ツボを突く選曲でタイムフリー時代に切り込む【SPICE対談】ラジオの中の人 第四回・TBSラジオ パーソナリティ駒田健吾×ディレクター菊池靖紀

インタビュー
音楽
2016.11.25

画像を全て表示(6件)

音楽と人の声を届け続けるラジオ番組を作る人たちに、放送では聞けない裏話を聞く対談企画「ラジオの中の人」第四回目は、TBSラジオ「Fine Music」を作っているパーソナリティ・駒田健吾さんとディレクター・菊池靖紀さんをお迎えした。
ひとくちにラジオと言っても、AMラジオはどちらかといえばおしゃべりやスポーツ中継、一方でFMラジオは音楽がメインと伝統的に住み分けられているものだが、この「Fine Music」はAMであるTBSラジオの番組でありながらも、ほとんどジューク・ボックスのように良い音楽を流し続けてくれる、ちょっと異色のラジオ番組なのだ。
無類の音楽好きでもあるお二人の、対談後編を早速ご覧いただきたい。

対談前編はコチラ

伝える人:パーソナリティ 駒田健吾さん 
作る人:ラジオディレクター 菊池靖紀さん 

選曲に対する、並々ならぬコダワリ

――Fine Musicの「麗しの70年代、80年代」とか、本当に良い特集だと思います。テーマはいつもどのように決めているんですか? 

駒田:でも、Kakiiinの時からやってたから、もうなんかいい加減卑怯だなと思ってきています(笑)。80年代とか90年代とかもうやめようと思って、今日の収録ではストリングスVSブラスみたいなテーマで古今東西混じった選曲をしました。でもネタはどうしても尽きるから、時期に合ったものに変えていったりとかしたんですけど。 
たとえば楽器縛りとかになると、すごく悩むんですよ。有名な曲はすぐ集まるけれど、それだけだと悔しいよねっていう。Kakiiin時代からコンセプトとして、アルバムの中から一番有名な曲より、次かその次の曲がいいよねっていう温度感でやっていたので、身に染み付いているからそれは頑張って選べるんです。そうすると、今度は曲の繋がりがネックになってくる。 
たとえば、スティーヴィー・ワンダーの曲を流した後に、次はスティーヴィー・ワンダーの曲のインコグニートのカバーを流したりとか。曲同士に繋がりを持たせようとして考えていくと、実はめちゃくちゃ大変なんですよ。僕が選曲する番組だったんですけど、NEWS23が始まって忙しくなったので、今は僕と菊池さんが交互に選曲する番組に変わったんです。 
選曲ってホント大変。手抜いたらすぐバレるし(笑)、明け方までかかって選曲したんだけど、菊池さんもうダメです〜〜〜〜って(笑) 。

菊池:でも、録音番組のFine Musicになってから、フットワークは意外に軽くなったかもしれない。だって、デヴィッド・ボウイが亡くなってすぐに特集やったし、ボブ・ディランもノーベル賞授賞後すぐに特集できましたし。 

駒田:たまたま選曲の締切に間に合わなくて悩んでいたところで、ボブ・ディランがノーベル賞を授賞したニュースが飛び込んできて、ちょうど収録に入れ込むことができたんです。 

菊池:だけどボブ・ディランは、(駒田さんが)「ノーベル賞とったから特集やりたいんだけど、選曲はやっといて」って(笑) 。

駒田:もうテレビで流れまくってる曲とか、この曲とこの曲はかけないで、っていう注文はしました。 

菊池:とか、これは絶対かけたい、とかね。 

――もう完全に二人三脚なんですね(笑)選曲する時の動機って、その曲に日を当ててあげたい気持ちだったり、いい曲があるからシェアしてあげたい気持ちだったりすると思うんですが、どんな思いで選曲してるんですか? 

駒田:僕は、まさにその二本立て。新譜でもそうですけど、全然日の目見てないのにいいなっていう曲は紹介したいと思います。僕が数年前から推してるのは竹原ピストルさん。何回か番組でもかけています。 
あと、いろんな世代のリスナーがいらっしゃるので、懐かしい曲でも隠れた名曲を掘り起こしたり、これフルコーラスで聞いたら絶対いいよっていうやつをかけたりはしていきたいなって思ってます。 

菊池:Fine Musicは基本的に、曲をフルコーラスでかける番組なんですよ。TBSラジオのほかの番組でも、そういうのはあまりないと思うんですよね。 

駒田:だからやっぱり8分とか10分とかの曲になると、これフルでかけたら他の2曲が入れなくなっちゃうので悩んだりします。Kakiiinのときは放送時間が長かったので、結構気楽にかけられましたけど、Fine Musicは時間が短いので。 

――やっぱり、曲はフルコーラスで聞かせたいと思うんですか? 

菊池:曲にはストーリーがあるじゃないですか。ということは、最後まで聞かないと結論が出ない。

 
駒田:ちゃんとCD時代に聞いてた人って、たとえばカセットテープに吹き込んだ場合、早送りなんかあんまりできないから、最後まで聞くじゃないですか。そうすると、久保田利伸さんなんかだと曲の最後の方にシャウトしたりするから、それが聞けないと終わった感じがしない。だから、アウトロの最後の最後まで鮮明に記憶に残ってる人なんかは、ここで切るのかよってなっちゃうし、僕が逆の立場だったら嫌だから。アウトロの美学みたいなものは絶対ありますよね。 

――アーティストとしては、絶対そっちの方が嬉しいですよね。 

菊池:よくあるのは、ギタリストが、「俺のギターソロに乗りやがって」っていうの(笑) 。

駒田:本当はイントロにも乗りたくないんですけど、どうしても乗らなきゃ紹介できないんで(笑) 。

――駒田さんは公式プロフィールの趣味の欄に「選曲」って書いてあるぐらいですもんね。楽しんでいらっしゃるんですよね。 

駒田:そうですね、楽しくもあり、苦しくもありですね。結婚式の選曲とかも趣味でやってましたけど。 
選曲って面白いですよ、やっぱり。だからDJの人ってその極みですよね。あそこまで24時間音楽のことは考えられないけど、選曲は楽しいです。仕事じゃなきゃもっと楽しめるかもしれないけど(笑) 。

radikoタイムフリーと聞き放題で、音楽の聞き方は変わるのか?

――音楽の聞き方がすごい変わったじゃないですか、今。 

駒田:そうですね。その分反動も出てくるような気がしていますけど。今、カセットテープがちょっとブームになりつつあったり、レコードの出荷枚数が増えてきたりしているじゃないですか。音楽に対する取っ掛かりが、サブスクリプションサービスの聞き放題でもいいんですけど、たぶん聞いているうちにもっと知りたくなってくると思うんですよね。知りたくなればCDとかレコードに手を出すと思うから、その魅力は伝えていきたいと思っています。 

菊池:満たされてると逆に、探したり聞こうとしなくなると思いますよ。いつでも聞けるから。 

駒田:今って、スマホも流通しているし、寂しい時間が少ないと思うんですよ。何かしら相手があるから。僕らがCDとかレコード聞く時間って、本当に何でもない時間だったじゃないですか。暇つぶしに、スマホなんかなくて音楽を聞いてたから、音楽にのめり込むことができた。 
今の人達って本当にやることが多すぎるし、恵まれてるから、音楽に関してはCMやテレビ、映画とかから流れてくるような音楽しか知らないかもしれない。でもたぶん、また周ってくると思うんですよ。音楽好きな人はちゃんと聞く。聞くスタイルは変わってもそんなに心配していませんね。 
僕、高校時代は、電車乗ってる時にポータブルCDプレイヤーで音楽を聞いてたんですけど、移動中に聞いた音楽って心に残るんですよね。 
たとえば部活で対戦に行く時、彼女に会いに行く時とか振られた後、音楽聞くとするじゃないですか。何か出来事とか目的があるときに聞いてる音楽ってすごく残るんですよね。今はもっとかんたんに、スマホで月1000円くらいで聞き放題だけど、電車の中でスマホで聞いてても「落ち込んでた時に流れてきたこの曲」は絶対残る。そうすると、そのアーティストをもっと知りたくなって、CD買おうってなってくると思うんですよ。 

秤谷:生活に密着してるんですよね。僕、仕事でめっちゃムカついてる時にメタリカが流れてきて、速攻で『ブラック・アルバム』買いに行きましたし(笑)。

駒田:そういうのそういうの(笑)。今、ラジコのタイムフリーが始まりましたけど、Fine Musicなんかはほぼジュークボックス状態の番組ですからそういうふうに聴いていただけると非常にありがたいです。わざわざ朝5時に起きなくても(笑)作る側はそれも意識するようになりますね。 

――意識してどんなところが変わりましたか? 

駒田:今日の収録で、いわゆる誰が聴いても知ってる曲っていうのを入れ忘れてしまったんです。 
この間、AC/DCを知らない音楽プロデューサーに出会ったんです。「AC/DCって何の略?」って言われて、お前、嘘でしょ!って。でも彼はその後「音楽プロデューサーっていうのは俺みたいな奴でもわかる曲をやんなきゃいけないんだ」って言ったんですよね。僕は彼の考え方が好きで、一理あると思うんです。 
それを踏まえて、今日の選曲の中に彼でもわかる曲を入れたかと言われれば、入れてないんです。それ一個ぐらいは入れないとダメじゃないですか。選曲に夢中になりすぎて、そういうのを忘れてたんですよ。たぶんスマパンとか彼、知らないです。 

菊池:でも、インコグニートぐらいは知ってるんじゃないの? 


駒田:いや、インコグニートはもっと知らないです!(笑) 絶対知らない!ア シッドジャズって美味しいの?って感じだと思います。絶対そうなんですって、菊池さんレベル高すぎるんですよいつも!(笑) 
無名の曲でも一聴して好きになることはたくさんあるんだけど、でも一曲ぐらいは「あ、聞いたことある」っていうのがないと、引っ掛かりがないのかなって。タイムフリーが始まって、せっかく音楽番組があると思って聞いてくれたのに「知らないのばっかりだからいいや」ってなってしまうと困るじゃないですか。 

Fine Musicだからできる、「ツボ」を突く選曲

――でも、なにがメジャーか、って難しいテーマですよね。 

菊池:そこは年齢層もあるじゃないですか。年齢とか、育った環境とか今まで聞いてきたものとかがあるから、その最大公約数を探す作業だからそれはなかなか難しい。 
(駒田さんとは)10歳違うから、50代の俺にとっては、これ誰でも知ってるだろって思っても、40代ではわかんなかったりするし。

秤谷:でもそのニッチがあるのがラジオの良さだと思いますけどね。それこそタイムフリーが始まったからこそ、逆にライトユーザーに合わせず個性の立った番組が生きると思うんですが。 

菊池:Fine Musicで曲をかけるときは、幅を広めにしてるんです。広めにしておけば、どっかストライクゾーンあるだろっていうのはある。ある時はストライクゾーンを絞っていったほうが、ツボをつく感じで良い時もあるんですけど。 
昔、インディーズの音楽を紹介する番組を作ってたんですけど、基本的にいいと思った音楽をオススメするっていうスタンスは変わりません。だから、自分の今までに培われた感覚を信じてやるしかないですよね。

秤谷:昔から応援してるバンドが売れてきたりすると、嬉しいですよね。

菊池:だから今でも、Kakiiinのときに番組に関わってくれたバンドのライブは、タイミング合えば行くようにしてます。会って、話して、今どう?っていう話をなるべく聞くようにしてる。つい最近、番組に出てくれた「CIVILIAN」ていうバンドがメジャーデビューすることになったのも嬉しかったですね。 

駒田:理想は、ずっと売っていければいいですけどね。 

菊池:なるべく、(バンドに)君たちのことは忘れてないし見てるんだよっていう動きはしていきたいと思っています。 

駒田:NEWS23が始まる前はそういうのができたんですよ。ライブを沖縄まで観に行ったりとか、大阪だったり札幌だったりも。今はツイッターで動向を探るしか無くて、すんごい寂しいんですよね。 
[Alexandros] は、レコード会社の人から勧められて、MUSEのオープニングアクトで出たのを見たのが初めで。これはもう絶対ゲストに呼ぼうよってなりました。彼らとは今はメールでのやりとりしかないけれど、そうやってずっとアーティストと付き合っていくのが理想ですね。 

――もしこれから、Fine Musicで何も気にせず好きなことができるとしたら、やりたいことはありますか? 

駒田:実はすでにその状態なんです。毎回ネタを決めるのが大変ではあるんですけど。次はこの秋〜冬に出た新譜の中で、なかなかかからないような曲や自分の好きな曲をかける予定です。本当になんでもありの番組なので。 

菊池:バッファロー・スプリングフィールドのアゲインてアルバムがあるんですけど、そのアートワークに、メンバーがリスペクトしている古いアーティストの名前がうわーっと並んでるんです。そこから温故知新的な感じで選曲するのも面白いかなと思っています。 
音楽評論家の高橋健太郎さんがツイッターでつぶやいていたんですよ。きっと大瀧詠一さんとか細野晴臣さんとかもそのアルバム見て、遡ってルーツ探ったんだろうなって。 

――ルーツを探るっていうのは尊い行為ですよね。 

菊池:昔、音楽は自分の生まれた年ぐらいまでしか遡らないみたいな話を聞いたことがあって。だけど、今となったら音楽好きな子達はもっと遡って聞いてるんだろうなと思います。 

駒田:ボブ・ディランがアカデミー授賞しましたけど、ボブ・ディランを聞いてる若者はたぶん多いと思う。遡っていったらあそこに行き着くわけじゃないですか。 
放送でも言いましたけど、ボブ・ディランの曲のタイトルとか歌詞は、現代の音楽に散りばめられてるんですよね。だって、フラワーカンパニーズに「終わらないツアー」って曲があるんですけど、それって「ネヴァー・エンディングツアー」っていうボブ・ディランのツアータイトルのまんまだったり、そこかしこにあるんです。

――そういう小ネタを教えてくれる大人が近くにいるといいですよね。 

駒田:ここにいますからね。 

菊池:なんか投げてくれたら答えは返すよってスタンスです。 

駒田:Fine Musicの選曲を菊池さんと交互にやってよかったです。誰にも了解をとらずにいつの間にか始まりましたけどね(笑) 。


ラジオから聞こえてくる音楽や声は、決して何気なく発信されているものではない。もっと良い音楽や情報を届けるため、それがライフワークと言わんばかりに音楽シーンを見守り続けるのが、ラジオの中の人たちなのだ。
もしあなたが音楽が凄く好きで、新しい音楽に出会いたい気持ちがあるならば、是非ともラジオに耳を傾けてほしい。
そんなあなたがワクワクできる何かが、きっと見つけられることだろう。


●伝える人:駒田健吾さん
1974年、兵庫県生まれ。TBSの看板アナウンサーとして、現在NEWS23ほかに出演中。趣味のひとつに「選曲」と挙げるほどの音楽好きで、かつてTBSラジオで放送していた音楽番組「Kakiiin」のパーソナリティとしてさらに数々の音楽に出会う。

●番組を作る人:ラジオディレクター 菊池靖紀さん 
ラジオディレクター。ミキサーとして黎明期のFM局で活躍したのち、ディレクターに転向。駒田アナとは「Kakiiin」の頃から二人三脚で番組を制作してきた。「Fine Music」では選曲も行っている。

TBSラジオ「Fine Music」
毎週日曜日  AM 5:05 - 5:50放送
パーソナリティ:駒田健吾
毎回、自由にテーマを決めて新旧洋邦、無数の楽曲の中から選曲し、様々な音楽で1日の始まりを告げる番組です。

番組公式サイト→こちら
番組公式Twitter→こちら
radiko.jp

 

SPICE対談「ラジオの中の人」

音楽と人の声を届け続けるラジオ番組を作る人たちに、放送では聞けない裏話を聞く対談企画「ラジオの中の人」。

<バックナンバー>
第一回・ナビゲーター 藤田琢己さん×ディレクター 野村大輔さんの対談はコチラ
第二回・DJ/MC/タレント 奥浜レイラさん×構成作家 磯崎奈穂子さんの対談はコチラ
第三回・DJ 岡村有里子さん×ラジオディレクター 山本達也さんの対談はコチラ

シェア / 保存先を選択