するオーケストラの先陣を切ってプログラムを発表した (c)N. Ikegami

東京交響楽団が4月にシーズンを開幕するオーケストラの先陣を切ってプログラムを発表した (c)N. Ikegami

東京交響楽団の2017/2018シーズン、すなわちジョナサン・ノットとの第4シーズンとなる2017年4月から2018年3月までのプログラムが9月1日に発表された。例年通り定期演奏会はサントリーホールを会場に年10公演(註・改装閉館中の4〜7月はミューザ川崎シンフォニーホール)、東京オペラシティコンサートホールでの「東京オペラシティシリーズ」(全六回)そして本拠地ミューザ川崎シンフォニーホールでの川崎定期演奏会(全五回)、そしてホールとの共同企画「名曲全集」(全一〇回)、そして恒例の特別演奏会の数々はどれを取っても魅力的なものだ。そんな東京交響楽団の次期シーズンが如何なるものとなるのか、本稿では定期演奏会に焦点をあてて読み解いてみよう。

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まず注目したいのはやはり音楽監督を務めるジョナサン・ノットとのコンサートだ。発表されたスケジュールによれば、2017/2018シーズンには2017年の5、7、10、12月と、ことし同様四回来日する。新シーズン最初の登場となる5月には先日大好評を博したブルックナーを、それも音楽としての完成度の高さから交響曲第八番と並んでブルックナーの最高傑作とされる第五番を取り上げる。続いて7月にはマーラーの第二番「復活」を、10月には変奏曲をテーマとしただろうかシェーンベルクとラフマニノフ、そしてラヴェルの「ボレロ」による実に彼らしいプログラム、12月にはノットが偏愛するリゲティとシューマン、ベートーヴェンのドイツ音楽によるプログラムと、いずれ劣らぬ刺激的なプログラムが用意された。

ブルックナーにしてもマーラーにしても、大作一曲でも十分に充実した音楽会となるところに、ノットは彼ならではの”ひと味”となるもう一曲を加えている。例えば5月には小曽根真を迎えたモーツァルトでコンサートを始めることで、堅牢な構成のブルックナーとの対比はより強く感じられるだろうし、7月の「復活」の前に細川俊夫の「嘆き」を取り上げることで劇的なマーラー体験をより深めてくれることだろう。

また、東京オペラシティシリーズでは”ハーマン、バートウィッスルとベートーヴェン”(2017年5月)、”ハイドンとモーツァルト”(同10月)と、これまた彼ならではのプログラムが用意されている。

一筋縄ではいかない挑戦的なプログラムが並ぶ中でも、ホルンアンサンブルを迎えるリゲティ&シューマンと、ベートーヴェンの「英雄」を一つのコンサートで取り上げることの困難は想像に難くない。このコンサートの前にはきっと、私がこれまで取材してきたもの以上の、厳しいリハーサルが行われることだろう。しかし共演を重ねるごとにより表現を深めてきた”ノット&東響”がこのハードルをも超えてくれるだろうことを、私は疑っていない。だがその音楽はどんなものになるのか、コンサートはどのような体験となるのか?そしてこのコンビネーションはこのシーズンではどれほどの高みにまで昇ろうというのだろうか?その成果はぜひ、皆様がコンサート会場で確かめてほしい。

ジョナサン・ノットと東京交響楽団は共演のたびに関係を、その音楽を深めている (c)N.Ikegami

ジョナサン・ノットと東京交響楽団は共演のたびに関係を、その音楽を深めている (c)N.Ikegami

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現在、首席客演指揮者こそ空席だが、東京交響楽団の指揮者陣は非常に充実しており、定期演奏会にはさらに三人の同団のポストにある指揮者たちが登場する。

桂冠指揮者の秋山和慶はモーツァルトからブラームスまで、ドイツの本流的なプログラムを披露する(2017年6月)。円熟の秋山の指揮にはもちろん期待だが、この公演ではホルン奏者、フェリックス・クリーザーの登場が話題を呼ぶだろう。生まれつき両腕がないクリーザーが足の指で巧みにバルブを操作し、実に見事な演奏を聴かせる動画をご覧になった方も多いだろう。とはいえ、すでにレコーディングも好評で迎えられている彼の演奏についてハンディキャップどうこうと言い立てる必要もないだろう、彼の音楽に注目したい。

”秋山&東響”のコンビネーションはもはや揺るぎないものだ (c)N Ikegami

”秋山&東響”のコンビネーションはもはや揺るぎないものだ (c)N Ikegami

そして同じく桂冠指揮者であり、まもなく注目の「ファウストの劫罰」を指揮するユベール・スダーンは来季にはレーガーとダンディ、そしてドヴォルザークの「新世界」と、大人らしいプログラミングで登場する(2017年11月)。この選曲は一見すると渋すぎるように思われるかもしれない、しかしレーガー晩年の組曲は”隠れた名作”と言うにふさわしい充実した作品であるし、ダンディの「フランスの山人の歌による交響曲」はかつて多く録音もされた名曲だ。それらを受けて演奏される「新世界より」はどう響くだろうか、充実した演奏を期待しよう。

スダーン時代があったからこそ、現在の東京交響楽団があるといえよう

スダーン時代があったからこそ、現在の東京交響楽団があるといえよう

正指揮者として長く東響と共演し、つい先日もガブリイル・ポポーフの交響曲第一番の日本初演を大成功させたばかりの飯森範親は、次期シーズンの定期でもロシア音楽プログラムを披露する(2018年1月)。プロコフィエフ交響曲とピアノ協奏曲それぞれの第一番という、全く性格の異なる二つの作品と、誰もが知る名曲「展覧会の絵」というプログラムは聴衆を大いに楽しませてくれることだろう。若きヴィルトゥオーゾ、アレクサンダー・ガヴリリュクにも注目だ。

8月にはポポーフの日本初演を大成功に導いた飯森範親

8月にはポポーフの日本初演を大成功に導いた飯森範親

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年10回の定期演奏会のうち4回を音楽監督自ら指揮し、団のポストにある指揮者が三人登場する以上、客演指揮者を招いて開かれる演奏会はわずか三回しかない。偶然なのかなにかの目論見があるのかにわかには判断できないが、その限られた椅子を勝ち得て東京交響楽団に客演するのはノット監督(1962生れ)と同世代の、経験を積んですでにその才能を証明してみせたマエストロたちだ(ちなみに飯森範親は1963年生れ、彼もまた同世代である)。

まず2017年4月のシーズン開幕公演には、これまでも多く共演を重ねてきた沼尻竜典(1964年生れ)がグバイドゥーリナ作品の日本初演、そして大管弦楽の魅力が発揮されるホルスト「惑星」を携えて登場する。独奏チェロに堤剛を迎えて行われるオープニングコンサートは華やかなものとなりそうだ。

そしてサントリーホールに戻って最初に開催される2017年9月の公演には、2013年の初共演がオーケストラ、聴衆双方から好評で迎えられたアレクサンドル・ヴェデルニコフ(1964年生れ)が再登場し、ヒンデミット、ストラヴィンスキーとシベリウスによるプログラムを指揮する。前回はロシアの知られた作品による名曲プログラムだったが、今回は近代の比較的知られざる名曲を取り上げるかっこうだ。ロシアの音楽家による「詩篇交響曲」、果たしてどのような音楽となるだろうか……

2018年3月にシーズンの掉尾を飾るのはマーク・ウィグルスワース(1964年生れ)だ。「ニーベルングの指環」オーケストラル・アドヴェンチャーの好演(2014年)も記憶に新しい彼の再登場は、多くのファンが待望していたところだろう。ブルックナーの交響曲第四番をメインにおいた定期演奏会に加え、東京オペラシティシリーズにも登場するあたりから東響から彼への信頼が伺えるところだ。

このように、ノット監督と同世代の言うなれば脂の乗り切ったマエストロたちと、その先輩世代の二人の桂冠指揮者が繰り広げる東京交響楽団の定期演奏会は聴き逃せないものばかり、である。四公演に登場する東響コーラスの活躍にも注目したい。

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定期演奏会のほかにも数多くの注目すべきコンサートの予定が発表されているので、以下短く触れていこう。

東京交響楽団名誉客演指揮者の大友直人は、2017年9月の東京オペラシティシリーズに登場し、「三人の会」(芥川、團、黛)と、千住明のオペラ(抜粋)を組合わせたプログラムを披露する。近年再評価が進む「三人の会」の代表作にまた新たな名演が誕生するだろうし、繊細な美しさが魅力的な千住明作品は、身構えずに日本のクラシック作品に近づくいい機会となるだろう。

2017年10月の川崎定期演奏会に登場するダニエル・ビャルナソン(1979年生れ)については、クラシック音楽ファンでもそうご存知ではないかもしれない。アイスランドの作曲家・指揮者として作曲の傍ら、自作も含めた指揮活動も行っている彼の場合、指揮活動よりもむしろ、ベン・フロストとのコラボレーションでタルコフスキーの映画「ソラリス」にインスパイアされた作品をリリースして話題となったことでご存知の方も多いだろうか。今回東響とは自作の日本初演からショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第一番と、「シェエラザード」を並べたプログラムを用意してきたが、果たしてその意図はどこにあるだろうか?即興的セッションを重ねて自作を作り出す彼ならではの”読み”を会場で確かめたいところだ。

指揮者としてヘルマン・ボイマー(1965生れ/2017年9月 名曲全集)を知らないクラシック音楽ファンは少なくないかもしれないが、彼の”音”は多くが聴いているはずだ。というのも、彼は2004年までベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のバストロンボーン奏者として活躍していたから、ベルリン・フィルの来日公演や録音などで彼の音に触れているはず、なのだ。現在はオスナブリュック市立劇場管弦楽団の音楽総監督を務めるなど指揮者として活躍している彼が用意したプログラムは、トランペット協奏曲にヤナーチェクの「シンフォニエッタ」と、管楽器の活躍が魅力的なものだ。長年の経験をも活かし、その本領を発揮してくれるコンサートとなることだろう。

また、次期シーズンに登場する指揮者たちの中で最も若い世代は1983年生まれの二人だ。
まずひとりめのロベルト・トレヴィーノ(2017年6月 東京オペラシティシリーズ)は主にアメリカで活躍するマエストロ、近年のNHK交響楽団への客演でもご存知の方も多いだろうか。前橋汀子を迎えて日本初演も含めた20世紀フランス、ロシア音楽を取り上げる。
そしてもうひとり、ヘルムート・ライヒェル・シルヴァ(2017年5月 名曲全集)は、2015年のブザンソン国際指揮者コンクールで3位に入賞した注目の若手指揮者だ。チリ出身でヴァイオリニストとしてキャリアを開始し、すでにコンサートとオペラ両方で活躍している。”注目の若手”との演奏で指揮者の表現によく応える東京交響楽団となら、彼らも存分にその才能を示してくれることだろう。

また、ミューザ川崎シンフォニーホールの名物シリーズ「名曲全集」には、ノット、秋山、飯森に加えて尾高忠明、井上道義、飯守泰次郎、下野竜也ら日本の誇るマエストロたちがそれぞれに趣向を凝らしたプログラミングで登場するのも興味深い。どれを取ってもありきたりでないプログラムが並ぶ中でも、<ラプソディ特集>と題したプログラムを用意した井上道義、めったに演奏されないオネゲルの交響的運動「ラグビー」ほかを取り上げる秋山和慶は要注目である。

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こう見てくると、慣れ親しんだ音楽はより充実した新鮮な演奏で、新しい作品は最高の仕上がりで聴衆を楽しませてくれるだろう東京交響楽団の2017/2018シーズンが今から待ち遠しく思われるところだが、今はまず充実のジョナサン・ノットとの第3シーズンを楽しもう。この週末には俊英ロレンツォ・ヴィオッティ(1990年生れ!)が再登場してベートーヴェンと劇場的なプログラムを取り上げる。そしてその次はユベール・スダーンとの「ファウストの劫罰」が、そして10月には待望の欧州ツアーへと続いていく。新シーズンの予定の詳細は団の公式サイトで精読いただくとして、いま目の前で創り上げられている東京交響楽団の黄金時代もぜひ、お聴き逃しなきよう。

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