あなたならどんな家に住む? 『日本、家の列島ーフランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザインー』レポート
撮影=Akira Aoki
4月8日(土)よりパナソニック汐留ミュージアムにて『日本、家の列島ーフランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザインー』が6月25日(日)まで開催中だ。本展は、写真家のジェレミ・ステラに加え、建築家のヴェロニック・ウルスとファビアン・モデュイ、そして日本でも多くの建築作品を手がける建築設計事務所「みかんぐみ」の共同代表マニュエル・タルディッツの4名のフランス人によって企画された、日本の住宅建築をテーマにした展覧会である。
展覧会タイトルにあるように、彼らなりのユニークな視点で選定された日本の近現代の住宅建築は、私たち日本人もその魅力を再発見できる新鮮な気づきを与えてくれる。2014年5月からフランス、スイス、ベルギー、オランダの各都市を巡回してきた注目の帰国展の内覧会をレポートしたい。
日本の住宅デザインを再発見
今回紹介されている住宅は特別な人々のための建築ではなく、一般的な生活が営まれる個人住宅である点に注目していただきたい。フランスでは建築家がこのような個人住宅を設計することは稀だという。一方日本では、本展がその状況を示すように、多くの建築家が個人住宅の設計を行っている。それは民間企業が圧倒的に力のある日本では若い建築家が仕事の機会を得ることが難しいことに加えて、災害も含め建て替えの頻度が高い日本特有の住宅産業が背景にあるからだ。
本展では、それらを西洋からのまなざしで「無常」といったエキゾチシズムで片付けてしまうのではなく、「建築家から見た日本の家の本質とは何か?」「伝統はどのように現れているのか?」を主題に、インタビューなどを交えながら‟住まうこと”を丁寧に解きほぐしている。
中山英之/O邸/2009年 撮影:ジェレミ・ステラ
ポワティエ建築会館での展示の様子/2014年 撮影:ジェレミ・ステラ
会場は3つの章と、ゲストアーティストによる展示によって構成されている。
第1章『昨日の家』では、1930〜1980年代に建てられた日本の近代建築14点を、写真や模型、図面によって紹介している。まず始めはアントニン・レーモンドの「夏の家」だ。同建築家はフランク・ロイド・ライトのもとで働き、ヨーロッパ近代建築運動の思想を日本へ伝えた重要な人物である。その他には安藤忠雄「住吉の長屋」、山本理顕「山川山荘」、伊東豊雄の自邸「シルバーハット」など日本を代表する建築家たちの作品が並ぶ。西洋から輸入された建築理論が住宅デザインの中に凝縮されたこれらの近代建築は、多くの後進の建築家たちも参照したものであり、その歴史を振り返ることができる。
撮影=Akira Aoki
安藤忠雄/住吉の長屋/1976年 撮影:安藤忠雄
続く第2章『東京の家』では、本展の企画者の1人でもある写真家のジェレミ・ステラによる写真作品が並ぶ。2010年からドキュメンタリーの手法によって集められた東京の家々は、全て2000年以降に建てられた個人住宅だ。家のみならず道往来する人々の姿など、その家を取り巻く東京の街の自然な風景が浮かび上がる。
撮影=Akira Aoki
そして第3章『今日の家』では、20名の日本人建築家による住宅建築が図面、スケッチ、写真や模型、そしてそこに住む人々のインタビューが紹介されている。2013年にヨーロッパ巡回展のためにジェレミ・ステラによって撮影されたそれらの写真は、作品としての建築と、その土地や施工主の希望によって工夫され変容する建築の姿が写し出されている。
撮影=Akira Aoki
撮影=Akira Aoki
ゲストアーティスト坂口恭平による《Dig-Ital City Prototype》は、都市のイメージの集積を現実では不可能な超高層の建築に変換したドローイング作品だ。タイトルは「デジタル」と読めるが、「Dig」は「掘る」、「Ital」はジャマイカ英語で「自然」を意味する。これは「…デジタルとは自然を掘り当てる、しることだ」と語った行きずりの人物の謎めいた言葉に由来するのだという。
坂口恭平《Dig-Ital City Prototype》2008年(参考図版) 協力:セゾンアートワークス
建築が身近になる
今回の会場デザインは、住宅だけでなく公共建築や家具など幅広くデザインを行うみかんぐみによるものだ。この展覧会会場自体にも、日本の建築の面白さが宿っているのかもしれない。
会場では、第3章『今日の家』で紹介されている住宅のドキュメント映像を見ることができる。家が建つ周辺環境はそれぞれ異なり、住人も単身者から家族まで様々である。大げさなドラマがあるわけではなく、階段を上り下りしたり窓を開け閉めする住人の自然な動作を見ていると、その家の住み心地が伝わってくる。
撮影=Akira Aoki
おおよその構造が決まっているヨーロッパ建築に比べて、狭い敷地を上手く利用するために工夫されるこうした日本の住宅デザインの魅力は、4名のフランス人による複眼的な視点で再発見されている。多くの建築に共通しているのは、外光を取り入れるための窓や庭など、自然との接点がそれぞれユニークなかたちで実現されている点だろうか。縦に長く大きな窓、目の前の公園との一体感を生み出すテラス。これらは、日本の住宅が決して閉ざされた私的領域だけで成立するものではない、ということを物語っているようだ。
河内一泰/ハウスkn/2006年 撮影:ジェレミ・ステラ
吉村靖孝/窓の家/2013年 撮影:ジェレミ・ステラ
各住宅のインタビューを読んでいると「自分だったらどうしよう」と、つい妄想が膨らんできてしまう。それはここに集まった建築作品が身近な住宅という点において、観る者の関心をグッと惹き付けてくれるからだろう。建築はそこを使う人々の息遣いによって、初めて完成するものなのだ。
開館期間:2017年4月8日(土)~6月25日(日)
開館時間:午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日(ただし5月3日は開館)
会場:パナソニック汐留ミュージアム