『大エルミタージュ美術館展』をレポート 女帝エカテリーナ2世のコレクションで、西洋絵画を総ざらい

レポート
2017.3.22
『大エルミタージュ美術館展』入口

『大エルミタージュ美術館展』入口

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森アーツセンターギャラリーにて、『大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち』(会期:2017年3月18日~6月18日)が開幕した。エルミタージュはルーヴル、メトロポリタンと並び世界三大美術館のひとつとして知られ、ロシアのサンクトペテルブルクで壮麗な姿を誇っている。

エルミタージュの1万7千点に及ぶ絵画コレクションの中心をなすのが、オールドマスターの作品群だ。オールドマスターとは、16世紀~18世紀にかけて活躍した美術の巨匠たちを指す。時代の流れに左右されない“正統派”とも言い換えられよう。

本展の出品作85点はすべてオールドマスターの力作であり、西洋絵画の王道を堪能できる絶好の機会である。実際の展示は国・地域別に分けた6章で構成されているが、本記事ではテーマを設定し、少し異なるアプローチで作品を紹介していく。

 

何か言いたげな表情に胸がざわめく

ジャン=オノレ・フラゴナールとマルグリット・ジェラール《盗まれた接吻》(1780年代末)

ジャン=オノレ・フラゴナールとマルグリット・ジェラール《盗まれた接吻》(1780年代末)

映画のワンシーンを見てるかのような《盗まれた接吻》は、構図も標題も詩的だ。ジャン=オノレ・フラゴナールとマルグリット・ジェラールによる共作とされている。不意打ちでキスされた女性はまんざらでもないようだが、視線の先(画面右)の隣室にいる人々を気にしている様子だ。ドレスの皺や光沢の質感にも注目したい。

フランチェスコ・フリーニ《アンドロメダ》(1636)

フランチェスコ・フリーニ《アンドロメダ》(1636)

フランチェスコ・フリーニ《アンドロメダ》は、苦悶の表情が色白い肢体と相まって官能的である。アンドロメダはギリシャ神話に登場する王女で、王妃が海の神ポセイドンを怒らせたことから、怪物の生け贄にされてしまうというお話だ。多くの画家は、鎖でつながれたアンドロメダに怪物と戦う勇者ペルセウスを描いたが、フリーニはアンドロメダのみを描き、悲しみや恐怖感を際立たせることに成功している。

ベンジャミン・ウェスト《蜂に刺されたキューピッドを慰めるヴィーナス》(1786)

ベンジャミン・ウェスト《蜂に刺されたキューピッドを慰めるヴィーナス》(1786)

《蜂に刺されたキューピッドを慰めるヴィーナス》は、最初は泣きじゃくるキューピッドに目が行くが、段々と対照的に冷静な表情のヴィーナスが気になってくる一作。蜂に刺されたキューピッドの頭を優しく抱きかかえ、その小さな手をそっと握るたおやかな指先に、美しさのみならず妖艶さも感じるからだろうか。

 

聖母マリアの違いを楽しむ

シモン・ヴーエ(?)《聖母子》(1639-1640年)

シモン・ヴーエ(?)《聖母子》(1639-1640年)

また、本展に出品されている「聖母マリア」の違いを感じてみるのも一興だ。シモン・ヴーエ(?)《聖母子》は、全体の曲線が醸し出す柔らかな雰囲気と、母子間にみなぎる絶対的な信頼感が特徴だ。聖母マリアと幼子イエスを描く聖母子像の一般的なイメージに限りなく近い作品ともいえる。

ルカス・クラーナハ《林檎の木の下の聖母子》(1530年頃)

ルカス・クラーナハ《林檎の木の下の聖母子》(1530年頃)

うってかわって、こちらは金色の巻き毛にシャープな顔立ち。ルカス・クラーナハ《林檎の木の下の聖母子》である。同じマリアでもドイツのクラーナハが描くと全く印象が異なる。当時流行していた美人像が反映されているようで、ゲルマン系の特色が濃い。イエスが左手にもつ林檎はアダムとイヴによる原罪を、右手のパン切れは聖体すなわちキリストの身体を表し、ここではいずれも救済のシンボルとして描かれている。

フランシスコ・デ・スルバラン《聖母マリアの少女時代》(1660年頃)

フランシスコ・デ・スルバラン《聖母マリアの少女時代》(1660年頃)

みているだけで何とも穏やかな気持ちになれるのは、フランシスコ・デ・スルバラン《聖母マリアの少女時代》だ。ただの少女の絵ではなく、聖母マリアの少女時代という主題で描かれている。もの静かで抑制された表現が、小さな躰に秘められた敬虔な信仰心を強調している。宗教画特有の派手な演出はなく、良い意味で親しみやすい作品である。印象に残る暖色系の赤は血を示し、のちのキリストの死を暗示しているとのこと。

このほかにも、聖家族像や受胎告知の絵の違いを見比べるのもオススメだ。

 

日常に眠る美しさに気づく

ジャン=バティスト・シメオン・シャルダン《食前の祈り》(1744)

ジャン=バティスト・シメオン・シャルダン《食前の祈り》(1744)

食前に祈りをささげようとする姉妹に、それを穏やかな眼差しで見守る母。ジャン=バティスト・シメオン・シャルダン《食前の祈り》は、小ぎれいでつつましやかな暮らしぶりに安堵感を覚える作品だ。安定した日常風景にはささやかで永続的な幸福感が存在する。

ピーテル・デ・ホーホ《女主人とバケツを持つ女中》(1661-1663頃)

ピーテル・デ・ホーホ《女主人とバケツを持つ女中》(1661-1663頃)

日常の一瞬を切り取るという意味では、《女主人とバケツを持つ女中》も印象深い。女中が市場で仕入れてきた晩飯用の魚を女主人にみせている。平凡な主題ながらこの絵に惹きこまれるのは、遠近法が巧みに使われ写実的な作品に仕上がっているからだろう。目を凝らしてみればみるほどその計算しつくされた構図に驚嘆する。

 

ドイツの少女がロシアの女帝に――
エカテリーナ2世の数奇な運命

ここで、エルミタージュの礎を築いたエカテリーナ2世について触れておきたい。ドイツ貴族の娘として生まれたゾフィーは、14歳でロシア皇太子の妃候補となり、16歳で結婚。ロシア語を猛勉強し、名をエカテリーナに改めて、ロシア正教に改宗した。王座に就くことを見越した上で、自身をロシア化する努力を怠らない勤勉家であった。

ウィギリウス・エリクセン《戴冠式のローブを着たエカテリーナ2世の肖像》(1760年代)

ウィギリウス・エリクセン《戴冠式のローブを着たエカテリーナ2世の肖像》(1760年代)

のちに夫に対しクーデターを起こし、1762年に33歳で女帝の地位につく。以後30年にわたりロシアを統治し、帝国の拡大と強化に貢献。クーデター時には軍服に身を包み自ら馬上で指揮を取ったと言い伝えられ、彼女の一本気で勇敢な性分がわかる。

展覧会グッズの一部。『ベルサイユのばら』でおなじみ池田理代子先生のマンガで、エカテリーナ2世の生涯がおさらいできる

展覧会グッズの一部。『ベルサイユのばら』でおなじみ池田理代子先生のマンガで、エカテリーナ2世の生涯がおさらいできる

美術館の歴史は1764年、彼女がドイツの実業家から絵画コレクションを取得したことに始まる。フランス語で「隠れ家」の意を持つエルミタージュの創設には、自国の文化的な成熟を促すだけでなく、女帝として君臨し続けた彼女が国事を離れて静かな時間を過ごす目的もあったのだろう。

エルミタージュの入り口には以下の言葉が掲げてあったという。

“この扉を通るもの、帽子とすべての官位、身分の誇示、傲慢さを捨て去るべし、そして陽気であるべし”


かくして、世界有数の美術館がここに生まれ、250年を経た今でも進化し続けている、というわけだ。

 

ざっと作品を紹介したが、まだまだほんの一部である。本展は今後、名古屋展(2017年7月1日~9月18日)、神戸展(2017年10月3日~2018年1月14日)の巡回を予定している。ぜひ足を運んで巨匠の名作を直に味わってほしい。

ミュージアムショップの様子。美術館の地下で猫が飼われている(もともとはネズミ退治のため)ことから猫グッズもたっぷり取り揃えている

ミュージアムショップの様子。美術館の地下で猫が飼われている(もともとはネズミ退治のため)ことから猫グッズもたっぷり取り揃えている

 
イベント情報
大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち

会期:2017年3月18日(土)〜6月18日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間:午前10時〜午後8時(火曜日は午後5時まで、ただし5/2は午後8時まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:5月15日(月)
観覧料(当日):一般1600円、大学生1300円、中高生800円
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト http://hermitage2017.jp

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