イタリア・ミラノで開催された、「作品の持ち帰りもOK!」な参加型展示『Take Me(I’m Yours)』レポート
有名キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストと、大御所アーティストであるクリスチャン・ボルタンスキーがキュレーションした『Take Me (I’m Yours)』が、ミラノの展示スペース「Pirelli HangarBicocca」で開催された。
この展示の何が面白いか? ずばり、「作品を持って帰れる」ことだろう。持って帰れるだけにとどまらず、作品を作ったり、さわったり、食べたり、インスタグラムに載せたり、会場で叫んだり、私物を置いていくことなどもできる。
そう、通常の美術館ではNGな行為が、ここでは可能なのだ。参加アーティストも、著名人から若手まで50組以上が勢揃い。来場者参加型の展示なので、会場はちょっとしたお祭り状態だった。
Christian Boltanski 「Dispersion, 1991-2017」/Used clothing, bags/Courtesy Christian Boltanski
本企画の顔とも言える作品「Dispersion, 1991-2017」では、参加者は古着を自由に持ち帰ることができる。その使い方は自分次第。山積みにされた衣類は徐々に姿を消していくのだが、筆者が訪れた時は、実際に服を持ち帰っている人は少なかった。
この展覧会は入場無料だが、実際に作品を持ち帰るためにはクリスチャン・ボルタンスキーがデザインした紙袋(10ユーロ)の購入が必要だ。紙袋は、ミラノのメトロホームに何気なく置いてもインスタ映えバツグン。
実は、この展示は今回が初開催ではない。オブリストとボルタンスキーは、1995年に同展示のコンセプトを企画し、ロンドンのthe Serpentine Galleryで実際に展示をおこなった。元々このプロジェクトのコンセプトはボルタンスキーによる「Quai de la Gare(1991)」から始まった。「Quai de la Gare」は、ボルタンスキーが集めた古着を来場者が“Dispersion”(分散)とプリントされたバックに詰めて持ち帰れるというものだ。
もちろん、1995年にはエッジの効いた展示だったに違いないだろうが、20年の時がもたらす変化は大きい。その後こうしたインタラクティブな展示は多く展開されてきた。今では、こうしたコンセプトはどちらかというとキッチュに感じる人が多いのではないだろうか?
Jonathan Horowitz 「Free Store」/ 2009-2017/Jonathan Horowitz
こちらは、来場者同士が物々交換ができる作品。自分のものを置き、誰かが置いていったものを取っていくというように、参加者個人でマーケットの価値を決めていく。筆者が訪れた際に置いてあったのは、正直ゴミみたいなものばかり……。いや、これをゴミと見るかはその人それぞれというところが“肝心”なのだ。
Gilbert & George 「THE BANNERS」/ 2015/Gilbert & George and White Cube, London
「THE BANNERSで」は、展示されているスローガンをプリントした缶バッジを持ち帰ることができる。このほかにも、人と直接繋がる作品が多く展示されていた。ピエール・ユイグの 「Name Announcer」は、スーツを着た男女が展示会場入り口で来場者の名前を大声で叫ぶパフォーマンス(無論、筆者も叫んでもらった)。会場では、現場でしか感じられないリアルなやりとりが繰り広げられていた。
“TAKE”という行為を通して、展示という枠を超え、参加者それぞれが物語を紡いでいくのだ。
Douglas Gordon 「Take Me(I’m yours)」/2017
ダグラス・ゴードンとディナーができる権利がもらえるコンペティションも! 名前とアドレスを紙に書いて応募する。もちろん筆者も応募。ドキドキ……。
Francesco Vezzoli 「Take my Tears」 /2017
こちらは、タイトル「Take my Tears」の通り、涙を流した似顔絵を描いてくれるコーナー。イタリア人のストリートアーティスト、フランチェスコ・ヴェッツォーリが、来場者の似顔絵を描く。
オブリストは、「この展示はグローバルになるようにデザインされていて、訪れた人々によって持ち帰られた作品は今後、世界中で見つけることができるだろう」と語っている。グローバル化を「国境をなくして、世界をフラットにする」という意味で捉えるならば、作品の拡散はその可視化とも言えるかもしれない。しかし、作品を通して人々のグローバライゼーションを可視化する行為は、インターネットが普及した現在、一見すると意味がないようにも思える。これこそが、彼らが投げかけているテーマ「グローバル化による均一化への疑問と懸念」だ。
実際に、グローバライゼーションで繋がりが深まっているように見えて、その繋がりはインターネットというフィルターがないと感じられない、儚い繋がりに過ぎないことを私たちは忘れがちだ。本展は、現代社会のバーチャルなグローバル化にはない、リアルな繋がりの大切さを教えてくれる。
Gustav Metzger 「Mass Media:Today and Yesterday」/1972/2017
『Take Me (I’m Yours)』は、その年によって異なる意味をもたらす展示だと思う。今後、世界が変化していくに従い、このコンセプトがどのような意味を成すのか。また、アートが人々の手に渡り、どこまで繋がっていくのか。何十年後にどのような形で人々の手によって価値がつけられ、ストーリーを持つのか。この先もずっと枝わかれし、更新されていく展覧会だ。
この展覧会を後にする時、なんだかとてもドキドキしていた。それは、ダグラス・ゴードンのディナーに当たるかもしれないとか、似顔絵を描いてくれたフランチェスコ・ヴェッツォーリとの会話が面白かったとか、それだけではない。自分が美術館に置いてきたものから、他の誰かによって新しい何かが生まれていくのかもしれないという可能性に胸が高鳴っていたのだ。普段、鑑賞者として作品を一方的に見るだけでは、決して生まれない感覚だ。
世の中はこんなにも面白い出来ごとがたくさんあって、結局は人間ほど面白いものはないということ。私たちが動き出せば新しい“何か”が生まれ、すべては自分次第なのだということを再認識させてくれた展示だった。
Take Me (I’m Yours)でTakeしてきたものたちの一部。
文・写真=たなお
イベント情報
期間:2017年11月1日〜2018年1月14日
公式サイト: http://www.hangarbicocca.org/en/exhibition/take-me-im-yours/