新国立劇場『ザ・ヒューマンズ─人間たち』 山崎静代×平田満×桑原裕子インタビュー
――山崎さんはいま、演劇のお仕事に関して、どういうところに魅力を感じているんでしょうか?
山崎:何回も何回も同じことをするっていうところですかね。お笑いをやっている人たちってほとんど稽古をしないんですよ。1回か2回くらいで、あとはアドリブで「この部分は本番でやるから」みたいな感じで、ローテンションで稽古しておいて、本番で急にテンションが変わるみたいなことが多いんです。だから最初は演劇は一カ月も稽古をするってことに戸惑って、「え? そんなにやるの?」みたいに思ったんです(笑)。
平田:みんな思います(笑)。
山崎:でも、何回もやらせてもらう内に、ご一緒した演出家さんがみなさん素敵な方ばかりで、いろんなことを教えてもらえたりもするし「一カ月って必要なんや」って思うようになりました。
本番が始まってからも、ずっと同じことをやるので、漫才とかもそうですけど、毎回新鮮にやるっていうのが、やればやるほど難しくなっていくんですよね。でも、その場でお客さんを肌で感じながら…というのは、お笑いも一緒で、お客さんの反応を何となくこっちの耳とか空気で感じながらセリフを発したり、ちょっとした自分の間とかで、変わったりもするし、相手の喋り方がちょっと変わったら、こっちも変わるし、そういうものが生で行われることが面白いなって思います。
――平田さんは、妻を演じる増子倭文江さん以外の方とは今回、初共演ですね?
平田:初めてです。みなさん、お名前は知っていましたが、ご一緒したことはなかったです。だから、きっと先入観なしに「お願いします」で始まって、だんだん打ち解けて、お芝居ではちょっと本音でぶつかったりして、日常生活ではできないところまで行くんだと思います。そういう関係が芝居の醍醐味であり、面白さでもあるので、期待はありますね。かえって、もう既に関係性がカッチリとできている方よりも、そういう(初共演の)方たちがだんだん家族になっていくのが良いなと思います。
――ブロードウェイ初演の映像などを見ると、家族のやりとりで、驚くほど客席から笑いが起きているシーンもありました。家族の会話劇としての本作の面白さについて、少し詳しくお聞きできればと思います。
桑原:私もブロードウェイ初演の映像を見て驚きました。正直、日本ではこんなに笑うってことはないだろうと思います(笑)。
ただ、この家族のやりとりで面白いのは「この関係、もう終わっちゃうんじゃない?」というくらいの辛辣なことを誰かが言って、「これもう崩壊したな…」と思えるような状況に陥ったとしても、1分後にはハグし合って急速に取り繕われていったり、“愛”というものによって補完されたりして、また再生するんですよね。この波の激しさというのは、見ていてすごく面白いところだなと思います。
あとは、家族って「わかり合えている」という“幻想”が強いぶん、噛み合わない時のイライラというのがすごく面白かったりするんですよね。例えばお父さんが、良かれと思って言ってることが、娘たちの癇に障ったり(笑)。平田さんが良かれと思って言ったことに、しずちゃんたちが「キー!」ってなるという加減が面白くなりそうだなっていうのは、これまでいっしょに舞台をつくらせていただいた経験からも楽しみです。
姉妹のやりとりも「わかる!わかる!」という部分はすごくあると思います。どちらかが破綻したことを言うと、もう片方がバランスを取ろうとしたりして、うまくやろうとするんですよね。フォローし合ったりするんですけど、そこで妹のボーイフレンドが空気を読めずに間の抜けたことを言ったり(笑)。そうやって、なんとか感謝祭を成立させようと、みんながバランスを取ろうとする、そのやりとりは“ワッ!”というテンションの笑いとは違うけど、ユーモアとして楽しめるんじゃないかと思っています。
――平田さんと山崎さんは、いまの時点で、ご自分の役に対して、どんなイメージを持たれているか教えてください。
平田:共演者のみなさんとの兼ね合いでできていくものなので、いまの時点であらかじめ「こうだから」と言うのは難しいところなんですけど、ギクシャクしているところの多い本なので(笑)、そこを面白くできたらいいなと思いますね。
山崎:いろんなことをいっぱい抱えていて、すごくつらい状況にいるということと、そんな中でも家族のギクシャクしているところをなんとか取り持とうとしたり、バランスを取ろうとしている存在なんだなと思います。
自分も姉と弟がいるんですけど、やっぱりそれぞれ違うんですよね。“役割”を決めたわけじゃないけど、自然と「この人がこういう役割で、こっちがそれをフォローして…」みたいになるもので、私も真ん中なのでバランスを取る役割を担っていると自分で勝手に思ってるんですけど(笑)、そこはエイミーと重なるかもしれないです。
――先ほど、父親の良かれという思いで発せられた言葉に娘たちが傷ついたり、怒りを覚えたりという描写が出てくるという話がありました。山崎さんは、お笑い芸人、ボクシングなど、女性が居場所を見つけるのが決して簡単ではない分野で活躍し、道を切り拓いてきましたが、ご両親はおそらく、応援する気持ちも娘を心配する気持ちもあったかと。
山崎:「お笑いをやる」と最初に言った時は反対されました。もともと、前にバーンと出るタイプじゃなかったので、他人を押しのけてでも行くぞ! みたいな人じゃないと芸能界なんて無理だろうと。それでも「私はやりたい」と言って、その中で今度は「ボクシングをやりたい」と言い出して、やっぱり親は、娘が殴られるのなんて見たくないとすごくイヤがっていました。でも、お笑いにしても、ボクシングにしても、結局は応援してくれて、母は試合にも毎回来てくれていました。あとで聞いたら、会場には来たけど、ずっと見てはいられなくて、席を外して、また戻って…みたいなのを繰り返していたらしいです。
そんな思いもありつつ、でもやっぱり、ずっと味方でいてくれたし、つらい時はほぼ毎日、母親に電話していました。何でもないことも含めて、母にだけは何でも話せたし、今日あったことをとりあえず母に伝えて、それが私の癒しにもなっていました。心の拠り所であり、助けてくれたのが母でしたね。
――最後に本作に向けての意気込みをお願いできればと思います。
平田:大きなことは何も考えてないですが、(この家族は)もう既にみんな、頑張っているし、あがいているんですよね。そういう部分はすごく好きだし、みんなで頑張って、あがいて、作家や桑原さんの求めるものが出てきたらいいなと思っています。
山崎:まずはセリフをちゃんと覚えないといけないですけど(笑)、あとは先輩方に付いて行けるように、その場の空気にちゃんと反応できるようになれたらと思っています。
――桑原さんからも楽しみにされている人たちに向けて、こんなところを見せられる作品にできればという思いを最後にお願いします。
桑原:単なるホームドラマとかヒューマンドラマだと思っているとケガするよ…という作品になると思います(笑)。そう思って観ていると、途中で「これはいったい何を見せられてるの…?」という気持ちになる瞬間が来ると思うんですよ。さっき、しずちゃんも言っていたように、話がどう展開していくということでもなく、起承転結もはっきりしないところにジリジリさせられると思いますが、そのジリジリこそが、いま見てもらいたい体験なんですよということで、こらえて楽しんでほしいですし、その“先”のところまでお付き合いいただければと思います。きっと予想してないところに連れて行ってくれる作品だと思いますので。「こういう話なんだ」というところから、さらに裏切られたもう一歩先を楽しんでいただければと思います。
取材・文=黒豆直樹 撮影=田中亜紀
公演情報
【翻訳】広田敦郎
【演出】桑原裕子
【キャスト】山崎静代、青山美郷、細川 岳、稲川実代子、増子倭文江、平田 満
【公演日程】2025年6月12日(木)~29日(日)
【料金(税込)】A席 7,700円/B席 3,300円/Z席(当日)1,650円
眠れぬ夜を過ごしているエリック(平田 満)は、感謝祭の日、フィラデルフィア郊外から、妻ディアドラ(増子倭文江)と認知症の母モモ(稲川実代子)を連れ、次女のブリジット(青山美郷)とそのボーイフレンド、リチャード(細川 岳)が住むマンハッタンのアパートを訪れる。そこに長女エイミー(山崎静代)も合流し、皆で夕食を共にする。雑多なチャイナタウンにある老朽化したアパートでは、階上の住人の奇怪な物音や、階下のランドリールームの轟音がして、祝日だというのに落ち着かない。そんな中始まった食事会では、次第にそれぞれがいま抱える人生の不安や悩みを語り出し、だんだんと陰鬱な雰囲気を帯びてくる。その時、部屋の照明が消え、不気味な出来事が次々起こり......。