『怖い浮世絵』をご紹介 棺桶から蘇った男、よなよな現れる黒い坊主……そこに隠された意外な結末とは?

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『怖い浮世絵』を手にする渡邉晃氏(太田記念美術館主幹学芸員)

『怖い浮世絵』を手にする渡邉晃氏(太田記念美術館主幹学芸員)

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夏といえば、怖い話。「あぁ、怖い美術作品の話を披露してくれる学芸員さんがいればなぁ。でも、そんな都合良くはいないよなぁ……」と思っていたら、ちょうど良いタイミングで、原宿にある浮世絵専門の太田記念美術館が監修を務めた『怖い浮世絵』という本が青幻舎より出版されました。「これは、話を聴きにいかねば!」というわけで、著書の一人でもあり、筆者とは個人的に5年以上の付き合いのある渡邉晃氏(太田記念美術館主幹学芸員)に、早速お話を伺ってきました。

 

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、浮世絵って全体的には楽しいイメージがあるのですが、“怖い”浮世絵なんて、あるんですか?

それが、意外と少なくないんですよ。でも、書籍『怖い浮世絵』の中では、約100点ほど紹介しています。

―約100点ですか! 結構な量がありますね。

“怖い”浮世絵といっても、全部で3種類ありまして。まずは、幽霊。それから、化け物。最後に、残虐なシーンを描いた“血みどろ絵”があります。

月岡芳年 《英名二十八衆句 直助権兵衛》 個人蔵

月岡芳年 《英名二十八衆句 直助権兵衛》 個人蔵

 

―“血みどろ絵”って、なかなかにストレートなネーミングですね。

血がバーッと飛び出てたり、狼に食われた死体が描かれていたり、妊婦が惨殺されそうになっていたり……。

―スプラッター映画みたいな浮世絵もあるんですね……。そんな絵が流行った時代があるんですか?

1840年以後、つまり幕末から明治にかけて人気が出ました。暗い世の中のときこそ、暗いモノが流行るんですかね。

―いつの時代もそのような風潮はあるのですね。さて、今回は、そんな約100点の“怖い”浮世絵の中から、晃さんオススメのベスト3を教えていただきたいのです!

わかりました。では、まずは、月岡芳年の《西郷隆盛霊幽冥奉書》から。描かれているのは、誰だと思います?

月岡芳年《西郷隆盛霊幽冥奉書》 太田記念美術館蔵

月岡芳年《西郷隆盛霊幽冥奉書》 太田記念美術館蔵

 

―……いま、「西郷隆盛」って言ってましたよね?

正解です。

―クイズにするなら、タイトル言っちゃダメですよ(笑)。まぁでも、言われなかったら、西郷隆盛とはわからなかったです。僕らが思い浮かべる西郷さんとは全然イメージが違いますね。

実は、この浮世絵は西郷さんが西南戦争で亡くなった翌年に描かれたものなのです。

―つまり西郷さんの幽霊が描かれているのですね! 手に持っているのは何ですか?

建白書です。右上の浮世絵タイトルの枠に注目してみてください。何かの漢字が枠を取り囲んでいるように見えませんか?

―甲乙丙の「甲」の字でしょうか。

そうなんです。実は、この浮世絵が発表される2ヶ月前に、西郷隆盛の盟友・大久保利通が暗殺されていまして。その大久保利通の号が『甲東』なんです。だから、この浮世絵は、西郷が大久保利通宛に何かを訴えかけているのを表しているのかもしれません

―なるほど。それにしても、不気味な表情ですね。では続いて、第2位は?

こちらも月岡芳年の作品になるのですが、《郵便報知新聞 第五百八十九号》です。郵便報知新聞っていうのは、今の報知新聞の前身に当たります。その新聞記事を月岡芳年がビジュアル化したシリーズです。

月岡芳年《郵便報知新聞 第五百八十九号》 太田記念美術館蔵

月岡芳年《郵便報知新聞 第五百八十九号》 太田記念美術館蔵

 

 

―具体的には、どんな内容が描かれているんですか?

これは香川県で起きた話のようです。「グデン徳」と呼ばれた酒好きの男が、ある日、賭けで2升の焼酎を飲んだんですね。

―スゴい量ですね。

で、死んじゃうんです。

―アハハ(笑)。いや、笑い事じゃないですよね。

ところが、葬式の日の夜に棺桶から蘇るんです。で、グデン徳がお寺の隅で寒さに震えていると、焚き火を囲んで賭けをし始めた博徒を見つける。暖めさせてもらおうと彼がそこに近づくと、博徒たちは「お化けが出た!」と一目散に逃げてしまったんですね。

―見るからに幽霊の格好ですからね。

で、彼らがその場に置き忘れていったお金を、グデン徳は警察に届けたってお話です。

―なんですか、その『世界仰天ニュース』みたいな話は?! 最終的には、特に怖くありませんよ! そろそろ、怖いヤツお願いします。

じゃあ、せっかくなので、1位も郵便報知新聞の記事を描いた作品にします。神田に住むとある大工の棟梁の家で起きた、不思議な話が描かれた浮世絵です。この家では、毎晩12時になると、どこからともなく黒い坊主が現れるのだそうです。

月岡芳年《郵便報知新聞 第六百六十三号》 太田記念美術館蔵

月岡芳年《郵便報知新聞 第六百六十三号》 太田記念美術館蔵

 

―おお、なんか怖そうですね。

で、寝ている奥さんの顔をベロベロ舐めるんだそうです。

―……えっ、それだけですか?

それだけです。でも、毎晩ですよ。

―まぁ、怖いといえば怖いですけど。

たまらなくなって、夫婦が親戚の家に泊まるようにしたら、現れなくなったそうです。

―ということは、夫婦の家に原因があったんですね。

そうなんです。その後、親戚の家から元の家に戻ったら、やっぱり毎晩現れたそうなんです。

―最終的には、どうなったんですか?

そのうち、自然消滅したらしいです。

―いや、なんすかその話!

こういうよくわからないモヤモヤした話を、手を抜かずに、ちゃんと怖く描いた月岡芳年はスゴいですよね。

―どこに話を着地させてるんですか。僕は怖い話が聞きたかったんですよ! かわりに、晃さんのとっておきの怖い話を披露してください。

高校生のときの話なのですが、友達と長野県にスキーに行ったんです。で、古い民宿に泊まったその夜のこと。誰も触ってないのに、急にテレビがついて、しかも音量がどんどん上がって、マックスに近づいていったんです。

―リモコンがあったわけじゃなく?

そうなんです。で、皆で「ワー!」って怖くなって、テレビを消したんですが、しばらくするとまたテレビがパッとついて、音量が上がって……の繰り返しなんです。

―で、結局、どうなったんですか?

自然に終わりました。

―さっきの浮世絵と同じパターン!


記事として、こんなオチでいいものなのか。そこが何よりも、“怖い”です。

ちなみに、書籍『怖い浮世絵』で紹介されている浮世絵を中心に紹介された展覧会、『怖い浮世絵』展は太田記念美術館にて8月28日まで開催されています。ちゃんと怖い浮世絵も、たくさん紹介されていますよ。

イベント情報
怖い浮世絵

日時:2016年8月2日(火)~8月28日(日)
会場:太田記念美術館
公式サイト:http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/2016-kowai-ukiyoe
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