廣津留すみれ、紀平凱成らがトーク&リサイタル 「スタクラフェス in TOSHIMA」自由学園明日館の4公演をレポート
【3】髙木竜馬 @ 自由学園明日館 15:30~
髙木竜馬
髙木竜馬は、こどもの頃から注目を集めてきたピアニストである。そのころから海外のさまざまなコンクールで優勝し、世界的に著名な演奏家らから指導を受けている。高校在学中にウィーン国立音楽大学に合格。同大学院を修了し、ポストグラデュエート課程で研鑽を積む。アニメ『ピアノの森』でピアノ演奏を担当し、幅広い人気を得ている。直近では、グリーグ国際ピアノコンクールで優勝。
古楽や指揮も学び、多角的に音楽を追求する姿勢は、彼の個性豊かなピアノ演奏にも反映している。
この日のプログラムは、8月~9月にかけて行われた「『ピアノの森』ピアノコンサート」ツアーのプログラムからの選曲。冒頭は、「エリーゼのために」の名で知られるベートーヴェンのバガテル。淡い感傷を静かに映し出すような、心憎い演奏である。髙木の指先からゆっくりと紡ぎ出される音の一つひとつには、ベートーヴェンの心の翳りがほのかに漂う。
髙木は弾き終えると、マイクを手にした。午後3時30分開演のこのリサイタルは、彼にとっては当日3公演めの出演で、「アドレナリンでまくりの状態」だったそうだ。
髙木竜馬
また、今夏訪れたノルウェーのホールを思い出したそうで、「日本離れした建物ですね」と、感慨深げに講堂を見渡す。そして、「肩肘張らずにリラックスして楽しんでください」と客席に語りかけていた。
続いて、ショパンの2曲のワルツを披露した。まず、「別れのワルツ」の愛称で知られる「ワルツ第9番」。音の言葉が零れ落ちるような詩情豊かなメロディの表現は圧巻だ。この作品では淡くセンチメンタルな演奏が多いが、髙木の奏でるメロディは濃密で、聴く者の心の奥底まで響きわたっていく。また、彼の細やかな息遣いを通して、微細な緩急を施したメロディとワルツのリズムとを絶妙に融合させ、叙情性に富んだ音楽を作り上げた。「小犬のワルツ」(ワルツ第6番)では、右手のタッチを巧みにコントロールし、粒立ちの美しい音を生み出し、音楽の流れを生き生きと表わす。
髙木竜馬
拍手をはさみ、「24のプレリュード」から第24番を披露した。変幻自在な音の表現も髙木の魅力だ。効果的に楽器を鳴らして重厚な音の響きを醸し出し、ほの暗い情熱を喚起する。ショパンの心情を重ね合わせるようにハーモニーをデリケートに変化させ、最後はハンマーのように鍵盤を打ち鳴らし、ドラマティックに音楽を結んだ。
「スケルツォ 第2番」も、このジャンル特有の諧謔性をたんに主張するのではなく、作品のもつ劇的な側面をしっかりと汲みとり、濃密な音物語をくり広げていく。メロディラインの表現が絶妙であり、同時に内声部を巧みに抑制して、作曲家の心の陰と陽を鮮やかに描き上げた。
「英雄ポロネーズ」(ポロネーズ第6番)においても、目くるめくドラマが展開される。繰り返されるテーマやモティーフに、新たな息吹を注ぎ込んでいく。
髙木竜馬
アンコールは、グリーグ「夏の調べ」。
この日は、髙木の30歳の誕生日であった。
「こんな日にベルトを忘れ、スタッフに借りて」ステージに臨んだそうだ。人生の早い時期からステージに立ち、世界を駆け巡ってきた髙木。深い音楽解釈と高い演奏技術を備えた稀有な存在だけに、今後の活動が注目される。
>(NEXT)石井琢磨