『ミス・サイゴン』から見る世界 —戦争、難民、そして文学 トーク&歌唱イベント レポート
『ミス・サイゴン』から見る世界 —戦争、難民、そして文学 トーク&歌唱イベント
早稲田大学国際文学館で開催されている企画展「『ミス・サイゴン』から見る世界-戦争、難民、そして文学」の関連企画として、トーク&歌唱イベントが早稲田大学大隈記念講堂にて行われた。 MCを務めたのは、同校OBであり東宝株式会社のプロデューサー・塚田淳一氏。登壇者には国際文学館館長の麻生享志教授をはじめ、ミュージカル『ミス・サイゴン』出演キャストよりルミーナ(キム役)、小林唯(クリス役)、金本泰潤(ジョン役)、そしてアンサンブルキャスト陣(伊藤広祥・植木達也・小林遼介・高瀬育海・深堀景介・古川隼大)が顔を揃えた。 本格的な舞台稽古が始まる直前というタイミングで実施された本イベント。作品の背景となるベトナム戦争の歴史や難民問題、そして過酷な運命を背負った子どもたち「ブイドイ」の真実について学びを深めるとともに、劇中歌の圧巻の歌唱披露やリアルなトークが展開された。
■ ベトナム戦争の歴史と『ミス・サイゴン』誕生の背景
第1部では、麻生享志教授によるベトナム戦争の解説講義が行われた。 1989年にロンドンのウエストエンドで初演された『ミス・サイゴン』。作詞・作曲を手掛けたクロード=ミシェル・シェーンベルクが本作を着想したきっかけは、フランスの雑誌に掲載された1枚の写真だった。ベトナム戦争末期、サイゴンの空港で母親が我が子を、アメリカにいるはずの父親のもとへ送り出す瞬間を捉えた写真である。父親の居場所も分からないまま我が子の未来を思って手放す母親の姿に「究極の自己犠牲」を見出したシェーンベルクは、名作『マダム・バタフライ(蝶々夫人)』をベトナム戦争へと置き換えた大作ミュージカルを生み出した。 講義では、北ベトナムと南ベトナムの分断、アメリカ軍の介入、東西冷戦の過酷な歴史が語られた。また、当時のサイゴンでは若者たちの間でアメリカのロックミュージックが大流行し、コピーバンドやナイトクラブを通じてアメリカ兵と地元市民の密な交流が存在していたという意外な日常の側面も明かされた。
【歌唱パフォーマンス①】
講義を受け、キム役のルミーナとクリス役の小林唯が劇中歌「世界が終わる夜のように」、続いてルミーナが我が子への愛を誓う名曲「命をあげよう」の2曲を披露。大隈講堂に響き渡る圧巻の歌声に、客席からは大きな拍手が送られた。
■ ベトナム戦争終結後の難民(ボートピープル)と「ブイドイ」の真実
第2部では、1975年4月のサイゴン陥落とアメリカ軍のヘリコプター撤退作戦(フリークエント・ウインド作戦)、自由を求めて海へと逃れた「ボートピープル(難民)」、そして戦後の過酷な状況が解説された。 途中で沈没や海賊の襲撃に遭いながらも、香港、マレーシア、フィリピンなどの難民キャンプを経て、アメリカ、フランス、オーストラリア、そして日本(※約1万人を受け入れ、神奈川県大和市や兵庫県神戸市などが拠点となった)へと渡っていった歴史が紐解かれた。 また、アメリカ兵とベトナム女性の間に生まれ、取り残された5万人以上の戦争孤児「ブイドイ(誇りある生を受けなかった子どもたち)」の存在についても言及。差別や迫害に晒された彼らに対し、1987年にアメリカで「ホームカミング法」が成立して移住が進んだ背景や、その裏でビザ目当ての大人たちに利用された複雑な実態も語られた。
【歌唱パフォーマンス②】
講義を受けたジョン役の金本泰潤が、男性キャスト陣(伊藤広祥・植木達也・小林遼介・高瀬育海・深堀景介・古川隼大)とともに劇中でジョンが歌い上げる名曲「ブイドイ」を力強く合唱。歴史の重みを背負った魂の歌声が会場を包み込んだ。
■ 観客からの質問コーナー
歌唱後、事前にお客さまから寄せられた質問にキャスト陣が回答した。
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役作りの参考にした作品: 深堀景介は映画『フルメタル・ジャケット』、小林遼介は映画『プラトーン』を挙げ、アメリカ兵同士の葛藤や戦場の残酷なリアリティを学んだと語った。また、塚田プロデューサーからはカンパニーの稽古期間中に「サイゴンスクール」という勉強会を開き、ドキュメンタリー映画『ハート・アンド・マインド』等を全員で鑑賞して歴史を学ぶ取り組みが明かされた。
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ベトナム現地取材の印象: 現地を訪れた小林唯は「フランス統治時代の建築や戦争証跡博物館の写真展を含め、当時の情景が目に焼き付いた」とコメント。クチトンネル(地下陣地)を訪れた金本泰潤は「現地ガイドが『枯葉剤の影響は3代200年経たないと抜けない。我々にとってはアメリカ戦争だ』と強い怒りを込めて語っていたのが脳裏から離れない」と、戦場の過酷な環境を肌で感じた体験を明かした。
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早稲田の印象と「わせめし」の思い出: 深堀景介は企画展を見に来た際に近くのお店でローストビーフ丼を食べた思い出を語り、小林遼介は早稲田駅近くの飲食店の安さとボリュームを絶賛。ルミーナは大隈講堂のクラシカルな音響に感動しつつ「歌う前にはしっかりお米(ご飯)を食べること」を意識していると語り、会場を和ませた。
■ 各キャストよりメッセージ
金本泰潤(ジョン役): あの、色々本当に勉強になりすぎて、色々聞いてしまい、大変だったと思います。これから、先輩方にも教えていただいて、しっかり学んで、しっかり落とし込んで、ちゃんと役を生きてみたいと思っております。今日は本当にありがとうございました。
小林唯(クリス役):本日はありがとうございました。こういう作品なので、僕が心に銘じていることとして、過去の声だったり、死者の声だったり、そういう人たちの思いを自分たちが言葉で体現して、歴史の代弁者というような演劇的な役割が僕たちにあるのかなと思っております。なので、一生懸命やりたいと思います。
ルミーナ(キム役): 本日は麻生先生ありがとうございました。そしてお越しくださった皆様もありがとうございました。『ミス・サイゴン』は本当に深く、今日これを聞きながらも皆様も感じたかと思いますけれど、本当に暗い作品ではあります。ですが、その中にたくさんの愛が溢れております。全員の愛のお話でもあります。本当にそれぞれがその時代に選択をした最善の選択をした上で起きる状況たちでございますので、私たちも精いっぱい作品を皆様にお届けできるように稽古に挑んでまいります。ぜひ本番もお越しくださいませ。
戦争の歴史や過酷な背景を理解することは、現代を生きる私たちにとって決して容易なことではない。だからこそ、ミュージカルというツールを通して物語や感情を疑似体験し、その先に生まれた一人ひとりの感情や気づきを大切にすること——それこそが、今この時代に『ミス・サイゴン』という作品に触れる大きな意味なのかもしれない。
取材=SPICE編集部
関連企画展
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Ⅰ ベトナム戦争の歴史(会場:歴史館企画展示室) フランスとの独立戦争、南北分断、アメリカの介入による激しい戦闘…。1975年のサイゴン陥落後も、多くの市民が祖国を離れ、「ボートピープル」として世界各地に離散しました。戦争と離散が刻んだ苦難と記憶を振り返ります。
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Ⅱ 『ミス・サイゴン』——戦争、愛、そして別れの記憶(会場:国際文学館) ベトナム戦争を背景に描かれる、若き恋人たちの愛と別れの物語。舞台や登場人物を通して、戦争が人々の人生に残した傷跡と記憶に光を当てます。
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Ⅲ 難民文学の描く世界(会場:国際文学館) 戦争や祖国喪失の体験から生まれた難民文学を紹介します。ベトナム戦争を背景にした作品を中心に、過去の記憶や離散の経験、そして新たな未来への歩みを描く作家たちの世界をご覧ください。
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会期: 2026年5月1日(金)~11月8日(日)
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開館時間: 10:00〜17:00
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休館日: 毎週水曜日、夏季休業(8月3日~19日)ほか
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※5月6日、13日、20日、9月23日、10月14日、21日は開館
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主催: 早稲田大学国際文学館
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場所: 早稲田大学国際文学館展示室(4号館)、早稲田大学歴史館(1号館)※本展は2会場で開催
公演情報
ミュージカル『ミス・サイゴン』
オリジナルプロデューサー:キャメロン・マッキントッシュ
作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
製作:東宝
出演:
エンジニア:駒田 一/東山義久/桐山照史(交互出演)
キム:屋比久知奈/清水美依紗/ルミーナ(交互出演)
クリス:甲斐翔真/小林 唯(交互出演)
ジョン:チェ・ウヒョク/金本泰潤(交互出演)
エレン:エリアンナ/加藤梨里香(交互出演)
トゥイ:岡 シモン/吉田広大(交互出演)
ジジ:則松亜海/藤森蓮華(交互出演)
【東京公演】
日程:2026年10月16日(金)~11月29日(日)
[プレビュー公演]10月16日(金)~10月22日(木)
会場:東急シアターオーブ
大阪公演
日程:2026年12月5日(土)~17日(木)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
日程:2026年12月24日(木)~27日(日)
会場:福岡市民ホール 大ホール
日程:2027年1月8日(金)~11日(月・祝)
会場:アクトシティ浜松 大ホール
日程:2027年1月17日(日)~24日(日)
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru