南河内万歳一座の新作『漂流記』(配信あり)作・演出の内藤裕敬が会見で語る。「何にしがみついて漂流すればいいか? ということを、ひどいけど面白く描きたい」
「南河内万歳一座」座長で、『漂流記』作・演出の内藤裕敬。 [画像提供]南河内万歳一座(人物すべて)
ここ最近は、初夏の頃に過去の名作、盛秋の頃に座長・内藤裕敬の新作というサイクルで上演活動を続けている、関西演劇界の雄「南河内万歳一座」。最新作『漂流記』でも、バカバカしくも叙情的に現代社会をカリカチュアライズした脚本を、肉弾戦のような集団演技で見せていく。ガラクタ置き場のごとき世界から、人生という“漂流”をいかに生き抜いていくべきか? を描き出すという本作について、内藤の記者会見が行われた。
『漂流記』着想のきっかけは、災害やウイルスなどの不安が尽きない現代を生きる人々が、まさに海をただよう漂流民のように見えてきたということと、自分自身が偶然流れ着いた何かにしがみつくことで、ここまで生き延びてきたという思いを抱いたからだと言う。
南河内万歳一座『二十世紀の退屈男』(2022年)。 [撮影]面高真琴
「日本は様々な天災に見舞われて、帰る故郷も仕事も失うということが、毎年どこかで起こっているけど、それって自分とはまったく無関係に船が沈んで、海に放り出されて、漂流が始まっちゃうようなものだなあ、と。そういうことを周りに話すと、特に若い俳優たちは『先のことは一切分からないままもがいていて、自分たちも間違いなく漂流している』と言うんですね。でも漂流から生還した人はいるわけで、そういう人はみんな救命胴衣を付けていたか、何かにつかまっていた人。
そう考えると僕の場合は、演劇にしがみついてここまで来たけれど、人生を大きく左右した出会いというのは、全部必然ではなく偶然でした。素晴らしい指導者に出会ったのは、入った大学にたまたまその人がいただけだし、早い時期に唐(十郎)さんと呑む機会をいただけたのもたまたま。でも演劇という筏にしがみついていたから、そういう偶然があったわけで、しがみつくものが違っていたら、行き着く場所は変わっていたんだろうな、と。
だから、間違ったものにしがみついてしまうと『こんなはずじゃなかった』という船に拾われたり、来たくもない所に流れ着いて、その漂流を後悔することになったんじゃないか。ということは『何にしがみつくのか?』ということが、我々が生きていく上で大きな要素になるのかもしれないし、それを探す物語を書けないか? と思いました」。
内藤裕敬。
舞台となるのは「(今会見している)うちの稽古場がモチーフ」(内藤)だというガラクタ置き場。そこに迷い込んだ浪人生、失業者、フリーターという、まさに漂流真っ最中状態の3人が、三蔵法師のような人物やプロゴルファー、あるいは漂流から生還した男性などと出会い、ガラクタ置き場の中で「しがみつくべき何か」を探していく──。
「ガラクタ置き場っていうのは、いわゆる世間の暗喩。今のガラクタみたいな世の中から、他人にはガラクタでも、自分にとっては宝だという何かを見つけるのが人生であり、その宝物にしがみついて漂流していくのだろう……という気がするんです。経典を求めて天竺まで“漂流”した『西遊記』の要素も、遊びとしてちょっと入れています」。
40代の半ばから「偶然頭に浮かんできたものを次々と遊んでいくうちに、自分でも予想ができない話ができあがる」という作劇方法が定着している内藤。今回はそのやり方をさらに発展させた作劇に挑戦しているが、なかなか苦労しているとか?
南河内万歳一座『二十世紀の退屈男』(2022年)。 [撮影]面高真琴
「いつもはおぼろげに計画を立てるんですが、今回はすべて偶然で書いてみることにこだわりました。自分で遊んで出てきたものを、面白おかしく応用して、偶然との出会いを楽しみながら、何か変な物語を綴ってみようと思ったけど、もう少し準備すべきだった(笑)。偶然だけに頼らず、こだわるべきものをいくつか持っていないとダメだなって。
でもとても意外な物語というか、わかるわからないは置いておいて、最後まで好奇心や想像力を途切れさせずに観ちゃうような作品になるんじゃないかな。目指すのは、突拍子もないひどさ……『こんなにひどいけど面白い』という感じのもの。劇団は42年続いてますけど、年齢や経験を重ねるほど、そういう発想をしていかないと、演劇に関わることが面白くなくなる気がします」。
ちなみに今回の物語では、内藤の親戚にあたる漁師の男性を、初めて具体的に登場させるという。この人は内藤が劇団を一時休団した時に、マグロ遠洋漁業に出た船の船長で、内藤の人格形成に大きな影響を与えた人物だそう。また彼は、日本のマグロ漁の船団が台風に巻き込まれて、30名以上が亡くなった海難事故で、36時間の漂流の末に生き残ったという、壮絶な体験をしている。
内藤裕敬。
「彼をモデルにしたキャラクターは、これまでも登場してきましたが、ここまでガツッと書いたことはなかった。実際に過酷な漂流を乗り越えた人でないとわからないような話をいっぱい聞いたので、いつかちゃんと書きたいなあと思っていました。その人は偶然すのこにしがみついて、流れてきた竹竿やロープを使って筏を作ったことで生き延びたんですけど、それは二次的要素だと言うんです。
彼は当時子どもが生まれたばかりで、その子どもが気になったから生き延びることができたと。つまりあきらめきれない理由……『必ず帰る』という強い意志があったのが、生還できた一番の理由だったそうなんです。このおじさんは、記者会見の会場から逃げてきたという形で登場します」。
これまでも、ごくごく個人的な悩みから、世界レベルの大きな社会問題まで、様々なテーマを遊び倒してきた内藤が、通常よりも「ひどい発想をする」ことを意識したという本作。しかしコロナ以降、何もかもがよりデタラメに見えてきた今の世の中をカリカチュアライズするには、案外内藤のような自由な発想の方が対抗できそうな気がするし、生き延びるためのヒントを見出す可能性も大きくなるかもしれない。
今回も残念ながら大阪公演のみだが、千秋楽翌日からアーカイブ配信が実施される。いろんな意味で「漂流」について遊び倒したその世界を、会場まで行けない人たちは、せめてPC上からでも確認してみよう。
南河内万歳一座『漂流記』公演チラシ。 [イラスト]長谷川義史
取材・文=吉永美和子
公演情報
■出演:鴨鈴女、福重友、鈴村貴彦、松浦絵里、市橋若奈、寒川晃、有田達哉
にさわまほ(安住の地)、松本薫、丸山文弥(劇団阿呆船)、吉岡莉来(1345:弱くて何が悪い!)
■日程:2022年11月1日(火)~6日(日) 1・4日=19:00~、2日=14:00~/19:00~、3・6日=14:00~、5日=13:00~/17:00~
※2日昼公演&3日公演後にゲストを招いたトーク有り。2日=坂口修一、3日=岩崎孔二
※11月7日~30日にアーカイブ配信あり。
■会場:一心寺シアター倶楽
■料金:前売=一般3,500円、学生・65歳以上3,000円、青春18歳差切符(年齢差18歳以上のペア切符)5,500円 当日=各500円増 配信=3,000円
■問い合わせ:06-6533-0298(南河内万歳一座)
■公演専用サイト:http://banzai-ichiza.com/?p=1418