舞台『犬神家の一族』東京公演開幕! 新派初参加の浜中文一に波乃久理子が耳打ち!? さらに終演後イベントも
(左から)河合雪之丞、浜中文一、波乃久理子、水谷八重子、佐藤B作、喜多村緑郎
舞台『犬神家の一族』の東京公演が、2018年11月14日(水)、東京・新橋演舞場にてスタートした。新派130年を記念して上演される本作はすでに大阪公演が終了し、出演者がそれぞれに手応えを感じているだろう状態で東京初日を迎えた。その直前に囲み会見が催され、水谷八重子、波乃久里子、河合雪之丞、浜中文一、喜多村緑郎、佐藤B作が出席した。
本作は、1950~51年に雑誌「キング」にて掲載された横溝正史のミステリー小説「犬神家の一族」を原作とし、私立探偵の金田一耕助が犬神佐兵衛の遺産相続を巡る騒動に挑む物語。
会見では、本作の上演に際して香琴役の水谷は「何より嬉しいのは、新派の中からこの作品が生まれた事。この『犬神家の一族』の脚色・演出をなさった齋藤雅文さんは新派の一員で、そんな方が新派130周年の年に、これまでにない路線の作品をぶつけてこられました。私たちは作品の中の駒として綺麗に動き、この作品を後世に残していけたら」と思いを口にする。
また東京初日を迎える心境について、犬神松子役の波乃は「初日は格別怖いんです」と語る。すでに大阪公演を経たことで緊張がほぐれるのでは、と思いきや、「作品を分かってしまったから余計怖い」との事。
今回新派に初参加となった犬神助清役を初め2役を務める浜中について、水谷は「覆面の中の目だけで『僕が息子ですよ』って思わされてしまう」、波乃は「『あ、私この子産んだ』と思わせるんです。息子なんですよ。お母さん! ってやってくると嬉しくなってしまう」と存在も含めてその演技力をベタ褒め。犬神梅子役の河合も「私は『この野郎』と思ってなければいけないんですが、(浜中の芝居を見ていると)泣いてしまう」と話すと、波乃が「私なんて鼻水が出ちゃって……」さらに金田一耕助役の喜多村が鼻水を出しまくる手振りで軽くふざけ出し、いい話がいつしか大笑いに。
当の浜中は「皆さん温かく受け入れてくださっています」と笑顔を見せたが、何かを喋ろうとすると隣に立つ波乃がヒソヒソと浜中にささやく。「僕が喋ろうとするといつも久里子さんが横からささやいてきて、話そうと思っていた事がどこかへ行ってしまうんです……そんな感じの新派です!」と言い、さらに大笑いとなった。なお、助清役で顔に大怪我の傷メイク(シール)をする浜中は、大阪公演中に肌がかぶれてしまい、心配する声も聴かれたが、この日は綺麗な肌に戻っており「言っても若いので……(笑)」と照れ笑いを浮かべていた。
2017年に歌舞伎界から新派に入団した河合は、二代目市川春猿時代から圧倒的な色香を放つ女形として有名。そんな河合は「古典ではないこういうお芝居で、女形としての存在感が出せたら」とさらに演技の深堀りを目指す。
河合よりさらに1年前に新派に入団した喜多村は「八重子さんや久里子さんなど、新派には横溝正史や江戸川乱歩の作品は絶対にお似合いだと思っていましたが、本当にバッチシピッタシはまっています」と独特な表現でコメント。
橘警察署長役の佐藤はこれまでも何度となく新派の舞台に出演しているが「新派は居心地がいいですよ……って本人たちを目の前に悪いなんて言えるわけないでしょ!」と笑わせると波乃が佐藤の腕をひねり上げようとし、さらに笑いが加速。佐藤は映画版の『犬神家の一族』で警察署長役だった加藤武に触れ、「僕は加藤さんが大好きなんです。だから加藤さんに負けないようにこれが人生最後の勝負だと思って頑張りたい」と気合いを入れていた。
初日の公演の模様もお伝えしよう。
物語は犬神佐兵衛の誕生日祝いの宴の場面から賑やかに始まる。登場する人々も華やかで明るく、みな笑顔に満ち溢れている。衣裳から舞台セットに至るまで色数も多く、だからこそこの後、犬神一族に次々と起きる悲劇の暗さや重さがより一層深まるようだった。この村にやってきた金田一耕助と署長が時折ユニークな言動をして笑いを誘うのも、また犬神家の人々との対比を鮮明に見せる役割となっていた。
本作で繰り返し描かれるのは親子の情愛と、血縁だからこそ倍増する憎悪の感情。映画版を知っている世代が多い観客ではあるが、まったく知らない人であってもテーマが伝わるよう、より分かりやすく描かれていたのが印象的だった。
映画版で最も印象的な、人間が逆さになり両足だけ水上に見えているあの場面もどこかに再現されている。是非ご注目いただきたい。
初日終演後、新橋演舞場の正面玄関前では、「平成30年秋の火災予防運動」の一環で、喜多村が1日京橋消防署長に就任、新橋演舞場にて何者かが置いた怪しい物体を特殊装備に身を包んだ消防署員が撤去作業をする、という訓練の陣頭指揮を取った。全ての訓練が終わった最後に、喜多村は自身が本作で演じる金田一役に絡めて「消防の方々は火災防止に全力を尽くしますが、私は犯罪の防止に全力を尽くします」と宣言し、大きな拍手を送られていた。
取材・文・撮影=こむらさき
公演情報
■原作:横溝正史
■脚色・演出:齋藤雅文
■出演
水谷八重子、波乃久里子、河合雪之丞、喜多村緑郎、浜中文一、佐藤B作、瀬戸摩純、春本由香(交互出演)/河合宥季(交互出演)、田口守
大阪松竹座 2018年11月1日(木)~10日(土) ※終了しました。
新橋演舞場 2018年11月14日(水)~25日(日)