特別展『雪村―奇想の誕生―』をレポート 奇想の画家ブーム、若冲の次は雪村(せっそん)だ!
特別展『雪村―奇想の誕生―』展示室入口
東京・上野の東京藝術大学大学美術館で、3月28日(火)から5月21日(日)まで『雪村―奇想の誕生―』が開催されている。「雪村? 雪舟じゃないの?」というくらい日本ではあまりなじみがないが、雪村こと雪村周継(せっそんしゅうけい)は戦国時代に東日本を中心に活躍した画僧。彼が描いた水墨画の数々は琳派の代表絵師・尾形光琳をはじめ、狩野芳崖や橋本雅邦ら近代の画家たちをも魅了し、影響を与えた。15年ぶりの大回顧展となる本展では、雪村の主要作品約100件と彼に魅せられた後世の画家たちの作品約30件で、雪村の“奇想”の全貌に迫る。
これぞ雪村! “奇想”を代表する作品
雪村周継《呂洞賓図》(重要文化財、奈良・大和文華館蔵、3月28日~4月23日展示)
《呂洞賓図(りょどうひんず)》は、雪村の“奇想”エッセンスが詰め込まれた作品。これまで上記写真の作品を含む2幅の存在が確認されていたが、本展開催の準備調査で新たに第三の《呂洞賓図》が発見され、本邦初公開される。
どの《呂洞賓図》にも、中国の仙人を代表する八仙の一人、呂洞賓が描かれているのだが、他で目にする呂洞賓とはちょっと違う。呂洞賓は中国画では穏やかなポーズで描かれるのが一般的だというが、雪村が描く呂洞賓はいずれも龍に乗り、ひげを風になびかせながら、頭上の龍と対峙している。作品から感じられるオーラは、穏やかさとは真逆の力強さだ。
雪村周継《釈迦羅漢像》(茨城・善慶寺蔵、3月28日~4月23日展示)
こうした演出がなされた背景は謎に包まれているが、一説では羅漢図から着想を得たのではないかといわれている。同室に展示されている《釈迦羅漢像》(4月23日まで展示)と見比べてみると、かなり説得力がある説だ。《呂洞賓図》は一見するとただの水墨画のようだが、間近で見るとその凄さを実感。細部になればなるほど、線の強弱や墨の濃淡を上手に使い分けており、豊かな表現を生み出していることがよくわかる。
アメリカからの里帰り作品も
実は雪村作品はアメリカに数多くあり、アメリカでは雪舟よりもなじみがあるのだとか。日米で認知度のギャップがあるのも面白い。本展でもいくつかアメリカからの里帰り作品が登場する。
雪村周継《花鳥図屏風》右隻(ミネアポリス美術館蔵、3月28日~5月21日展示)
例えば、写真の《花鳥図屏風》(右隻)はミネアポリス美術館蔵のもの。ここにも“奇想”の片鱗が垣間見える。右側には梅の木とその周りで羽を休める白鷺たち、その目線の先には巨大な2匹の鯉が今にも飛び出してくるかのように描かれている。これも他にはない雪村ならではの発想だ。月明りの静寂の中、ギョロリとした目の鯉が水面に浮かび上がってきて、白鷺たちも驚いたに違いない。
雪村周継《花鳥図屏風》右隻(部分)(ミネアポリス美術館蔵、3月28日~5月21日展示)
破天荒なだけじゃない!
小さきものに向けた優しいまなざし
どちらかというと、「型破り」「豪快で力強い」といったイメージの雪村作品だが、身近な動植物を描いた、どこかほっこりとした雰囲気の作品も多い。
雪村周継《野菜香魚図》(個人蔵、3月28日~4月23日展示)
こちらは、大根に茄子、笹でまとめられた鮎を描いた《野菜香魚図》(4月23日まで展示)。大根の葉の葉脈や、茄子のへたのトゲまで細かく描写しており、雪村の身近なものに向けられた繊細で優しいまなざしが感じられる。先に挙げた鯉同様、何か言いたそうな鮎の目つきがユーモラスに見える。
「神は細部に宿る」を体現した一作
雪村周継《金山寺図屏風》(茨城・笠間稲荷美術館蔵、3月28日~5月21日展示)
《金山寺図屏風》は、中国・揚子江中流の島にある禅寺、金山寺を描いた屏風作品。金山寺は、雪舟も明を訪れた際に足を運んで描いたというほど、中国の名勝として名高い場所だ。本作は何の変哲もない屏風のように見えて、近づくほどに様々な人々の暮らしや仕草が見えてくる。屏風作品だが、そうした細部を鑑賞しやすいように敢えて平坦に展示したとのこと。さらに脇には、作品の細部をクローズアップして紹介する映像も用意されている。
《金山寺図屏風》のクローズアップ映像より
《金山寺図屏風》のクローズアップ映像より
見れば見るほどリアリティーに満ちた細かい描写なだけに、雪村も雪舟同様に金山寺を訪れたことがあるのだろうと思えるが、驚くことに雪村は全てを想像で描いたのだという。建物から海を眺める人、船に乗っている人、山を登っていく人――。市井の人々の小さな物語が作中に散りばめられており、まさに“神が細部に宿った”作品。できることなら、単眼鏡で見るのがおすすめだ。
時を越えて続く、雪村フィーバー
昨年ニュースにもなるほど「奇想の画家」として話題となった若冲同様、雪村も日本画の歴史において流派的な系譜で語ることはできない。それでも、時代を越えて雪村作品に魅せられた画家たちによって、そのエッセンスは受け継がれてきた。
小西家伝来光琳関係資料のうち石印「雪村」(京都国立博物館蔵、3月28日~5月21日展示)
中でも、江戸時代中期に活躍した琳派を代表する画家・尾形光琳の雪村愛は尋常ではない。その敬愛っぷりは、数々の雪村作品を模写するだけでなく、「雪村」という印章を持っていたというほどだ。
スクリーンに尾形光琳《紅白梅図屏風》をプリントし、雪村の《欠伸布袋・紅白梅図》に重ねるように展示。
雪村周継《欠伸布袋・紅白梅図》(茨城県立歴史館蔵、3月28日~5月21日展示)
さらに光琳が晩年に描いた代表作《紅白梅図屏風》は、雪村の《欠伸布袋・紅白梅図》に構図や梅の枝ぶりが似ており、参考にしたのではないかと考えられている。
雪村の作品は同時代の画家と比べてたくさん残っているが、その人物については生没年すらわからず、ほとんど記録は残っていないという。雪村の自由で伸び伸びとした筆づかいや、独創的でユーモラスな作風だけでなく、そんな謎に満ちた部分も多くの画家を惹きつけた要因の一つなのかもしれない。ミステリアスな雪村の人物像を想像しながら、作品を見てみるのも面白そうだ。
2017年、雪村フィーバー到来の予感がする。
会期: 2017年3月28日(火)~5月21日(日)
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日: 月曜日(ただし、5月1日は開館)
会場: 東京藝術大学大学美術館
観覧料: 一般1600円(1400円)、大学生1200円(1000円)、高校生900円(700円)、中学生以下は無料
* ( )は前売券及び20名以上の団体料金
* 団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
* 障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料