シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第八十二沼 『男が男にモテモテ沼!(前編)』

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2020.10.29

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「welcome to THE沼!」

沼。

皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?

私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。

一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れること

という言葉で比喩される。

底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。

これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。

毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。

シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第八十二沼 『男が男にモテモテ沼!(前編

こんばんは、最近、モテてモテてモテてしょうがない齋藤久師です。男から。

人生最大のモテ期かもしれない。もしかしたら死ぬのかもしれない。

若い頃は、10tトラック100台分のチョコレートを女性たちからもらっていた私だが、いまや家族からは粗大ゴミ扱いされている。

幸い、音楽においては本場のヨーロッパ、アメリカを中心に海外で支持を得ているものの、それはパーソナルとしてというより、「作品」としてであって、嬉しさの種類がちが〜う。

そんな私は、先日無事に52歳の誕生日を迎えた。

そして、少し前から、再びモテモテ期のスタートの予兆を感じていたのだが、それが現実感を帯びてきたのだ。しかし、近寄ってくるのがオサーンばかりなのだ!!!しかも40過ぎのオサーン。

その中でも、とくにインパクトの強いオサーン2人をご紹介しよう。

先ず1人目のオサーンは、日本で1番大きな広告代理店と言えばみなさんご存知だろう、あの”便通(BENTSU)”の井松郎太(仮名)氏という知人からいきなり連絡が来た。

彼は、いままで数回しか仕事で会った事が無いが、その業績は素晴らしいものである。

ともすれば、クライアントと発注元の間で「そつなく」まとめ上げ、広めるという広告代理店業務の中にあって、井松郎太氏は「攻め」のスタイルで20年もの間仕事をこなしてきた。

あのDOMEEN(仮名)の立ち上げから現在までも大きく関わるなど、音楽文化、芸術なども含め、その攻め攻めのスタイルは現在でも変わらないインテリジェンスパンク野郎だ。しかも役職は「部長」だ。

突然の連絡はこうであった。

「久師さん、おひさしぶりです!今度、釣りに連れて行ってもらえませんか?」

普段、仕事以外で遊んだ事も一度もないのにいきなりの連絡。とても勇気が要ったはずだ。現に後に本人に聞いたところ、「メッセージを書いてはやめ、書いてはやめるというくりかえしでしたw」という。

私が50cmオーバーのブラックバスを爆釣しているのはSNSを通じて知っていたようだが、その他にもきっと、よほどの何かが彼の心を突き動かしたのだろう。

私が爆釣した今年の50cmUPs

私が爆釣した今年の50cmUPs

彼が、こんなにおっかない私に連絡してきたのだから、その勇気をたたえ、ふだんは1人でしか行かない、苦労して独自に探し当てた秘密の野池に招待する事になった。

しかし、ただの釣りはお断りだ。彼は言った「デカイの!久師さんが釣りまくっているようなデカイのを釣りたいんです!」と。

そこで、いわゆる私のやっているトップウォーターという特殊な釣り(ルアーが水中に沈まず浮いた状態で、更に餌に似ても似つかない形をしている)に限定する約束をした。

その代わり、私はガイドに徹して本気で井松郎太氏に釣りあげて欲しかったのだ。

私の釣りのスタイルは「深夜限定」だ。

なぜなら釣り人が居ないので、魚にかかるプレッシャーがほとんど無い。

もちろん魚もルアーが見えないので、バシャバシャ音の鳴るルアーでアピールするため、ノイジー系のルアーを買ってくるように伝えると、「HITTER」という見るからに釣れなさそうなとんでもないルアーを用意してきた。

餌に似ても似つかない「HITTER」。名前からして怪しい。

餌に似ても似つかない「HITTER」。名前からして怪しい。

井松郎太氏は夜な夜な「さすが便通!」と思わせる高級外車で東京から私の住む千葉の自宅まで来たが、冒険気分を存分に味わってもらうため、私のJEEPに乗り変え夜の野池に向かった。

しかし、彼の車中を横目で覗くと、いかにも釣れそうな「擬似餌」がいくつか目に入った。

彼は私の目線で察したのか、あるいは私の「絶対釣らせる!」という言葉を信じたのか、それらのルアーは全て自分の車内に残し、見るからに釣れなさそうな「HITTER」だけを持って私の車に乗り込んだ。

道中、いろいろな話になった。

社会的な地位を築き上げ、多くの素晴らしい業績を成し遂げてきた井松氏はきっと誰からも「井松さん」と敬語で呼ばれる事しかないであろうと思った私は、あえて「井松くん」と切り出した。

そして、なぜ井松郎太氏がいきなり私に連絡をしてきたか、その真意を聞いてみた。

久師「井松くんさ、なんで急に連絡くれたの?」

井松「もう、30年も前の事になります。ボクは引っ越して学校を転校しました。そこで、いち早く友達をつくろうと、当時転校先の子供達が熱中していたブラックバス釣りに積極的に参加したんです。」

久師「そんでそんで?」

井松「そしたら、やっぱし子供だし、道具もヘッポコだし全く誰1人釣れない..........。そして1人、また1人と辞めていくんですが、最後に残ったのが友達を作ろうとして始めたボク1人になっちゃったんですw」

久師「それでもやってたんだw」

井松「そうなんですよ。もう、ブラックバスなんて『幻の魚』みたいになっちゃってて!wだからどうしても釣ってやろう!って1人でず〜っと水辺に通ってたんですよ。」

久師「なんだよ!ボクみたいじゃんw ストイックにも程があるw」

井松「いや〜、ほんとですよね。何度も何度も心が折れそうになりながらも続けていたら...........。やっと釣れたんです!!!!!25cmのバスが!!!!!!」

久師「ちいさっ!メダカじゃないかそれは?w」

井松「いや、ところが友達も初めて見るもんだから、井松が巨大なバスを釣り上げたってなっちゃって!www」

そう。現在では外来魚指定されてしまったブラックバスは、運搬する事が法律で禁止されている。しかし、当時、井松氏が釣り上げたバスは友達に見せるために合法的に運ばれ、彼は一躍クラスのヒーローに!

それから30年経ち、最近になってまたブラックバス釣りを再会しはじめた井松氏は、当時自分の釣り上げたバスが「巨大でなかった」事に気付いたのだ。

そこに来て、私は今年、2週間の間に50cmを超えるブラックバスを7匹も連続して釣り上げ、その他数えきれない程の50upを釣り上げた。

単純計算すると、井松氏が釣った25cmのブラックの2倍を余裕で超える。世界が違う事は数字上だけでも容易に想像がつくであろう。

程無くし、秘密の野池に到着した我々は息を殺すように、まるで忍者のようにあるポイントまで藪漕ぎした。

井松氏は漆黒の闇夜の中、ボーボーの藪に足を取られ、滑り転がりながらも、嬉しそうに「楽しすね❤︎」と、まるで中2の顔をしている。

もう一度言っておくが彼は日本一大きな広告代理店の部長だ。

彼の泥がついた顔を見ながら英国の詩人サミュエル・ジョンソンが残した釣りの名言を思い出した。

「釣り竿は 一方に釣り針を、もう一方の端に馬鹿者をつけた棒である」

まさに。私も含めてその通りだと思うのであった。

 

さて、お手並み拝見といこう。

私がポイントに案内し、井松氏が第一投を放った。

井松「あああああああああ!バックラッシュしちゃいました!(涙)」

そう。バックラッシュとは、力を入れ過ぎると、リールのスプールが空回りし、糸がこんがらかってしまう現象だ。

「絶対に釣ってやる!」という意気込みから、過剰な力を入れすぎた結果だ。

私は「場を荒らさないでよ〜w」と言いながら、湖面から少し離れたところまで彼と移動し、懐中電灯をつけてバックラッシュの具合を見てみた。

OMG............。深刻なバックラッシュだ。

ともすれば、こんがらかった糸が解けず、釣りの続行が不可能な程ヤラかしている。。。

秋も深まり、肌寒い空気の中、井松氏は汗ダクになりながら、絡み合った糸を解こうと必死だ。

10分程格闘の末、無事にバックラッシュで絡まった糸が解けた。

私は彼に2つのアドバイスを促した。

その1:「力を抜きなさい。まるで温泉に入っているようにリラックスして投げなさい」

その2:「もしも、もしも釣れたら速攻で大きな声で『出た〜〜〜〜〜っ!』と叫びなさい」

以上の事を伝え、私は竿を置いて、少し高台からタバコを吸いながら井松氏を眺めていた。

すると3投目でバシャバシャバシャアアアアアアアアン!(どデカい水音)でっ!出たぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

正直、私が狂喜乱舞であった。目的である「井松氏に絶対に釣らせる」というジョブを達成したからだ。

走って彼のところに駆け寄ると、これが超デカサイズのブラックバスだ!!!!!!!!!!!

男同士で思い切り抱き合った!

しかし、その後、井松氏は言葉にならない表情で焦っている。

なにしろ最大25cmのブラックバスしか釣った事がないので、デカバスの持ち方すらままならない。

そこで私がデカバスの持ち方を指南し、堂々たる45cmのブラックバスを手持ちする井松氏をパシャリ!

完全に少年時代に戻った井松氏。

完全に少年時代に戻った井松氏。

私は見逃さなかった。針外しでも手こずる。彼は少し震えていた。

30年間追い求めていたモノをその手にしているのだ。

脱糞レベルなのに良く耐えたと思う。

初のデカバスを名残惜しそうにハアハアしながら優しくリリースする井松氏

初のデカバスを名残惜しそうにハアハアしながら優しくリリースする井松氏

車に乗って、次の場所に移動中、さっき釣った回想シーンを2人で語り合った。

久師「あれ?井松くん.....。そういえば、釣れたら速攻で『出た〜〜!』っていう約束だったのに、一頻りバスが暴れた後に『でっ!でた〜〜っ!』って、タイムラグあったよね?」

井松「バレましたかwwww いや、もう一瞬頭が真っ白になって久師さんから言われた事吹っ飛んじゃって!で、あ、『出たっ!』って言わなくちゃって!wwww」

わかるよ。わかる。特に大物が釣れた瞬間ってそんなもんなんだよ。

そして私は、林房雄の釣り名言

「釣り師は 心に傷があるから釣りにいく。しかし、彼はそれを知らないでいる。」

という言葉を井松氏の横顔を見て思い出した。

20年間。大手広告代理店で働き続け、部長まで上り詰めた事。少年だった井松氏が仲間を作ろうと必死で1人ぼっちで釣りを続けた事。

そんな事から、林房雄の名言をポロっと口に出すと、彼は言った。

井松「実は.........。便通(bentsu)を退職しようと思っていて。もう決めました。退職します。」

私は井松氏のあまりの衝撃発言に車を運転しながら腰を抜かした。

思えば、私は就職したことがない。ずっと自由でいた。

しかし、井松氏は20年間もその激務に気づかないふりをし昇格し、社会的、経済的に成功した人間だ。

もちろん、その中でも彼なりの「自由」を求めた活動は業績に如実に現れている。「自由になろう!新しいことをはじめよう」という気概だ。

しかし、これだけ長期にわたり作り上げて来たものを簡単に手放してしまっていいのだろうか?

久師「マジで言ってるの?魚なんていくらでも釣れるし、一緒にいくから考え直しなよ」

井松「ありがとうございます!でも、違うんですよ!更に成長するための円満退職なんです。そして独立しようと思い構想していましたが、今回のデカバスで心が決まりましたよ。まさに円満退職独立ハッピーフィッシュです!!!」

不思議なことに、私は彼の言葉を聞いて安心した。

花を持たせて上げたかったので、その日私は15cmのバスを釣って落ちをつけた。

そして、すっかり明るくなった朝方 彼はまるで中学生のような清々しい顔をして帰っていった。

 

次の週

井松「久師さん!今週も行きたいんですけど!www」

久師「もちろんいいよwww」

そして、この前のバックラッシュがそうとう参ったのか、はたまたもっとデカイのを釣りたいのか、糸を80lb(子供を引っ張れるくらいの強度)に巻き直し、退職願いの書類が写った写真を送って来た。

では、独立する井松くんにこの言葉を送ろう。わかっているとは思うけどね!

「経営者はもう少し漁師の精神を学ばなければいけない。漁師は釣れなければ、狙う魚を変え、道具を変え、場所を変える。いつも同じところにじっとしていて『魚がいない』と嘆いているだけではダメだ」 実業家 飯田亮

 

できればモテモテは女性からがいいんだけど、男友達も悪くないもんだね。


というわけで、今号では1人のオサーンしか紹介できなかったので、次回はもう1人の猛者「あっちゃん」をご紹介させていただこう。

お楽しみに!

 

 

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