大倉孝二・ブルー&スカイ インタビュー~今までより少し大人な、哀愁のある“くだらなさ”を ジョンソン&ジャクソン『どうやらビターソウル』
(左から)ブルー&スカイ、大倉孝二
俳優の大倉孝二と脚本家・演出家 ブルー&スカイによる、くだらない演劇を手掛けるユニット「ジョンソン&ジャクソン」。2014年の旗揚げから定期的に公演を行なってきたが、2020年『ジョンソン&ジャクソンの梅まつり in ユーロライブ』は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止。2022年11月9日(水)より、下北沢 ザ・スズナリにて4年ぶりの上演が決定した。“くだらなさ”を追求し続ける二人に、ユニットについて、今回上演する『どうやらビターソウル』の構想などを聞いた。
――2年前の梅まつりの中止を経ての今回です。公演が決定した今の心境を教えていただけますか。
大倉:梅まつりが中止になったこともあり、やりたいと思ったから公演を決めたんですけど、いざ取り掛かるといつも嫌になっちゃうんですよね(笑)。
ブルー&スカイ:苦労を思い出すんだよね。
大倉:終わると苦労を忘れちゃって、またやる時に「こんな大変なことをやるんだ」っていう繰り返しです。「やってもいいよ」と言われると「ならやります」ってなるけど、近付くとどんどんブルーになっていきます。
ブルー&スカイ:大倉さんのいうブルーがどのくらいか分かりませんけど、僕はその3倍くらい憂鬱です。
大倉:俺の憂鬱さは、あなたが書かなくて俺が一緒に書かなきゃいけなくなるからだよ(笑)。
ブルー&スカイ:だって共作でしょ(笑)。
大倉:違うよ。「一人じゃ書けない」って言うから、じゃあしょうがないなとなったけど、僕は書いたりできないし、旗揚げ当初はここまでガッツリ共作だと思ってなかったんです。お手伝いくらいかと……。考えるのは自分の仕事じゃないと思ってるから、何回かウェイトの調整は打診してるんですよ。でもなんか無視されるんですよね(苦笑)。僕がジョンソン&ジャクソンをやりたい理由は、ブルー&スカイという作家のものに出たいからなんです。僕が書きたいなんて全く思っていない。
ブルー&スカイ:大倉さんもやりたい芝居があると思うから、その意向を入れたいんですよ。ジョンソン&ジャクソンは共作だから、一人でやるのとはまた大きく違うんですよね。
大倉:なんでジョンソン&ジャクソンは一人でやらないって決めちゃったの? 一人でやってくれても僕はいいんですよ。
ブルー&スカイ:……。
大倉:ほら、とぼけるでしょ(笑)。
ブルー&スカイ:劇団でもユニットでも、共作で作るお芝居ってあまりないと思うし、これはこれでいいんじゃないかなって。
――ジョンソン&ジャクソンでしか味わえない楽しさ、ものづくりにおける面白さはどんなものでしょうか。
大倉:打ち合わせをしていても、基本は辛いですよ。二人でずっとどうでもいいことばかり話してる。どれだけどうでもいいものを作れるかっていう話し合いですからね。でも、たまにお互いが言ったことで笑える。そういうのは一人で作ってる方にはない良さだと思います。
ブルー&スカイ:これまで出演してくれた人、例えば池谷(のぶえ)さんに聞いたら、どこをどっちが書いたか分からないと言ってくれる。だから、大失敗はしてないんじゃないかと思いますね。二人で作っていて分担がバレていないのは、良さというか成功なんじゃないかと。
大倉孝二
――今回はどんな作品になるんでしょう。
大倉:ストーリーものですね。梅まつりはオムニバス的な発想のものを1つにするような方向で考えていましたが、今回はストーリーありきで進んでいます。かといって、僕らの場合やりたいストーリーが特段あるわけではないんです。やりたいのはただくだらないこと。普通、作品を書く時ってやりたいことや伝えたいことがあるから作るけどそれが皆無。くだらないことをするためにストーリーを考えるという意味のないことをやっているから本当に苦しいんですよね(笑)。しかも、この数年はくだらない気持ちになることってないじゃないですか。困難な時代になっているというか、ふざけるシチュエーションがなくてそういう気持ちにならない。
ブルー&スカイ:心にゆとりがないと難しいのかなと思うよね。前回の公演はコロナ前だったから。
――具体的なストーリーのヒントを教えていただけますか?
大倉:渡辺真起子さん演じる、表舞台で活躍している女性が、あることをきっかけに人を訪ねて旅をする物語です。その先々で起こる様々なこと、過去や現在が絡み合ってたくさんの人に出会うんですが、要因も行われることもくだらない。でも本人たちは真面目にやってるという話ですね。
ブルー&スカイ:今までより、ちょっと大人っぽくしたいって言ってたよね。
大倉:今回は出演者がみんな同世代で50歳前後。50歳って思うと、それなりの何かが滲み出ていないと駄目かなというか、出てくださる3人に迷惑なんじゃないかって(笑)。50歳くらいにもなると、普段そんなにばかげてないんですよ。滲み出る哀愁を含んだくだらなさを表現したいと思っています。
ブルー&スカイ
――過去公演のインタビューで「大倉さんは台本を書きたくない、ブルー&スカイさんは役者になろうとしている」というお話をされていました。大倉さんの気持ちは変わっていないようですが、ブルー&スカイさんの気持ちに変化はありましたか?
ブルー&スカイ:今回も出演しますが、今後役者を目指すというのは100%なしです。
大倉:やめたの?
ブルー&スカイ:きっかけの1つはKERAさんの『世界は笑う』なんですけど。
大倉:最近じゃん(笑)。
ブルー&スカイ:そこに出演している役者さんたちの芝居が素晴らしくて、僕にとって身近な存在である神谷(圭介)さんがすっかり馴染んでいるのを見たら、役者は無理だと思いました。作品の世界も役者さんも完璧だと思ったんです。もし自分があそこに役者として立てと言われたら無理なので、役者になりたいという気持ちはゼロです。
大倉:でも、脚本と演出を一生懸命やってくれる方が僕はいいからゼロでいいです(笑)。
――今回のキャスト3名はどういった理由の人選でしょう。
大倉:佐藤真弓さんは前にも出てもらっていて、今回どんな方に出てもらうか考えたときに最初に浮かんだ一人でした。快諾していただけて一安心したので、他のキャストは全然違う方をと考えました。まず候補に上げたのが渡辺さん。映画とかで見て素敵な役者さんだと思っていたので「どう思う?」って聞いたんです。
ブルー&スカイ:僕が好きな映画に渡辺さんが出演されているんです。強烈な印象が残っていたので、いいなと思いました。
大倉:試しに、冗談くらいの気持ちで聞いてみたらすぐ出てくれることになって、どうしようかと(笑)。あと一人を作・演出としても活躍している方はどうだろうと思って、これもダメ元でノゾエ征爾くんに頼んだら出てくれることになった。そこから一気に辛い気持ちになりましたね。みなさんのキャリアの汚点になってしまうんじゃないかって恐怖心とプレッシャーがどんどん高まって。でも、このプレッシャーを乗り越えたところで書くものは一緒ですからね。ノゾエさんは劇団「猫ニャー」の頃からブルー&スカイさんをよく知ってるし、渡辺さんが引き受けてくれた理由は分からないけど、資料は見てもらってるから、思ってたのと違うって言われても「見ましたよね?」って言える(笑)。
ブルー&スカイ:くだらないやり取りが続く芝居を渡辺さんにやっていただいたら、ギャップがすごくて面白さが出ると思う。なんてことないセリフでも雰囲気がある感じで演じてくださるだろうし。
大倉:稽古は波乱もたくさんあるでしょうね。当て書きでもあるので、いつもよりポップさは抑えたいです。
ブルー&スカイ:しんみりとさせたいよね。
大倉:しんみりとはしてないよ(笑)。そういう雰囲気は出したいけど。
――今回、ジョンソン&ジャクソンとしては初のスズナリです。
大倉:僕個人としても何十年ぶりなので楽しみです。
ブルー&スカイ:僕は大倉さんほど久しぶりじゃないけど、スズナリに立っている大倉さんを見たことがない。客席と舞台も近いし、そこで大倉さんを見るのは……僕は客席からは見れないけど、貴重だし楽しみですよね。
――久しぶりの大阪公演もありますね。前回の大阪公演の印象は覚えていらっしゃいますか?
大倉:正直、全然ウケないかもと思ってたんだよね。
ブルー&スカイ:でも、大阪のお客さんって温かいイメージ。
大倉:あんまり期待してなかったけど、すごく反応がよかったんですよね。大阪の初日は台風が来ていて客席は結構ガラガラだったにも関わらず反応がよくて、2日目以降もすごくよかったんです。こんなに喜んでくれるならまた来たいなと思っていました。『夜にて』では東北にも行ったけど、東北でも反応がよかったね。
――ブルー&スカイさんが感じる、大倉さんという俳優の魅力は。
ブルー&スカイ:昔からファンみたいな感じで、知り合いになってからもそれは変わりません。見に行くと笑わせてくれる存在ですね。
――大倉さんから、ブルー&スカイさんという作家に対しては。
大倉:この人が書く作品に出たい気持ちもあるし、この稀有な作家をもっとみんなに知ってほしい気持ちもありますね。ナンセンスな芝居って、今なかなかないと思うし。
――ジョンソン&ジャクソンの作品は音楽の要素も強いです。今回もそこはあるんでしょうか。
大倉:そこまで強くはないけど、何かしらは音楽の要素が入ると思いますね。テイストはそこまで変えようがないから。
ブルー&スカイ:毎回作り手側としては変えようと思っている。でもお客さんからすれば「同じじゃないか」となっているかもですね。
大倉:僕らはいつも違うものを作っているつもりなんですよ。でも、それがどう見えるかは別問題。一貫しているのは、出演者揃って本当にどうしようもないことをするということ。色々な意味で涙なしでは見られない公演になるんじゃないかと思います(笑)。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
2022年11月9日(水)〜11月20日(日)
下北沢ザ・スズナリ
2022年11月25日(金)〜11月27日(日)
ABCホール