『熱海殺人事件』オールドファンも楽しめる!~稽古場より速報~

レポート
舞台
2015.11.12
左から中尾明慶、愛原実花、風間杜夫、平田満、いのうえひでのり

左から中尾明慶、愛原実花、風間杜夫、平田満、いのうえひでのり

奇跡は起きる。伝説の名舞台が現代に復活!

チャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』が大音量で鳴り響く中、幕が上がり、警視庁きっての切れ者にして変わり者の木村伝兵衛部長刑事が浮かび上がる。強烈な幕開きからラストシーンまで、観る者の心を鷲づかみにして離さない、伝説の名舞台『熱海殺人事件』である。

一世を風靡したつかこうへいの初期代表作であり、何よりも、これほど熱狂的に支持された作品は例がない。劇場は舞台にも客席にも異様なほどの熱気が満ちていた。演劇界の金字塔ともいえる『熱海殺人事件』が、ついに、風間杜夫、平田満の名コンビで復活! さらにつかこうへいの愛娘、愛原実花、若手演技派の中尾明慶が出演、演出はつかこうへいに大きな影響を受けたと言う劇団☆新感線のいのうえひでのりと、夢のようなチームが誕生した。

期待と注目が集まる中、稽古が始まって数日のキャストと演出家から話を聞いた。

劇団☆新感線の旗揚げ公演は、実は『熱海殺人事件』。その後の数年はつかこうへい作品ばかりを上演してきた。演出は、いのうえひでのりで、出演も兼ねていた。
「つかさんのお芝居はずっと見ていて、僕が若いころ、熱い時代に見たものからの影響は大きいし、思い入れも深い。4年ほど前に、つかさんの1周忌で集まった時に、演劇関係者と、『熱海殺人事件』をやりたいと話したことは覚えています。風間さんともお芝居で一緒だった時に、そんな話をした。『熱海殺人事件~クラシックス』とか『熱海殺人事件~ヴィンテージ』とか、80年代の『熱海』をやりたいと思っていたので」

『熱海殺人事件』は、90年代以降、つか自身の手で様々に形を変えて上演されていて、中には木村伝兵衛が女性というバージョンもある。変幻自在な珍しい作品だが、基本形の上演はあまりされてこなかったから、オリジナルキャストを得ての今回の上演は貴重。
「今、実現して驚いています。でも、こんな機会は今しかない。新しい解釈を持ち込むのではなく、僕らが一生懸命コピーしていた、熱い舞台をもう一度作りたいですね。年齢的なこともあるし、愛原さん、中尾君は新たなキャストですし、以前と全く同じにはならないのは当然だけど、あの熱気を舞台上に立ち上げたい」

木村伝兵衛役の風間杜夫も、約30年前のいわば「原本」である『熱海~』を望んでいた。
「何年か前からやりたいと思っていましたが、実現するとは、これはもう事件です。絶対に逃してはいけないと思いました。今、すごくワクワクしています。あのころのスピード感は難しいかもしれないけど、30数年、いろいろな経験を重ねてきて、少しはテクニックも学んだので、いかしていきたいですね」

地方から来た新任の刑事で、伝兵衛の型破りな捜査に翻弄される熊田留吉には平田満
「最初は、まさかやれるわけがないと思っていましたが、いざ、決まってみるとやはり半端なことはできないですね。当時の熱狂とは違うかもしれないけど、僕らが舞台の上で感じた熱気や面白さを少しでも伝えたい。30年もたってから、やっとわかることもあるので。でも、今のお客様には今の見方をしてもらいたいです。この作品は時代を超えて生きている芝居だと思っているけど、観る人はどう受け取るのか。僕らはリトマス試験紙のようなものですね」

婦人警官で、伝兵衛の助手であり愛人でもあるハナ子を演じるのは、愛原実花。劇中、殺人現場の再現で犯人が殺したアイ子も演じる。
「素晴らしいキャストと演出家に恵まれたので、これはもう死に物狂いでがんばります。私はちょうど、父が『熱海~』を書いたのと同じくらいの年齢なんですが、稽古をしていると、ああ、父は私の年で、こんな言葉を生み出していたのだなと思ったり。子供のころ、家で父が殺人などについて話していたのを思い出したりして、父を身近に感じる幸せな時間をいただいています」

幼馴染の女工のアイ子を熱海の海岸で絞殺した犯人、大山金太郎には中尾明慶
「とんでもないところに放り込まれたなと、今思っています(笑)。僕だけがつかさんとお会いしたことがなく、接点がないのです。もう、いのうえさんについていくしかありません。風間さんから、つかさんは人間性を全てさらけ出すことを求めたと聞いて、ケツの穴まで見せる覚悟(笑)で臨んでいます」

それは見たくないと一同に突っ込まれていたが、すでに新旧のチームワークもできているようだ。

『熱海~』での33年ぶりのコンビとなる風間と平田は久しぶりの共演体験を楽しんでいる。ブランクを感じることなく、つかワールドに突入している様子。
「33年ぶりの違和感がないですね。平田君はつかさんの台詞が血肉になっているから、どんどん台詞が出てきて、こちらもどんどん思い出してきて、すぐにあのころの感じに戻れました」風間平田「もっと時間がかかるかと思ったら、すっと、つかさんの世界に入れました。台詞回しとか、身体に染みついたものが、あるんだなと思いながら稽古をしています」

一方、初の『熱海~』である愛原と中尾の若者コンビも、気概を見せる。
「台本を読んで感じ取ったことを大事にしながら、今は着地点をさぐっているところです。日々、訓練ですね」中尾愛原は、様々なバージョンを知ったうえで、「父は時代や、俳優さんたちに合わせて、その時その時の『熱海~』を書いていました。理解できていなかったことは多いですが、原本『熱海~』の稽古を通して、理解を深めていけたらいいなと」

つか作品の大きな特徴は、台本がなく、つかが稽古場で次々に台詞を考えて作り上げていく、いわゆる「口立て」の手法。今回は台本があるが、どんな稽古になっているのだろうか。いのうえは、口立てに似た手法を取る演出家でもある。台本はあるが、自分で台詞を言って、動いてみせる。
「風間さん、平田さんは、元々口立てで鍛えられた方なので、どんどん台詞が出てきますから、あまり僕がやる必要はありません。若者たちには、ちょっと口立てっぽい演出をつけていますが」

風間「台詞の変更などはなく、動きですね。いのうえ流の動き方、つまりお客さんからどう見えるかを計算しつくした動きが新鮮です」
平田
も風間同様、いのうえ演出の経験はあり、動きの特性も知っている。
「30年前はガキだったなと(苦笑)。つかさんに言われるがままで、辛い態勢でも、台詞が言いにくくても、その通りにやっていました。いのうえさんは、辛そうだなと思うと、動きを変えてくれます、でも、昔の癖が残っているのか、辛い苦しい状態でないと、台詞が出て来なかったりするんですね(笑)」

いのうえとは初仕事となる中尾「一言、一言に演出をつけてもらって、新しい体験なので、稽古は楽しいです。いのうえさんが道を作ってくれるので、きちんとそこを歩いていきたいです」愛原「稽古場で口立ての様子を見ていたわけではないので、すごく新鮮です。いのうえさんと、三人の共演の方々についていきたいと思っています。今の時代の『熱海殺人事件』に、きっとなるのではないでしょうか」

35年前、初めて『熱海~』を演出したいのうえだが、今回の演出では何を見せてくれるのだろうか。
「基本的には、つかさんの演出をリスペクトしつつ、隙間があれば僕の考えも入れたい。冒頭のチャイコフスキーは、やるつもりです。やっぱり、あの曲が強く印象に残っている人も多いし、オールドファンを楽しませつつ、知らない世代にも面白いものを作りたいですね。大山金太郎が登場の時、『マイ・ウエイ』を歌っていましたが、あれは当時、金太郎役だった加藤健一さんだからこその演出なので、今回は中尾君に合わせたものにしたいです。つかさんの作品には大きな魅力があります。一人一人の人間の描き方が深い。嫌な人間でも、優しさがあったり、決して一色ではない人間の多面性を描きだしている。『熱海~』は金太郎を一流の犯人に作り上げるという仕掛けがありますが、多角的な人間を描いていることが、稽古をしていると、よくわかるんです。かつ、笑える。つかさんは唯一無比の芝居を作ったと、僕は思います」

伝兵衛とハナ子、熊田と故郷に捨ててきた女、金太郎とアイ子の哀しい愛、そして、伝兵衛が異常な捜査にこだわるのにも理由がある。それら全てを飲み込んで『熱海殺人事件』は、ダイナミックに展開していく。人間の愚かさと愛おしさにあふれた名品だからこそ、現代に上演する意義があると言うものだ。そして、全員の語り口からは、あの熱狂も確実に受け継がれていると感じた。

(取材・文/沢美也子)

イベント情報
『熱海殺人事件』

作:つかこうへい
演出 いのうえひでのり
出演:風間杜夫・平田満・愛原実花・中尾明慶

●紀伊國屋ホール
2015年12月8日(火)~26日(土)
http://hpot.jp/stage/atami

●穂の国とよはし芸術劇場 主ホール
2016年1月6日(水)7日(木)
http://www.toyohashi-at.jp/

 
●兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2016年1月9日(土)10日(日)
http://www.umegei.com/
 
●北九州芸術劇場中劇場
2016年1月16日(土)17日(日)
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp
 
●仙台電力ホール
2016年1月20日(水)
http://www.ox-tv.co.jp/

 
●音更文化センター大ホール
2016年1月23日(土)
http://www.npootofuke.com/
 
●道新ホール
2016年1月29日(金)30日(土)
http://uhb.jp/

 
●盛岡劇場 メインホール
2016年2月2日(火)
http://www.mfca.jp/morigeki/
 
●りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
2016年2月5日(金)6日(土)
http://www.ryutopia.or.jp/
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