趣味は「選曲」局アナとディレクターの二人三脚【SPICE対談】ラジオの中の人 第四回・TBSラジオ パーソナリティ駒田健吾×ディレクター菊池靖紀
音楽と人の声を届け続けるラジオ番組を作る人たちに、放送では聞けない裏話を聞く対談企画「ラジオの中の人」第四回目にお迎えしたのは、TBSラジオ「Fine Music」を作っているパーソナリティ・駒田健吾さんとディレクター・菊池靖紀さん。
駒田さんといえば、テレビに出演するアナウンサーとしてのイメージが強い人も多いと思うが、実は公式プロフィールに「選曲」と載せるほどの音楽好き。一方、ディレクターの菊池さんは、FMラジオ局が続々と開局した黎明期から今も現役で活躍するベテランディレクターで、お二人によるコンビネーションはバツグンのひとこと。
そんなお二人の肝入りの選曲が味わえるラジオ番組「Fine Music」や音楽のルーツなど、放送では聞けない色々を伺ってきた。
伝える人:パーソナリティ 駒田健吾さん
作る人:ラジオディレクター 菊池靖紀さん
――お二人は、ご一緒にお仕事されてどれくらいですか?
菊池:2007年にKakiiinが始まった時からなので、今10年目です。Kakiiinのアシスタント・プロデューサーが新しい番組を始めるにあたって、声かけてもらって。その後番組プロデューサーの内田さんとお会いしてやることになりました。
駒田:番組始める時に、TBSラジオ系列の会社の人はもちろん、TBSラジオに触れてない人とか、始めたばかりの人たちでやろうってなったんですよね。多国籍軍みたいな感じで(笑)
――新しい風を入れたかったんでしょうか。ゲストでも、若いバンドもよく出演されていましたよね。
菊池:最初の頃はバンドではなく、ビン集めてる人とか、一芸持ってる面白い人たちがゲストだったんです。
元々Kakiiinはナイターオフの半年間タームの番組だったので、途中からアシスタント・プロデューサーの提案で、その半年の間で何組かのアーティストにコーナーを持ってもらって、番組とコラボレーションして曲を作ってもらおうということになったんです。それが、バンドとか音楽アーティストのゲストが入ってくるようになったきっかけかもしれない。
駒田:「音楽を聴いていたあの頃」っていうのが番組のテーマだったので、例えばリスナーが40代50代だとしたら、80年代とか60年代の有名な曲を流そうっていうのが最初のコンセプトだったんです。
だから、ビンマニアとか団地マニアとかラブホテルマニアとか、いまでこそテレビでそういう方々が活躍されていますけど、Kakiiinはそのさきがけだと思っていて。映画マニアの有村昆さんとか、結構我々の番組に出てくれた人がのちのち活躍してるんですよね。
菊池:ラブホテルマニアの人も結構活躍してるよ(笑)
駒田:最初はバラエティの要素も入れようとしていたんですけど、いわゆる僕らがシーズン2と呼んでいる、ナイターオフ2周目の時くらいから完全に音楽志向になりました。今菊池さんが仰ったように、フレッシュなアーティストと番組とで一緒に曲作って、彼らが売れたら乗っかろうっていう裏コンセプトもあるんですけど(笑)
――実際にアーティストと一緒に曲を作ったりもされたんですか?
駒田:はい。吉田山田と作った「ハロー・グッバイ」とか。
菊池:テレ東のカラオケバトルで活躍されている城南海さんとも。
駒田:いろんな人達とやりましたね。
幻の番組イベント
――番組でイベントもやられてたんですよね。
菊池:Kakiiinが通年放送になったタイミングで赤坂サカスでTBSがイベントをやっていて、その中で音楽イベントを頼まれたのがきっかけですね。
駒田:そこから始まって、終盤はライブハウス借り切ったりとかもしていました。
菊池:2009年〜10年までと、2010年〜11年までの2シーズン(※この頃のKakiiinはシーズンオフ編成)の間、80年代に活躍してたいわゆるレジェンド的なアーティストに、日替わりで1時間コーナーを担当してもらうようになったんですよ。デーモン閣下、SHOW-YAの寺田恵子さん、槇原敬之さん、バービーボーイズの杏子さんとか。
それで、2シーズン目のときの一番最後に、その時出演していたサンプラザ中野くんを中野サンプラザに立たせようって話があって。
駒田:(中野サンプラザに)立ったことなかったんですよ。
菊池:3月にサンプラザ押さえて、番組でイベントやろうとしてたんですよ。でも、東日本大震災が発生して、中止になってしまいました。
駒田:あれがもしできてたら、もうちょっとあの番組続いてたかもしれないですね。
――幻の中野サンプラザになってしまったんですね。
駒田:あれは本当に悔しかったですね。でもしょうがないので。
――ご出演予定だった方は、ほかにもいらっしゃったんですか?
菊池:その並びで出演していた方々は皆さんご出演される予定でした。デーモン閣下、槙原さん、(PERSONZの)Jillさん、サンプラザ中野くん。
駒田:実現してたら相当面白かったんですけどね。
――イベントのリベンジは叶わなかったんですか?
駒田:全然叶いませんでしたね。その代わり、渋谷のO-Crestで「LIVE Kakiiin」と称して、若手のバンドの対バンをやったりしていました。
菊池:番組イベントの一番最後は招待イベントで、リップスライムのRYOJIさんとFantastic Plastic Machineの田中さんに出てもらって。
駒田:あとi-depのナカムラヒロシさんと三つ巴で、DJ対決みたいなのやってもらったんですよね。「珍しい曲をかけあう」っていうコンセプトだったんですけど、最後の方はエロソング縛りみたいになっちゃって(笑)あれ面白かったですよ。
パーソナリティを支える生き字引のディレクター
――番組にゲストを呼ぶにあたって、駒田さんもリクエストされてたりしたんですか?
駒田:はい。いただいたCDを聴いて、ライブにももちろん足を運んで。いいなと思ったゲストをスタッフと相談して決めたりしてましたね。ライブは菊池さんほどじゃないですけど、あの頃はよく行ってましたね。
菊池:今は平日の夜が仕事だから、なかなかライブに足を運べなくなってしまったよね。
駒田:土日しかライブに行けないので、今のロックなシーンの音とかは全然聞けなくなってしまいましたね。CDだけは聞いているんですが。
――CDはちゃんとチェックされているんですね。
駒田:全部聞かないとわからないので。最近はようやくいろんなところにスポットライトが当たるようになりましたけど、テレビから流れてくる音楽は相変わらず、アイドル・ジャニーズ・K-POPが中心。Kakiiin時代からずっと、その補完をしたいなと思ってるんですけど。この前NHK BSの「COVERS」を見て、世代を超えて本当に歌のうまい人が出てくるので、いい番組だなあと思いました。
ああいう番組はラジオの方がやりやすいと思いますから、それはガンガンやっていきたいなとは思っていますね。
――そんな思いがFine Musicには反映されているんですか?
駒田:してると思います。時間が短いので、トークはほとんどありません。
菊池:そうですね。放送局のスタッフの意見としては、駒田健吾というパーソナリティはゲストとのトークはある程度完成しているから、この番組を始めるにあたって、今度は駒田健吾の言葉で音楽を紹介する番組をやってみようという方針になったんです。
駒田:放送局のスタッフからは、曲がメインの番組だから、選曲を頑張って鍛えてみろって言われたんですよ。で、予算はないからスタッフは一人だけって言われた時に、Kakiiinの時に一緒だった菊池さんにお願いしたんです。
菊池さんは、僕の10歳上なんですよ。だからリアルタイムに70年代から音楽を聴いて、ずっと音楽の仕事もしているから音楽知識も素晴らしくて、本当に生き字引のような人なので。もうこの人がいないと無理です(笑)
菊池:僕は始まる当初は、(駒田さんは)そろそろ若手とやった方がいいんじゃないかなと思ってたんですけどね。
ラジオ業界全体そうなんですけど、今は若い人たちがディレクターまでやらせてもらえないんですよね。僕がラジオの仕事始めた当初に比べても、ディレクターになれる年齢がたぶん下手したら五歳くらいは上がってる。僕が若い頃は、今の僕の年で現場やってる方はほとんどいなかったんですよ。でも今は、今の僕より上の世代の人も現役でディレクターをやっていたりする。
駒田:それと、音楽に熱い人が少ないっていうのも一因な気がしています。やっぱり40代以上の人って、バラエティを担当してようがスポーツを担当してようが音楽好きなんですよ。20代でも熱いやつはいるけど、本当少ないんですよね。
だから、ベテランの人が音楽番組を作る土壌がTBSラジオにはあるのかなという気がしていて。やっぱり音楽が好きじゃないと一緒にやってても楽しくないですしね。
菊池:あと、自分が疑問に思ったときに、返事が返ってこないっていうのは致命的だからね。
駒田:音楽って、年代も、古今東西、アフリカなんかも含めたらめちゃくちゃ広いじゃないですか。僕が音楽聴き始めたのはテレビのベストテンから始まって、中学くらいからラジオ聞くようになって、ラジオの音楽番組を聴いてた。そうなると、だいたい当時の邦楽のど真ん中のロックか、洋楽で流行ってるものしか聴いてないわけですよ。そこからKakiiinで新しい音楽をすごく吸収して、そこで一気に広がって。言うても、にわかなんですよ、僕なんか。だから菊池さんみたいに、ちゃんと芯から音楽を知ってる人じゃないと、僕の疑問には答えられないんですよ。
青春時代に寄り添ったラジオ、音楽知識を培ったラジオ
――ここまでラジオ番組を真剣に作っていらっしゃるのは、ご自身がラジオが好きだった背景もあるのでしょうか?
駒田:そうですね。夜7時くらいから深夜3時くらいまでラジオを聞いているような青春時代でした。マイナーな曲もけっこうかかるんですけど、それがけっこう心に残ってたりします。
たとえば、とんねるずのオールナイトニッポンでかかってた真璃子っていう女性アーティストが、僕の記憶にすごく残っていて。それを、アナウンサーになって自分の番組でかけたら、うすーくリアクションが来たりするんですよね(笑)それが嬉しかったり。
昔ラジオ聴いてたっていうのは、すごく今に繋がってると思います。
――菊池さんもラジオっ子だったんですか?
菊池:聞いてもいたし、ずっとラジオの仕事をしているので。それこそ(駒田さんが)大学で東京に出てきたら、僕が作ってた番組を聞いてた可能性があるぐらい。
駒田:聞いてる可能性大ですね。僕、東京出てきた時、最初テレビ持ってなかったんです。ずっとラジオを聞いていましたから。
菊池:元々は技術で入って、ミキサーをやっていたんですけど、三年目ぐらいからディレクターも始めました。
そこでその当時から、洋楽とかワールドミュージックとか、音楽を仕事しながらたくさん聴かせてもらってました。今もやってるサウージ・サウダージ(※J-WAVEで放送中の番組)もミキサーとして3、4年一緒にやってました。
番組ではブラジル音楽とか、中南米の音楽、ヨーロッパの英語圏じゃないところの曲を流したりしていたので、そこで色々吸収させてもらいましたし、あとはAORに詳しい中田利樹さんともご一緒して、AORをたくさん聞かせてもらっていた。
元々持っていた音楽の知識に、今まで聞いてこなかったジャンルのものがオンされましたね。
駒田:僕もTOKYO FMでバイトしてた時はたくさん吸収しました。ラジオ局行くと、たくさんCDが置いてあるんですよ。当時は学生でCDが買えないので、借りたりしてましたね。本当に夢のような場所でした。
菊池:いわゆるハウスミュージックというものが出てきた頃に、番組で扱っていたりとかもしました。
駒田:ほらね、生き字引なんですよ(笑)
菊池:今イギリスではレイヴっていうのが流行っているらしいよ、って言って、有名なDJが手がけた音源を持ってきて流したりしてましたね。
前編でも、既にお二人の二人三脚ぶりが伝わっているのではないだろうか。
ジューク・ボックスのように良い音楽をたっぷり聞かせてくれる「Fine Music」の選曲へのコダワリなどを伺った後編は、近日公開予定。
●伝える人:駒田健吾さん
1974年、兵庫県生まれ。TBSの看板アナウンサーとして、現在NEWS23ほかに出演中。趣味のひとつに「選曲」と挙げるほどの音楽好きで、かつてTBSラジオで放送していた音楽番組「Kakiiin」のパーソナリティとしてさらに数々の音楽に出会う。
●番組を作る人:ラジオディレクター 菊池靖紀さん
ラジオディレクター。ミキサーとして黎明期のFM局で活躍したのち、ディレクターに転向。駒田アナとは「Kakiiin」の頃から二人三脚で番組を制作してきた。「Fine Music」では選曲も行っている。
パーソナリティ:駒田健吾
毎回、自由にテーマを決めて新旧洋邦、無数の楽曲の中から選曲し、様々な音楽で1日の始まりを告げる番組です。
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