巨匠2人の半世紀にわたる友情に迫る『マティスとルオー展』 世界初の"一挙公開"など見どころをレポート

レポート
アート
2017.1.18
左:アンリ・マティス(1869-1954)、右:ジョルジュ・ルオー(1871-1958)

左:アンリ・マティス(1869-1954)、右:ジョルジュ・ルオー(1871-1958)

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フランス近代美術の巨匠、マティスとルオー。この2人が元同級生なうえ、半世紀にもわたる文通により固い友情で結ばれていたことはご存知だろうか。

汐留パナソニックミュージアムで公開中の『マティスとルオー展 ―手紙が明かす二人の秘密―』(2017年1月14日~3月26日開催)は、2人の往復書簡を手掛かりに、初期から晩年までの作品を時代ごとの4つの章に分けて丁寧に追うものだ。初来日の直筆の手紙、世界初となる連作の一挙公開など、見どころは多数。プレス内覧会にて行われた本展担当学芸員・富安玲子氏の解説の中から、「ここは見るべき!」という3つのポイントをご紹介しよう。

アンリ・マティス 左:《横たわる裸婦》1921年、右:《室内:二人の音楽家》1923年 ポーラ美術館

アンリ・マティス 左:《横たわる裸婦》1921年、右:《室内:二人の音楽家》1923年 ポーラ美術館


本展担当学芸員・富安玲子氏

本展担当学芸員・富安玲子氏

 

手紙から知る巨匠の素顔、絵に秘められた思い

まずは、本展のテーマともなっている往復書簡に注目してみよう。日本初公開となる直筆の手紙2点に加え、9点の複製パネルを見ることができる。

世界大戦前のパリ国立美術学校で、ギュスターヴ・モローの教室の同級生として出会ったアンリ・マティスとジョルジュ・ルオー。2人の手紙のやりとりは、学生時代の展示に関する情報交換からはじまった。戦時中の貧しい中で制作活動を助け合ったことや、老年期の互いの健康を心配する様子など、その内容は非常に親密であたたかいものだ。いつでも2人の話題の中心は芸術であり、「君の芸術に対する熱烈な共感を込めて」というルオーの言葉からもわかるように、全く作風の違う互いの芸術を尊重し合っていたことがわかる。

アンリ・マティスからジョルジュ・ルオーへの書簡、ニースにて(1941年7月31日 ジョルジュ・ルオー財団、パリ)

アンリ・マティスからジョルジュ・ルオーへの書簡、ニースにて(1941年7月31日 ジョルジュ・ルオー財団、パリ)

「手紙の書き方にもそれぞれ個性が見られます」と富安氏は話す。マティスの整然とした手紙に対し、ルオーは思いのままに筆を走らせている。その対比も面白く、フランス近代画家の巨匠2人が少し身近に感じられてくる。

左:ジョルジュ・ルオーからアンリ・マティスへの書簡(複製)、ジ=レ=ノナンにて(1906年9月10日 アンリ・マティス・アーカイブス、イシー=レ=ムリノー) 右:アンリ・マティスからジョルジュ・ルオーへの書簡(複製)、コリウールにて(1906年8月30日 ジョルジュ・ルオー財団、パリ)

左:ジョルジュ・ルオーからアンリ・マティスへの書簡(複製)、ジ=レ=ノナンにて(1906年9月10日 アンリ・マティス・アーカイブス、イシー=レ=ムリノー)  右:アンリ・マティスからジョルジュ・ルオーへの書簡(複製)、コリウールにて(1906年8月30日 ジョルジュ・ルオー財団、パリ)

 

世界初、ルオーの詩画集『気晴らし』原画を一挙公開

本展一番のみどころとなるのは、第二次世界大戦中に出版されたルオーの詩画集『気晴らし』の原画となる油彩画全15点の一挙公開だ。このような全点公開はフランスでも実現していない、世界初の試みとなる。出版された本も並べて展示されているので、「原画の美しい色を忠実に再現した当時最新の印刷技術と、出版人テリアードの熱い思いにも注目してほしい」と富安氏は熱を込める。

ジョルジュ・ルオー著・画/テリアード監修/ルヴュ・ヴェルヴ出版(パリ)詩画集『気晴らし』1943年 パナソニック汐留ミュージアム

ジョルジュ・ルオー著・画/テリアード監修/ルヴュ・ヴェルヴ出版(パリ)詩画集『気晴らし』1943年 パナソニック汐留ミュージアム

ほかにも注目すべき作品として、マティスの《ラ・フランス》、ルオーの《聖ジャンヌ・ダルク》「古い町外れ」は見逃せない。ともにフランスの誇りを女性に擬人化した愛国心溢れる傑作だ。これらは2人が戦時中に作品発表の場とした雑誌『ヴェルヴ』の中で発表されたもの。富安氏は「フランスの美意識を世に広めることで戦争に抵抗する、国立美術学校出身の2人にとっての自然な姿勢が見受けられる」と語る。

アンリ・マティス《ラ・フランス》1939年 公益財団法人ひろしま美術館

アンリ・マティス《ラ・フランス》1939年 公益財団法人ひろしま美術館

ジョルジュ・ルオー《聖ジャンヌ・ダルク》「古い町外れ」1951年 個人蔵(ジョルジュ・ルオー財団協力)、パリ

ジョルジュ・ルオー《聖ジャンヌ・ダルク》「古い町外れ」1951年 個人蔵(ジョルジュ・ルオー財団協力)、パリ

アンリ・マティス表紙絵/テリアード編/ルヴュ・ヴェルヴ出版(パリ)『ヴェルヴ』(左:1号 1937年・冬、右:8号 1940年・夏) うらわ美術館

アンリ・マティス表紙絵/テリアード編/ルヴュ・ヴェルヴ出版(パリ)『ヴェルヴ』(左:1号 1937年・冬、右:8号 1940年・夏) うらわ美術館

 

マティスの『ジャズ』、ルオーの《聖顔》

最終章では、色彩と形態の研究に邁進したマティスの代表作『ジャズ』シリーズと、ステンドグラスのような神々しさに溢れたルオーの宗教画《聖顔》など、それぞれの作風と画家としての地位を確立した晩年の実り豊かな作品たちを堪能する。

アンリ・マティス 挿絵本『ジャズ』シリーズ

アンリ・マティス 挿絵本『ジャズ』シリーズ

ジョルジュ・ルオー 左:《秋の夜景》1952年、右:《マドレーヌ》1956年 パナソニック汐留ミュージアム

ジョルジュ・ルオー 左:《秋の夜景》1952年、右:《マドレーヌ》1956年 パナソニック汐留ミュージアム

マティスが亡くなる前年まで手紙を送り合った2人が、ともに歩んだ画家人生を辿る本展。お互いを認め合える友情が、フランス近代絵画の発展を支えていたことを感じる貴重な機会となるだろう。

イベント情報
マティスとルオー展 ―手紙が明かす二人の秘密

開館期間:2017年1月14日(土)~3月26日(日)
午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日:1月18日、25日/ 2月1日、8日、15日
入館料:一般:1,000円 65歳以上:900円 大学生:700円 中・高校生:500円 小学生以下:無料 20名以上の団体:各100円割引 ※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料で入館可能
主催:パナソニック 汐留ミュージアム、産経新聞社 
後援:フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、港区教育委員会
特別協力:ジョルジュ・ルオー財団
協力:日本航空
公式サイト:http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/17/170114/
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