パリの展示レポート:パリで行われる日本映画の祭典『KINOTAYO(キノタヨ)映画祭』
フランスで有名な映画祭といえばカンヌ国際映画祭ですが、実はパリに 『KINOTAYO(キノタヨ)映画祭』と呼ばれる日本映画祭があるのをご存知でしょうか?
この映画祭はフランスでの現代日本映画の普及を目的に開催されているもので、今回で11年目を迎えます。開催地はパリの日本文化会館をはじめフランス地方にも及び、鑑賞料を払えば誰でも参加可能。映画祭にあわせて日本の映画監督らが招待され、舞台上での挨拶やトークなども観覧できます。
なお、今年の1月に開催された『KINOTAYO映画祭』で上映されたのは9作品で、授賞式では以下の作品が各賞を受賞しました。
■ソレイユ・ドール 観客賞(グランプリ)
『牡蠣工場』想田和弘監督
『ハッピーアワー』濱口竜介監督
■審査員賞
『バンコクナイツ』富田克也監督
■最優秀映像賞
『俳優 亀岡拓次』横浜聡子監督
いざ、KINOTAYO映画祭へ
映画祭に参加すべく平日の夕刻、エッフェル塔のたもとにある日本文化会館へ向かうと、上映30分前の会場はすでに入り口付近まで行列ができていました。お客さんの半分以上が高齢のフランス人で、ちらほらと若い方や日本人がいる印象です。
この日の上映作品は、橋口亮輔監督の『Three Stories of Love』(邦題は「恋人たち」)。筆者は橋口作品の、見る人の心を揺さぶる作風に魅せられたファンの一人。この映画祭でフランス初公開となる彼の映画が観ることができ、また、フランス人観客たちの反応をみることができると考えると、上映前からワクワクしてしまいます。
会場はほぼ満席。作品の中盤頃、前方近くに座っていた高齢のフランス人男性がイビキをたててしまい、その音の大きさに周りの客席で笑いが起きるというハプニングも。これもまた、フランスらしい素直なリアクションなのかもしれません。とはいえ、途中退場する人は一人もおらず上映終了。
これまでの橋口監督の作品の中でも、群を抜いて深く胸に突き刺さる強烈な作品でした。そのため、筆者はフラフラになりながら会場を出ました。
フランス人のお客さんの反応はいかに?
同じ映画を観終わった60代後半と思われるフランス人ご夫婦に、本作と映画祭について話を伺いました。
旦那さまの方は、日本文化が好きで毎年のように『KINOTAYO映画祭』に参加しているとのこと。また、この映画祭の興味深いところは「フランスの映画館では観られない、現代の日本映画が一同に観られるところだ」と話してくれました。奥様の方は「ちょっと生活感が出過ぎた作品でしたね。しかもこの映画長かったわ。私、長い映画は苦手なのよ」と、辛口のコメント。
すると、私たちの話を横で聞いていた60代の男性も会話に参加。「長くても良い映画は、良い映画だよ。他の上映作品の『ハッピーアワー』を観ましたか? あれなんて5時間超える映画だけどね、素晴らしかったよ」と、不意に日本映画談義が始まったのです。
あまりに夢中になって話していたら、近くには次の作品を待つお客さんたちの長蛇の列が。知らない人同士でも夢中で映画について語り合ってしまうことや、長蛇の列からもわかるように、この映画祭の人気は一目瞭然です。パリの日本映画祭『KINOTAYO映画祭』は間違いなく、日本映画と文化の普及に貢献している――そんな場面を目の当たりにした1日でした。