月曜から音楽に浸る幸せ空間に『BOB ROCK FESTIVAL 2023』ーーくるり、iri、yonawo、tofubeats、奇妙礼太郎のライブに酔いしれる
『BOB ROCK FESTIVAL 2023』くるり
『BOB ROCK FESTIVAL 2023』2023.10.23(MON)大阪・服部緑地野外音楽堂
10月23日(月)、大阪・服部緑地野外音楽堂で『BOB ROCK FESTIVAL 2023』が開催された。“ハッピーマンデー美容師フェス”をテーマに、週のはじまりである月曜の真っ昼間に、自然に囲まれた野外音楽堂で音楽とお酒、おいしいごはんに包まれた音楽フェスとして2019年にスタート。今年で3回目、初の秋開催を迎える。週末に休みを取りづらい美容師に音楽フェスを楽しんでほしいと、大手美容ディーラー「ガモウ関西」が主催し、『たとえばボクが踊ったら、』チームが制作しているイベントで、美容師はもちろん、週末に仕事を頑張る音楽ファンに、明日への活力になればという願いが込められている。
イベントのには“美容師割”なるもあることから、会場には休日を存分に楽しもうとたくさんの美容師が集まっていた。どうしてお客さんの多くが“美容師”だと分かるのかというと、筆者が通うサロンのスタッフや、その友人らも会場に遊びに来ていたから。それに、集まったお客さんはとにかくみんなオシャレ! ロックフェスならではのバンドTシャツやバンドタオルを掲げている光景とはまた違って、きれいにカラーリングされたヘアスタイル、個性的なファッションの人ばかり。ステージ写真だけじゃなく、思わずファッションスナップも撮りたくなる。
この日は気持ちの良い秋晴れで、音楽フェスにぴったりの天候。観客はオープンと同時に、フードやお酒を楽しみながら会場の雰囲気を満喫。音楽フェスだけど、このゆる~い空間が休日感満載でライブスタート前から満足度が高い。“月曜から…”なんて背徳感ではない。この会場は、月曜日だけど“週末”のような幸せな時間が流れているのだ。
奇妙礼太郎
トップバッターは奇妙礼太郎のステージから。「よろしくです」。ラフに挨拶を交わすと、饗宴の幕開けにぴったりな「オンリーユー」でライブスタート。会場にブワっと広がる心地よい声が響き渡った瞬間、観客が一斉に歓声を上げる。この日はバンドセットでのステージ。ご機嫌なギターサウンド、体を心地よく揺さぶるリズムを身にまといながら、ビールをぐっと煽る。なんて最高な1日の始まりだろうか。
「みんな歌ってくれる?」と、次曲は「オーシャンゼリゼ」。客席はもちろん、会場後方にあるフードエリアの行列に並ぶ人もみんな笑顔で歌う、歌う、歌う。<いつも何か素敵なことがあなたを待つよ>と歌詞にある言葉は誰もが確信に変わったようで、大団円のごとく拍手喝采が響き渡る。
「愛の讃歌」では、多幸感と生命力たっぷりの歌唱を響かせる。歌声で会場を魅了し、ライフへ、ラブへ代わり、感情が大いに揺さぶられてしまう。続くMCでは、せっかくだからと前日に美容室に行ってきたと語る奇妙。ゆる~いトークは相変わらずで、ラストは地元大阪らしく「ほんまにおいしいお好み焼き」で最後の最後までたっぷりと奇妙ワールドに浸してくれた。
この日のイベントMCはFM802のDJ板東さえかが担当。この日、美容師が1000人ほど集まったらしく、あまりの人数に会場がざわつく瞬間も。さらに、は小学生以下無料ということもあり、小さな子どもを連れてピクニック気分で来場する人も多かった。月曜の真っ昼間に生のライブを楽しめるイベントはなかなか他にはないので、貴重な経験になったはず。なかには小学生くらいの子どももちらほら。話を聞くと、運動会のあとの振替休日なんだとか。パパやママと一緒に月曜のお休みを満喫できるなんて最高だ!
会場ではフードやドリンクブースのほか、イベントロゴを手掛けたイラストレーター・yamyamによる似顔絵屋も出店。ライブの転換の合間もずっと音楽が鳴り続け、会場はとにかく笑い声とたくさんの笑顔で満たされていた。
tofubeats
続くtofubeatsは会場をクラブへ早変わりさせていく。「お休み楽しんでますか? いつもお仕事お疲れ様です。今日は僕が仕事します!」と、1曲目「RUN」からご機嫌なサウンドで観客のテンションを高めていく。tofubeatsをはじめ、この日出演するアーティストの誰もが、昼間からのライブは貴重だけれど、この日ならではのセットリストが楽しめるのも気分がいい! この日の出演者はジャンルも世代もバラバラだけど、とにかく“気持ちよく”させることに長けた面々がそろっている。tofubeatsも「LONLEY NIGHTS」、「No.1」と、心地良いビートで観客を躍らせ、気付けばスタンドエリアになっている客席前方には驚くほどたくさんの人が集まっている。
あまりの暑さにアウターを脱ぎ捨てると、そこからさらに心地よく体を揺らす楽曲陣で観客を躍らせていく。緩やかなビートとボーカルが、ずっと気持ち良いところばっかりをくすぐってくる。ハイすぎるのでも、ローすぎるのでもない。ちょうどえぇ塩梅な歌声がとにかくリラクシンな気分にさせる。
ステージ後半はよりアッパーな楽曲で攻めていく。ぐいっとのし上がっていくようなビートに観客が沸き上がる。最終曲直前に機材トラブルがあったものの、抜群のセンスとサウンドで見事に懸け抜けていった。
yonawo
3組目は『BOB ROCK FESTIVAL』のもはや常連、3度目の出演となる、yonawo。サウンドチェックからまどろみの中に溶け込むような心地よい音で観客を溶かしていく。本編では荒谷翔大(Vo)のまったりとした歌声、メロウなビートがずっと気持ちよさをキープしているもんだから、極上気分のまま時間が過ぎていく。
「最高のマンデー!」と叫び、観客の士気を高めて次曲「good job」へ。これまたゆるりとリラクシンなバンドサウンドで、芝生エリアではうっかり眠りに落ちてしまう人の姿も(起きて!もったいないから!)。田中慧(Ba)のベースラインがずっと耳の奥を気持ちよく揺らしていく。
ライブには美容師だけでなく、ノリノリで踊るパン屋さんも。音楽を楽しむのに職業は関係ない。ただ、何度も言うけれど、月曜のお昼間から音楽フェスを満喫できるのは本当に心底最高なんだと思う。週末のライブに行きたくてもいけない、という仕事に就いている人はたくさんいる。そこに配慮してくれるイベントがあるのはとてもありがたいし、だからこそ特別感が生まれているはず。
パン屋さんの盛り上がりに負けじと、「苺」からぐっと音圧を高め、より深層に深く入り込む音で心酔させる。陽が赤く染まりだす時間、まったりとする時間帯にぴたりとハマっていて、そのまま奥底まで沈んでしまいたいとすら思う心地よさがある。最終曲「tokyo」まで、気持ちよさを追求したステージに誰もが酔いしれていた。
『BOB ROCK FESTIVAL』の各ステージでは、出演者が普段お世話になっている美容師や自身のヘアスタイルについて語るという、普段のライブではなかなか聞くことのできないトークも飛び出していた。また美容室は店舗によってBGMが異なり、最新J-POPから往年の洋楽ヒット、ラジオだったりと個性がある。もしかすると、明日からは『BOB ROCK FESTIVAL』出演陣の楽曲リストに代わる可能性もあるのかもしれない。
iri
ステージ前方に駆け込んだ観客のあまりの多さに会場がざわついたのがiriのステージだ。サウンドチェックではポケットに手を入れて、ステージの上をふらりと散歩するようなラフさで「渦」を歌い、重低音がよく響く歌声を聴かせる。歌声に抜群のリズム感覚を持ったソウルフルな歌声に、早くも誰もが夢中になって聴き入っている。
大きな歓声に迎え入れられると、1曲目「friends」から抜群のバンドグルーヴのなかを弾むように、余裕さえ感じる歌唱で会場の空気をあっという間に席巻してしまう。「思い切り楽しんでいきましょう!」のひと声で、バンドに一段と大きなアクションを起こすと次曲「STARLIGHT」へ。キーボードの音色がカラフルで、ビートは心がキュンとするほど弾んでいる。そこに絡んでいく彼女の歌声はフリーダムでグルーヴィ。なんとも言えない支配力がある。
さらりとギターを奏でるだけで歓声が沸き起こった「ナイトグルーヴ」や「会いたいわ」など、曲を進めるごとに歓声が沸く。改めて彼女の注目度の高さに驚かされる。ステージ後半はボーカルがより強くなり、色彩を濃くしていく。呼吸と音が溶け込み、呼気さえも音に、声に聴こえてしまう。
自然に囲まれた会場の雰囲気が好きだと語る彼女。最終曲「Wonderland」まで歓声は止まることがなく、最後は観客とシンガロングでフィニッシュ。
くるり
大トリのくるりのライブを前に、会場は夕暮れから夜の空気の匂いが漂ってくる。ステージに灯された白熱電球のオレンジ色が優しく会場を照らしている。
くるりはサウンドチェックから「潮風のアリア」をさらりと歌い、観客の期待値をしっかりと上げていく。
「みなさん、こんばんは。くるりと申します」いつものさらりとした挨拶から、1曲目「In Your Life」へ。この日のセットリストは極上ものばかり。佐藤征史(Ba.Vo)のベースのリズム、ドラムのビートが少し冷えてきた体をぐっと熱くしてくれる。次曲「California coconuts」、おなじみのギターリフが響いた瞬間、会場がわっと揺れる。岸田繁(Vo.Gt)の平熱よりちょっぴり微熱くらいの、ふわりとした歌声が気持ちよい。彼の歌声はメロディが優しく、リズムは心臓の鼓動に近い。柔らかいんじゃなく、確かに生きている、そんな感覚を覚える。
ぐっと暗くなった会場に響く「太陽のブルース」では、歌詞がじわりと心を刺す。明日は変わらずやってくるけど、ちょっとだけ張り切っていきたくなる。ガソリンみたいな勢いある感じではなくて、毎日のご飯みたいな。今日はちょっとえぇごはん食べた、そんな気分になれる音楽が鳴り響いている。
「みんな美容師さんやんね? 月曜はライブないもんね。(『BOB ROCK FESTIVAL』は)考えたもんですね。美容師さんの飲み会は楽しそうやね。今日はピースフルにやりたいと思う」。たんまりお酒を飲んでご機嫌な観客を前に、豪快にパーティを盛り上げるんでなくて、「さよならリグレット」「aleha」と、時間と空間にあった音を展開していく彼ら。
後半は「世界はこのまま変わらない」から、ぐっと濃度を高めたロックサウンドを展開していく。「琥珀色の街、上海蟹の朝」が響く頃には夜もどっぷりで、ここから「ばらの花」「ブレーメン」と問答無用のキラーチューンを連投。ギターリフが響くだけ大歓声とクラップが鳴り響き、誰もが歌い、スマホライトを掲げ、バンドの音を称賛する。
「みなさん、いい一日でした?よかったよかった」。観客の満面の笑みを見た岸田は最後に一曲だけ、とアンコールで「ハイウェイ」を披露し、ステージは終了。
「ハッピーマンデー」の言葉にふさわしい、ハピネスな空間に包まれた『BOB ROCK FESTIVAL 2023』。なにやら次の開催も決まりそうな予感がしているんだとか。またここで、みんなと笑顔で幸せな月曜日を過ごせるのを楽しみにしたい。
取材・文=黒田奈保子 写真=『BOB ROCK FESTIVAL』(撮影:渡邉一生)
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