廣津留すみれ、紀平凱成らがトーク&リサイタル 「スタクラフェス in TOSHIMA」自由学園明日館の4公演をレポート

レポート
クラシック
2022.12.2

【4】石井琢磨 @ 自由学園明日館 17:00~

石井琢磨

石井琢磨

YouTubeチャンネルやストリートピアノで爆発的な人気を誇る石井琢磨は、クラシック音楽を軸として多彩な活動を展開する。東京藝術大学とウィーン国立音楽大学修士課程を修了し、ポストグラデュアーレコースに学ぶ。2016年ジョルジュ・エネスク国際コンクールピアノ部門で第2位を受賞するなど、着実に成長を遂げているピアニストだ。

午後5時開演の40分間のリサイタルでは、今年9月にリリースされたばかりのセカンド・アルバム『TANZ』に収録された曲を中心にプログラミングされた。

舞台に登場した石井は、「猫のワルツ」とも呼ばれるショパン「ワルツ第4番」を披露。ワルツのステップを大胆に表わしながら、くるくると回るような右手のメロディを生き生きと奏でる。

石井琢磨

石井琢磨

ここで初めて石井のトークが入る。午前中に野外劇場の会場でも演奏したと言い、「ここまできて、1つの笑いもとれないですが(略)リラックスして聴いていただきたいのが僕の気持ちです」と語る。石井のトークは独特で、丁寧な語り口とともに彼の素直さも伝わり、それも彼の大きな魅力だ。

続いて、リスト「愛の夢第3番」では、ショパンとは音質をがらりと変え、メロディをしっとりと歌い上げ、そこに絡み合うアルペジオを丁寧に奏でていく。石井の冷静な眼差しを通して内なる情熱が美しく表わされた。

ここで再びトークが入る。「トーク……もう少しうまくなっていきますので、その成長も見守っていただけますか」と客席に語りかけると、拍手が沸き起こる。

石井琢磨

石井琢磨

その流れで演奏したファリャ「火祭りの踊り」は、会場の心地よいノリが石井の演奏にも作用し、音楽に強い推進力をもたらす。一期一会の、まさにライヴの醍醐味であろう。彼は、感情を精妙にコントロールし、重みのある音でメロディを丹念に表出していく。

このホールについて、「皆さんの視線を感じることができる」と石井は述べた。

続いて、「僕の好きな作品」というシューマン=リスト「献呈」。以前にこの曲をレッスンで弾いたところ、師から「嚙みしめなさい」と言われたエピソードを披露した。石井は、曲を落ち着いたテンポで、繊細な感情の起伏を表わしていく。心が高揚する場面でも、情熱を爆発させるのではなく、エネルギーを蓄積させていくようにじっくりと音楽を構築していった。

石井琢磨

石井琢磨

ツェルニーの「ベートーヴェン幻想曲《私を思い出して》」は、2020年2月に大学修了時に演奏した、石井にとっては運命の1曲。

さまざまな書法が作品にとり入れられた作品であるが、音楽の骨格を明確に示し、ひとつの大きな流れのなかに巧みにまとめ上げ、同時に豊かな音楽の表情を描き上げる。説得力の強い演奏であった。

水分補給を終えて舞台に戻ってきた石井は、十八番のグリュンフェルド「ウィーンの夜会」を弾いた。小粋なリズムや自在なテンポの緩急、メロディの歌いまわしなど、さり気ない仕草や典雅な趣を巧みに醸し出していた。

アンコールはサティ「ピカデリー」。時間をオーバーしていたが、石井は何度も舞台に呼び戻された。コロナ禍から生まれたクラシック音楽界の新星を、あたたかく見守る聴衆の気持ちが伝わってきた。

石井琢磨

石井琢磨

取材・文=道下京子 撮影=荒川潤(廣津留、紀平)、安西美樹(髙木、石井)

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