『ニーベルングの指環』4部作 要約コンクール、最優秀賞&優秀賞が決定!

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2016.9.30
公式サイトより

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リヒャルト・ワーグナーの楽劇 『ニーベルングの指環』 第1日 『ワルキューレ』 が、2016年10月2日より新国立劇場で上演される(10月18日迄)。これを記念してイープラスが開催した<『ニーベルングの指環』4部作 要約コンクール>が9月19日に応募を締め切った。総応募件数は40件。これらに対して厳正な審査の結果、最優秀要約作品賞にグラーネさん(ハンドルネーム)が選ばれた。また、次席の優秀要約作品賞には、まぬけねこさん(ハンドルネーム)が選ばれた。それぞれに副賞として新国立劇場2017年開催予定『ジークフリート』のなどが授与される。

なお、今回審査を担当したのは、新国立劇場の桑原貴氏とSPICE「クラシック」編集長の安藤光夫だった。それぞれの講評を記載する。


<講評>

新国立劇場 営業部営業課 桑原 貴より皆様へ

この度は、たくさんの応募を有難うございました。皆様の力作を拝読しながらワーグナー作品への愛を感じました。
 
私の選出基準は、SPICEの安藤氏のコメントにある通り、<楽劇「ニーベルングの指環」は4つのオペラで一つの作品です。全体を分かりやすく要約しているか>を主眼において考えました。また、オペラを“ユニークに要約する”ためには「オペラの全てを理解していないと創作できない。」と理解しております。応募作品は本当に力作ぞろいで選考するのはとても大変でしたが、楽しい時間でも有りました。
 
結果、最優秀作品にグラーネさん、優秀作品にまぬけねこさんの作品を選出させていだきました。本当におめでとうございます。
 
グラーネさん、非常に明快に4作品を要約なさっていると思います。まぬけねこさん、この作品に精通なさっていて、登場人物の感情を見事に表現されていると思います。
 
それでは、オペラを愛する者として、皆様と劇場でお会いできますことを、心から楽しみにしております。皆様のご来場を心からお待ちしております。ありがとうございました。
 
SPICE「クラシック」編集長 安藤光夫より皆様へ

このたび『ニーベルングの指環』4部作 要約コンクールに対して予想を遥かに上回る件数(41件)のご応募・ご参戦をいただきまして、誠に有難うございました。
 
今回の応募作にはクウォリティの高いものが多く、その中から優秀作品を選定するのは非常に困難でした。題材が題材だけに、応募者の方々の知的水準が高かったこと、そして、多くの方々が真剣に取り組んでくださったことの賜物と、深く感謝しております。
 
今回の応募作を見渡しますと、(A)純粋要約(B)企画性要約(C)入門者向け解説の3タイプに大別することができました。
 
このうち最も多かったのは(A)のタイプでした。長大な物語のあらすじを真正面からまとめ、純粋な要約に仕立てるという直球勝負です。いかに、主要登場人物の関係や事象の因果を明朗かつ簡潔に要約できているかがポイントでした。これに対しては、いずれの応募作品も上手に対処できているため、その中から突出して優れているものを見出すことは正直なところ難しくもあり、それだけに審査をするうえで厳しいまなざしを注がざるをえませんでした。
 
これに対して、(B)のタイプは変化球です。単なる要約ではなく、文章スタイルに企画性や演出が施されているもの。今回の要約コンクールの第一の目的は、『指環』の入門者や初心者に興味をもってもらうことにありましたから、その人たちを退屈させないように楽しく『指環』の世界に触れさせるためには、何某かの仕掛けや策をともなった要約のほうが有効であると思っています。その意味で、個人的な心情として、この(B)タイプには頑張って欲しいなぁと願っていました。ただし、仕掛けに比重をかけるあまり、「要約」が疎かになってしまっては本末転倒です。策士が策に溺れるようでもいけない。さらに、仕掛けのオリジナリティも重要です。ということで、この一群に対しても結果的には、しかるべき厳しさで臨むこととなりました。
 
そして今回、(C)のタイプも少なくはありませんでした。ワーグナー楽劇の魅力を音楽的な側面から「解説」してくれたり、中には「宣伝」や「感想」のような作品もありました。入門者や初心者に向けたサービス精神は素晴らしいと思いましたし、読んでいて色々と勉強にもなりました。ですが「要約」という観点からすると違和感を覚えるものもあり、これらに対しても、やはり厳しいハードルを課すこととなりました。
 
そうした厳しい審査を、今回は新国立劇場の桑原 貴氏と、不肖SPICE安藤光夫が協議しながら進めました。安藤は当初、前述の(B)タイプに好意的で、とくに【1】「新作落語風」の和倶那亭りひゃるさん、【2】各話においてそれぞれを見渡せる登場人物に語らせたまぬけねこさんの作品を、仕掛けや演出の気が利いており、小説を読むような感覚で『指環』の世界に難なく入って行けると高く評価しました。
 
これに対して桑原氏から、【1】については、「オペラと落語が融合したジャンルは、桂米團治氏の十八番であるオペ落語 (おぺらくご)等で確立された親しみやすい分野と考えている。今回のこの手法を要約に用いた唯一の作品で、内容は面白く、素晴らしいと思う。しかし『神々の黄昏』に触れられている部分が殆ど無いのは「リングの要約」の観点から判断すると、残念ながら惜しい結果となる」という意見が出されました。また【2】については、「小学館『魅惑のオペラ』1巻から20巻に掲載されている<池辺晋一郎氏の仮想インタビューの記事>と発想が近いという印象もあるが、それを踏まえても各役の心理描写が大変に素晴らしい。『神々の黄昏』のグンターの後、どのような展開となるか期待を持たせたのも妙技」との考えが示され、いずれの意見にも安藤は得心しました。
 
一方の桑原氏は、純粋要約として上手に整理できている【3】横浜のイゾルデさんの作品と、【4】グラーネさんの応募作品を強く推しました。それらについては実は安藤も内心では優秀作品の候補として考えていたものでした。桑原氏と協議を重ねた結果、やはり基本としての「要約」をしっかり行えている作品を最優秀作品にするべきだろうという流れになり、では【3】と【4】のどちらにするか、というところで、接戦の末、フライア、フリッカ、エルダ、大蛇に化身した巨人など登場人物に関する記述の丁寧な【4】のグラーネさんの方を「最優秀要約作品賞」に選出させていただくこととしました。
 
続いて、優秀賞には「バランス的な観点からも企画性要約タイプから選びたい」という安藤の意見に桑原氏も賛同され、再協議の結果、桑原氏も好意的に評価した【2】まぬけねこさんの作品を「優秀要約作品賞」に選出することにしました。もしもこの作品が『神々の黄昏』の最後まで、うまく要約の中に取り入れめいたならば、最優秀賞に輝くことができたかもしれないのにね、と桑原氏と安藤は惜しがりました。
 
以上の審査を経て、今回の『指環』要約コンクールは、グラーネさんに最優秀要約作品賞を、まぬけねこさんに優秀賞を授与することとなりました。グラーネさん、まぬけねこさん、おめでとうございます。
 
さて、今回のイヴェントを通じて残念だったこともあります。それは、すべての応募作がテキストによるものだったことでした。楽劇という名の総合芸術であり、またライトモチーフというわかりやすい音楽的要素を有する『指環』を要約するうえで、サウンドやヴィジュアルをフル活用してもらうことは有効だと思っていたのです。あるいは、踊る授業「本能寺の変」のようなパフォーマンス作品にも期待していました。しかし、やはり応募期間の短さがアダとなってしまったのでしょうか、マルチメディア作品は皆無となってしまいました。この状況については運営サイドの反省点だとも思っています。もし将来において次回があるとしたら、youtube限定で募集をかけてみたいとさえ思いました。
 
また、今回の選定からははずれたものの、個人的に一番面白いなと思ったのは(C)タイプにカテゴライズされるアイスキュロス2世さんの解説風要約でした。とくに『ラインの黄金』の始まりを「超弦理論を予期させる弦の振動」と表現した箇所は秀逸で、目からウロコが落ちる思いでした。アイスキュロス2世さんに限らず、今回のコンクールの応募作品は、勝ち負け関係なく、面白い作品がいろいろありました(そういえば「いろいろあった」という超約もありましたが、これは清水義範のパスティーシュ小説に先例があるので、オリジナリティの観点からよしとしませんでした)。読者の皆様もぜひ改めて応募作品を全て読まれることをオススメします。そのうえで皆様各自にとっての最優秀要約作品を論じていただけるなら幸いです。そうこうするうちに、いつのまにか『指環』の全体像が脳裏に刷り込まれることも必至でありましょう。
 

それでは、ここで改めて、受賞2作品を全文掲載しよう。→次ページへ

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