チームラボ史上最大級の挑戦はどのようにして生まれたのか? 『チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地』キーマン2名へインタビュー
左から、小林智彦氏、植野誠史氏 撮影=荒川潤
プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者など、デジタル社会のさまざまな分野のスペシャリストから構成されるウルトラテクノロジスト集団・チームラボ。彼らが仕掛ける最先端かつダイナミックなプロジェクトからは、常に目が離せない。そんなチームラボによる最大級のイベント『バイトル presents チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地』が、2017年7月28日(金)〜9月10日(日)の期間中、渋谷ヒカリエで開催されている。本展のテーマは「光のアートに体ごと没入し、光にふれて音楽を奏でる、参加没入型のミュージックフェスティバル」。光と音の融合を楽しめる新感覚の本イベントは、開幕からすでに多くの観客を魅了し、話題となっている。
しかし、このチームラボジャングルとはどのような意図のもと制作され、開催されることとなったのだろう。そもそも、チームラボという組織はどのような意思決定やプロセスを経て、こういった体験型イベントを世の中に生み出しているのだろうか? そんな疑問に、本イベントを手がけるカタリスト(※)である植野誠史氏と小林智彦氏が答えてくれた。「チームラボジャングル」の意図や制作過程、見どころや苦心した点など裏話も語ってくれている。
(※)「媒介する者」の意で、チームラボが独自に用いている役職名。作品制作に関与するあらゆる人を繋げ、コミュニケーションのハブとなる立場を指す。
バイトル presents チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地
——まず「チームラボジャングル」が制作されるに至った経緯について、聞かせていただけますか?
植野誠史(以下、植野):そもそもの発端は、弊社代表の猪子寿之が「なぜ日本発のミュージックフェスティバルがないんだろう?」と言い始めたことがきっけでした。例えば海外発の大型フェスはたくさんあるのに、世界中を見渡してみても残念ながら日本発のものが見当たらない。だったらチームラボでメイド・イン・ジャパンのフェスを作ってしまおう!という流れになって、このプロジェクトを始動させることになりました。
最初の構想としてはフェスに欠かせないムービングライトを全体に配置して、エンターテインメント性に富んださまざまな仕掛けを行っていくというのが、大前提にありました。でも進めていくうちに、例えば光の軸で建築構造を描くといったアート寄りに昇華させる演出のアイディアも生まれてきたんです。そこで最終的にはライブを盛り上げるムービングライトを使った演出をベースに、アートの要素も取り入れた、これまでにない新しいスタイルのイベントが誕生することになったんです。
▼『チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地』内覧会にて公開された作品
動画撮影・編集=登坂義之
動画撮影・編集=登坂義之
——チームラボとしても斬新な試みだったんですね。具体的に、制作はどのようなチーム編成で、どのようなプロセスを経て完成したのでしょう。
植野:チームラボジャングルは昨年大阪でも開催しているので、今回はその時の演出をもとに半年くらいかけてアップデートして、さらに進化させていったという側面が強いです。今回の制作のプロセスは、最初に演出のアイディアが猪子から降りてきて、その後チームでディスカッションを行ってからエンジニアサイドに具体的な話をしていく、というのが基本的な流れでした。もちろんその中で、できること・できないことも出てきますが、常に現場のフィードバックを受けながら活発なコミュニケーションを繰り返し、何度も調整を重ねながら一歩ずつ理想のビジョンに向かって進んでいく感じですね。
チーム編成に関しては、まずムービングライトのセクションがあって、サウンドやセンサーのセクションなど、演出ごとに他のさまざまな部門が大体4〜5つずつ紐付いてチームを構成しています。もちろん演出ごとにその紐付き方も違ってきますし、途中で変更があった場合には関わってくる人数もスペシャリストも全部移り変わってくるのですが、だからこそチーム全体で一つの演出を創り上げている、という実感もあります。
▼チームラボ・猪子寿之がみせた作品へのこだわり 『チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地』レビュー会を独占取材
開幕前の7月25日には、チームラボ代表・猪子寿之氏が作品の出来をチェックする「レビュー会」が行われた。猪子氏が細部にわたって作品の完成度をチェックし、熱心にスタッフたちと語り合う様子が収められている。動画撮影・編集=登坂義之
——現場の自由闊達な空気とチャレンジ精神が感じられますね。チームラボを象徴しているようで、とても興味深いです。
植野:そうですね。日々本当に試行錯誤の連続なので、それが楽しくもあり、時に大変でもあります(笑)。イベントでは自社で開発した専用のソフトフェアやアプリケーションを使っているので、複数のセクションを連携させる時になかなか一筋縄ではいかない部分もあったりするんです。こっちのライトは光っているのに向こうは光らない、なんていうエラーも日常茶飯事で。でもそういった課題を一つ一つ克服していくことで、チームラボ全体としてさまざまなノウハウやアイディアが着実に蓄積されていくので、常に皆で意見を出し合って未知の分野にチャレンジすることができます。チーム内のLINEもいつも頻繁に飛び交っていますし、現場はいつも活気があってものすごくエキサイティングですよ。
——これまで国内外問わず多数のプロジェクトを展開されてきましたが、チームラボジャングルが他のイベントと大きく違うのは、どんな点なのでしょうか?
植野:昼夜でそれぞれ約60分という時間の「タイムライン」があるということです。これまでのプロジェクトではデジタルアートや触れることで音を奏でる演出など、作品がエリアごとに並んでいて単品のコンテンツとして見せていく、といったスタイルが中心でした。でも今回の場合は17作品が同じ空間のなかでタイムライン上に並んでいて、さらに演出展開がついているということが一番大きな特徴だと思います。そういった意味で、今回はチームラボ初の試みになっています。
撮影=荒川潤
——ということは、チームラボのあらゆる魅力が惜しみなく集結しているということですね。既存のファンの方はもちろん、チームラボを知る入り口的なイベントとしても十分に楽しむことができそうです。
植野:そうですね。音楽好きの方はもちろん、デジタルアートに興味のある方にとってもきっと新たな発見があると思います。それからライブエンターテイメントならではの醍醐味、その時その瞬間にしか生まれない一体感や高揚感も味わってほしいですね。実は僕たちも毎回演出の内容を少しずつ変えているので、その辺りも要チェックです。
——えっ! 一度出来上がった演出も変えているんですか!?
小林智彦(以下、小林):はい。もちろん大きな変更ではないんですが、お客さんの動き方を実験してそれに合わせてムービングライトの光を調整したり、シーンに合わせて音楽を変えたりということはよく行っています。毎回オーディエンスの反応も違いますし、僕たちも「とにかくお客さんを楽しませたい」という気持ちで試行錯誤しながらやっているので、本当に日々進化・発見の毎日です。とくにラストではミラーボールが登場して紙吹雪が舞うという最もドラマティックな展開が待っているので、こちらの仕込みにはかなりこだわっています。最近ではその成果もあって、お客さんから拍手をもらえることも増えてきています。会場が一つになった感覚はもう本当に素晴らしいですね。ピークタイムには感極まって、思わず涙してしまうスタッフもいるくらいです(笑)。
——それは素晴らしいですね。それでは最後に、一言ずつメッセージをお願いします。
小林:チームラボにはあらゆる分野のスペシャリストが揃っているからこそ、こういった実験的な試みをカタチにすることができると思っています。とはいえ今回の場合は正直、自分たちのポテンシャルを100%以上超えたものを作ってしまった、という感覚もありまして(笑)。だからこそ一人でも多く方に、この新しいチャレンジを見届けてほしいですね。
植野:今回のチームラボジャングルはおそらく、チームラボのアート作品のなかでも名実ともに最大級といえるもので、ハードやソフトといったシステム的なことだけでなく内容に関しても最先端に近いという自負があります。加えて一人一人がイベントに参加することで、音を奏でたり光の色を変えたりすることができるというインタラクティブな体験も待っているので、ぜひ皆さんでこの感動を分かち合ってほしいと思います。
日時:2017年7月28日(金)〜9月10日(日)
会場:渋谷ヒカリエ9F ヒカリエホール
休演日:8/7(月)、8/21(月)、9/4(月)、Kids Noon(昼公演) 7/28(金)、9/5(火)〜8(金)、Art Night(夜公演)8/10(木)、8/4(金)20:30のみ
開催時間:9:30〜22:00(※定員制)
入場時間: 9:30、最終入場は16:40(土・日・祝は 15:20)
[Art Night(夜公演): 約60分] +学ぶ!未来の遊園地
入場時間: 18:00(土・日・祝は 17:00)、最終入場は20:30(平日・土・日・祝)
https://www.teamlab.art/jungletokyo/