米津玄師・神谷浩史らも参加している『ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~』とは?

レポート
アート
2017.1.6
『ルーヴルNo.9』

『ルーヴルNo.9』

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2016年121日(木)~2017129日(日)まで、グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボにて開催されている『ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~』。漫画家たちが、ルーヴル美術館をテーマに自由に作品を描くプロジェクトが日本に上陸した。エキサイティングな演出と共に、本展のために新たに、有名日本人漫画家たちが描きおろした作品を含む、数百点に及ぶ原画や資料が一挙に公開されている。そんなルーヴル美術館と漫画家たちの華麗なるコラボレーションと、『王妃アントワネット、モナリザに逢う』を出展している坂本眞一のトークショーの様子を併せてお届けする。

ルーヴルが欲しがった9番目の芸術、“漫画”。世界最高峰の美術の殿堂であり、200年以上の長い歴史を持つルーヴル美術館が21世紀、“漫画”にその扉を開いた。フランス語圏には古くから独自に発展してきた“バンド・デシネ(BD)”という漫画文化があり、フランスで漫画は「建築」「彫刻」「絵画」「音楽」「文学(詩)」「演劇」「映画」「メディア芸術」に次いで(諸説あり)“第9の芸術”とされ、近年では評論や研究の対象となっている。

『ルーヴル美術館BDプロジェクト』は、“漫画”という表現方法を通して、より多くの人々にルーヴル美術館の魅力を伝えるために企画された。漫画家たちに、ルーヴル美術館をテーマに自由に作品を描いてもらうこの企画には、日本の漫画家を含むフランス内外の著名な漫画家がたちが多数参加している。すでに12作品が出版され、現在も進行中のプロジェクトはさらなる進化を遂げ、この度フランスと同様、独自の漫画文化を発展させてきた日本で、展覧会が開催されることになった。

『ルーヴルNo.9』入り口

『ルーヴルNo.9』入り口

9番目の芸術となる“漫画”に焦点を当てて開催されている本展覧会。まず入場口では、音声ガイドを600円で借りることが出来る。この音声ガイドを務めるのが、人気漫画『ワンピース』のトラファルガー・ロー、『おそ松さん』のチョロ松、『進撃の巨人』のリヴァイ、などの人気キャラクターを持ち前の透明感のある声で演じる実力派声優、神谷浩史だ。展覧会の案内役や作中の人物になりきり、いくつもの声を演じている。神谷は、「作品の魅力がより伝わるように、どういう意図で作られたのかなど、興味を持っていただける内容を一生懸命伝えられるように声で表現させていただきましたので、そちらの方も合わせて宜しくお願い致します!」と語る。ぜひとも展示と合わせて音声ガイドも楽しんでいただきたい。

全3章構成となっている『ルーヴルNo.9』の第1章は『The Great LOUVRE ~偉大なるルーヴル美術館~』と題し、所蔵品55万点、総面積約6万平方メートル、来館者は年間約900万人という、世界最大級の美術館であるルーヴル美術館の“表の顔”に焦点を当てた作品が展示されている。

『千年の翼、百年の夢』谷口ジロー

『千年の翼、百年の夢』谷口ジロー

このエリアには『寄り目の犬』エティエンヌ・ダヴォドー、『魔法』クリスティアン・デュリユー、『千年の翼、百年の夢』谷口ジロー、『坑内掘りの芸術』フィリップ・デュピュイ&ルー・ユイ・フォン、『ルーヴル横断』ダヴィッド・プリュドムの5つの作品が展示されている。

ルーヴル美術館『9つの名作』と『9つの名所』

ルーヴル美術館『9つの名作』と『9つの名所』

展示の合間にある、ルーヴル美術館のハイライトとなる名作や名所を、写真や映像などで視覚的に知ることのできるルーヴル美術館の『9つの名作』と『9つの名所』を進むと、目の前に広がる第2章は、『Welcome to a Parallel World ~ようこそ、異次元の世界へ~』だ。表の顔があれば、裏の顔もあるもの。この章では現実世界を離脱し、どこかに存在するかもしれない異次元のストーリーを描く作品群が展示され、ルーヴル美術館の知られざる裏側を冒険することができる。

『レヴォリュ美術館の地下』マルク=アントワーヌ・マチュー

『レヴォリュ美術館の地下』マルク=アントワーヌ・マチュー

マルク=アントワーヌ・マチューの作品『レヴォリュ美術館の地下』の展示には、鏡を利用した永遠と続く無限回廊があった。美術館の地下の異世界に迷い込んだ様な錯覚を起こす摩訶不思議な世界をぜひとも体感して欲しい。

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』荒木飛呂彦

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』荒木飛呂彦

無限回廊を抜けると、ルーヴル美術館に展示された有名な作品『瀕死の奴隷』をテーマに描かれた、荒木飛呂彦の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が圧倒的な存在感を放つ。荒木飛呂彦の人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のシリーズの中でも高い人気を誇る岸辺露伴が、ルーヴル美術館に収蔵されているといわれる『黒い絵』をめぐって冒険する、というミステリー仕立てのストーリーとなっている。BDプロジェクトに参加した初めての日本人作家でもある、荒木飛呂彦の特徴的な擬音を立体的に表現し、視覚的に楽しめる工夫がなされている。

『ルーヴルの猫』松本大洋

『ルーヴルの猫』松本大洋

エンキ・ビラル『ルーヴルの亡霊たち』を抜けると次は松本大洋の世界。『ルーヴルの猫』だ。ルーヴル美術館が美術館になる前から住みついた猫たち。永遠にも見える美術史の殿堂の中で、短い命を生きる猫たちに焦点を当てて描かれた作品に思わず引き込まれる。

「作家たちのアトリエ」コーナー

「作家たちのアトリエ」コーナー

さらに、エリック・リベルジュの『奇数時間に』、『ルーヴルの空の上』を描いたベルナール・イスレール&ジャン=クロード・カリエールを見ながら進んで行くと、日本のマンガとバンド・デシネの9つの違いが分かる「作家たちのアトリエ」のコーナーがある。巨大なペンが目を引く「作家たちのアトリエ」コーナーでは、マンガとバンド・デシネの違いを、本のサイズや価格、制作スピードなどの違いなど、さまざまな点から比較されている。

スケッチやネーム、デジタル作家の映像など、作品制作の工程を垣間見ながら、漫画を違った角度で楽しんだ後に、会場で展開されているのは『第3章 Beyond time and space ~時空を超えて~』だ。1793年に開館したルーヴル美術館だが、もともとはフランス王フィリップ2世が1200年頃に要塞として建設したルーヴル宮殿が基礎となっている。既に800年以上もの歴史を見守り続けたルーヴル美術館には、どのような未来が待っているのだろうか? この章では、漫画家たちの無限の想像力で、過去から未来へ、時空を超えても変わらぬ存在感を放つ、ルーヴル美術館と名作の普遍性に焦点をあてる。第3章のスタートは、坂本眞一の『王妃アントワネット、モナリザに逢う』だ。

『王妃アントワネット、モナリザに逢う』坂本眞一

『王妃アントワネット、モナリザに逢う』坂本眞一

光を浴びて飾られる作品たち。『王妃アントワネット、モナリザに逢う』の展示パネルには、イベントで坂本自身が語ったように、繰り返されてきた悲劇を表現したという血しぶきがみられる。

『王妃アントワネット、モナリザに逢う』坂本眞一

『王妃アントワネット、モナリザに逢う』坂本眞一

さらに足を進めていくとヤマザキマリの作品『Palmyre au Musée 美術館のパルミラ』、そして寺田克也の作品『ルーヴル消失』と続く。イラストレーターでもあり、漫画家でもある寺田克也は、通称"ラクガキング"と呼ばれている。海外の作品にも参加する、日本が誇る絵師の一人だ。寺田が描く、美術館が消えてしまった後の世界を舞台にしたという『ルーヴル消失』も是非楽しみにして欲しい。

『ルーヴル消失』寺田克也

『ルーヴル消失』寺田克也

『氷河期』ニコラ・ド・クレシー

『氷河期』ニコラ・ド・クレシー

そして終盤を迎えつつある展示を進むと、目の前に壮大に広がるのは2003年にスタートした『ルーヴル美術館BDプロジェクト』の最初の作品であるニコラ・ド・クレシーの『氷河期』だ。ニコラ・ド・クレシーは、フランスのバンド・デシネ作家で、2014年に松本大洋と共著でイラスト集を刊行。月刊で発行している青年向け漫画雑誌ウルトラジャンプに、『プロレス狂想曲』を連載していたことは知っている人も少なくはないだろう。

この『氷河期』は、現代の文明が失われて久しいはるか遠い未来、とある豪雪地帯を進む考古学調査隊が、調査旅行中に偶然、巨大な建築物を発見するところから物語は始まる。その建築物こそ、なんとルーヴル美術館だったのだ。氷河の中から発掘されたルーヴル美術館で、地下に潜んでいた芸術作品たちと、一行と行動を共にしていた考古学犬ハルクが出会い、美術品たちは口ぐちに自らの過去を語りはじめる。“知識のない人が絵画や彫刻を見てどう感じるか” をユーモアと皮肉も織り交ぜつつ描き出しており、見る人の新しい感性を突き動かしてくれることだろう。

そして、五十嵐大介の作品『ニケのうた』を越えると、会場最終のゾーンには、坂本眞一が描いたタテヨコ1.8m×2.1mの本展示のオフィシャルサポーターでもある菜々緒のイラスト画が存在感を放つ。ここからは撮影可能なので、フォトジェニックなこちらのフォトブースは絶好の撮影スポットだ。

展覧会MUSE・菜々緒

展覧会MUSE・菜々緒

米津玄師のイラスト画

米津玄師のイラスト画

さらにミュージアムショップの壁には公式イメージソングを担当する米津玄師の描いたイラスト画も展示されている。ミュージシャン、楽曲制作だけでなく、イラストアートワークや、ミュージックビデオも手掛けるマルチクリエイター米津玄師。最新アルバム『Bremen』はオリコンチャート1位、日本レコード大賞では「優秀アルバム賞」を受賞している。そんな米津玄師のイラスト画がグッズとしても販売されているので、是非手にとって魅力を感じて欲しい。

なお、彼が手掛ける公式イメージソング「ナンバーナイン」は、音声ガイドでも聴くことができる。「こどもの頃から将来の夢は漫画家だった僕にとって、こういう形で偉大な漫画家さんたちと関われることを光栄に思います。彼らの緻密に作り上げられた作品に恥じることのないようにありたいと思っています」と語る米津玄師の作品は、本展示に出展している有名漫画家に引けを取らない見所の一つでもある。

米津玄師「ナンバーナイン」オリジナルグッズ

米津玄師「ナンバーナイン」オリジナルグッズ

それぞれの作家の世界観にピタリと寄り添った、さまざまな仕掛けが来場者を楽しませてくれる『ルーヴルNo.9』。日本では、漫画は娯楽の一つとして捉えられているが、本展示では、漫画を芸術の域にまで昇華させた“読める芸術作品”としての側面を見せてくれる。展示作品が、“漫画”という、身近なフォーマットに落とし込まれているために、まず敷居も低く、芸術に詳しくない人でも、ストーリーを追いかけながら、文字と絵を“読みながら”、芸術を楽しむことができる美術展となっているのではないだろうか。加えて、展示作品はすべて“ルーヴル美術館”という共通の要素を持っているため、わかりやすい「比較ポイント」となっている。新しい視点で漫画、そして芸術を体感しに、ぜひとも会場へ足を運んでみてはいかがだろうか?


ここで12月19日(月)に行われた、第3章最初の展示作品でもある『王妃アントワネット、モナリザに逢う』の坂本眞一のトークショーの様子をお届けしよう。会場には100名以上の応募の中から、抽選で選ばれた50人弱の観客が集まった。年齢層は幅広いが、20代の男女が多く見受けられ次世代の活気を感じる。

坂本眞一トークショー

坂本眞一トークショー

小学生の頃、公園に落ちていた週刊少年ジャンプに影響され、漫画に目覚めたという坂本眞一。今回、オフォーが来た時のことを聞かれ、「漫画家を目指した当時から考えると、こうしてルーヴル美術館からお声を掛けてもらって、ルーヴル美術館と共に作品を作れるなんて、とてもとても想像が出来ない、奇跡の様です。人生何があるか分からないと思いました」と振り返る。司会者から「『ルーヴルno.9』は、漫画を9番目の芸術と認定して、ルーヴル美術館をテーマに作品を描く展覧会となっていますが、漫画の位置付けとして、坂本先生からご覧になってどうですか?」と聞かれると、「自分は日本の漫画で育ってきて、日本の漫画を見て漫画家になったので、漫画が9番目の芸術として受け入れられるのかは、まだ疑問はあります。ですが、自分の出来ることは、漫画で表現する事しか出来ないので、表現することはさほど難しい事とは思いませんでした。ただ、自分のやってきた事をやるだけです。」と話す。

漫画の描き方についての問いには、「液晶タブレットを使い、デジタルな手法で描いていますが、マウスではなくペンを使い、1本1本線を引くのは変わらないので、使う道具が変わっただけです。ただ、デジタルだとあまり生き生きとした線が出せないので、デジタルだけど手作りの暖かさを大事にしながらいつも作品を作っています」と明かした。『ルーヴルno.9』では、坂本眞一が実際にデジタルで作品を描く姿を映像で見ることができる。

坂本眞一トークショー

坂本眞一トークショー

今回の作品『王妃アントワネット、モナリザに逢う』について聞かれると、坂本は「普段僕たちは『モナリザ』を鑑賞する側だけれども、この作品は生きている僕たちを『モナリザ』が鑑賞しているというコンセプトで描きました。有名であると同時に謎の多い絵画なので、彼女の目は何を見ているのか、それは目にどう映るのかという興味から始まりました。何百年も前に『モナリザ』は誕生して、目の前で繰り広げられるさまざまな悲劇や悲しい歴史を見てきたと思うんです。現在も悲劇は続いてるんですけれど、僕たちが彼女の目の中にある歴史を学ぶことによって、悲劇が繰り返される現実を変えてくれるんじゃないかと思って描きました」と、作品に込めた想いを語ってくれた。そして、今回のトーク終了後には、坂本眞一がサインを入れた本展の図録を参加者全員に手渡した。

坂本眞一

坂本眞一

参加者からは、「先生の作品を読み、フランスに行く事を決めました。ルーヴル美術館をこの目で見てきます」との声もあり、坂本眞一の影響力を感じさせられた。

坂本眞一

坂本眞一

ルーヴル美術館特別展『ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~』は、2016年12月1日(木)~2017年1月29日(日)にかけてグランフロント大阪北館 イベントラボにて開催。


レポート・文=Lily 撮影=K兄

イベント情報
ルーヴル美術館特別展『ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~』

日時:2016年12月1日(木)~2017年1月29日(日)
会場:グランフロント大阪北館 イベントラボ (大阪府)
参加アーティスト:
ニコラ・ド・クレシー/マルク=アントワーヌ・マチュー/エリック・リベルジュ/
ベルナール・イスレール(画)・ジャン=クロード・カリエール(作)/
荒木飛呂彦/クリスティアン・デュリユー/ダヴィッド・プリュドム/
エンキ・ビラル/エティエンヌ・ダヴォドー/
フィリップ・デュピュイ(画)・ルー・ユイ・フォン(作)/
谷口ジロー/松本大洋/五十嵐大介/坂本眞一/寺田克也/ヤマザキマリ

*展示作品一部変更のお知らせ
本展に出展されている荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の一部原画は、作品保護のため、大阪会場以降の展示作品が変更となります。あらかじめご了承ください。


<展覧会MUSE>菜々緒
<公式イメージソング>「ナンバーナイン」:米津玄師
<音声ガイド>神谷浩史

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