東京アンティーク散歩vol.8 神楽坂にある"ファンタジーの分身" アンティークショップ『Jellicour/ジェリクール』

レポート
アート
2017.7.28
神楽坂コスチュームジュエリー専門店ジェリクール

神楽坂コスチュームジュエリー専門店ジェリクール

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東京近郊にある、上質なアンティークショップを巡っていく連載『東京アンティーク散歩』。今回は、神楽坂にあるアンティークショップ『Jellicour/ジェリクール』を紹介する。


神楽坂は和と洋、新旧が行き交う粋な街だ。食品店、履物屋、着物の古着屋など和風レトロな商店が軒を連ね、細い脇道に迷い込むと昔ながらの暖簾がゆれる。こうした細い小道は花街の名残である。くねくねと曲がる道をゆくと「仲居さん募集」「日本舞踊・三味線教室」の張り紙が目に入り、着物姿の女性とすれ違う。

かと思えば、パリの街角のようなビストロにも出会う。ガラス窓の向こう、ワイングラスを手に談笑する外国人達が見える。表通りの神楽坂を登りきると、そこには隈研吾が設計したモダンな赤木神社が。この赤木神社の参道沿い、ロマンチックなディスプレイがひときわ目を引く店がある。美しい装飾品や衣装で飾られたウィンドウ、そして青い木枠の扉。そっとひらくと色とりどりに輝くジュエリーが迎えてくれる。今日ご紹介するのはここ、”コスチュームジュエリー”のアンティークショップ「ジェリクール」である。

 

セルロイドが彩った少女時代から、コスチュームジュエリーへ

コスチュームジュエリーとは20世紀前半に生まれたファッションデザイン重視の装身具である。それまではジュエリーといえば宝石を使った高価なものが主で、財力や権力の象徴でもあった。それに反しコスチュームジュエリーは素材にこだわらず、ガラスや樹脂などを使い、創造的な発想で洋服にマッチするファッションアイテムとして制作された。

今わたしたちが身につけているアクセサリーデザインの元祖ともいえるのだが、繊細な職人技とデザイン、稀少価値は一般的なアクセサリーとは一線を画している。

ウエディング用のティアラも扱う

ウエディング用のティアラも扱う

ジェリクールではそうした貴重なコスチュームジュエリーを専門的に扱っている。

オーナーの清水氏は明るく気っ風のいい女性だ。子供の頃、母方の祖父は墨田区でセルロイド工場を営んでおり遊びに行くのが楽しみだったという。色とりどりのセルロイドから「好きなの選びな!」と声をかけられ、オリジナルの下敷きを作ってもらったというから羨ましいかぎりだ。「工場ではきれいな箱物を作っていて、ハイ競争だよっ!って皆で速さを競って蓋をあわせる手伝いをしたりね、楽しかった。そのころの体験が今の仕事に役に立ってます。セルロイド素材のアクセサリーは見ればすぐに分かりますよ」と清水氏は懐かしそうに話す。

カラフルなセルロイドに触れて育った清水氏がコスチュームジュエリーのディーラーになるのは自然な流れのように思える。店内ディスプレイの楽しい色合いやあたたか味は、子供時代から培ってきた感性がそのまま反映されているようだ。

 

輸入商社で培った技術とセンスでコーディネイト

清水氏は美術短大卒業後、アメリカのコスチュームジュエリーを扱う輸入商社で10年働いた。上司とともに社内に工房を作り、古いジュエリーの修理や清掃などメンテナンスを担当。その後、宝石を扱うジュエリーメーカーに転職し、企画にたずさわった。そうした専門知識を活かして神楽坂にジェリクールを開店した。

仕入れは年4回。個人的な人脈を活かして世界中で買い付けしている。帰国後は大わらわだ。ジュエリーをひとつひとつ清掃、修繕、ネックレスは糸を替え、お客様が心地よく使えるよう入念に商品の調整をする。

コスチュームジュエリーは、素材ひとつとっても現代ものとは違う作り手のこだわり、試行錯誤があるという。最近流行しているコットンパールやアクリルビーズの元祖ともいえる古いアクセサリーを見せてもらった。アンティークのコットンパールは驚くほど軽く色鮮やかで形がやわらかい。ルーサイトのネックレスも光りに深みがある。どちらも現代の素材とは違う、引き込まれるような味わいだ。

さまざまなデザインが楽しいイヤリング

さまざまなデザインが楽しいイヤリング

「こうしたジュエリーは数少ないものですが、コレクションではなく実用的に使ってもらいたいんです。私は使えるアクセサリーとしてお客様に似合うものをコーディネイトしてます。たとえば顔に近いイヤリング。イヤリングはその人に合う合わないがはっきりと出るアクセサリーなんです。顔の形、肌や髪の色、耳の位置、形、その方の個性に合うものを探して、どんどん試して頂いて。それに本当に似合うものは本人が判るものなんです。似合うものをつけた瞬間お顔の色がいちだんと明るくなるんですよ!」と清水氏は実に楽しそうだ。

 

ジュエリーは“自分の分身”

「以前お客様から”そのアクセサリーすごく似合ってますね”と知らない人に話しかけられたのよ!と報告いただいた時は嬉しかったですよ。コスチュームジュエリーなら他の人がもっていない、自分の個性やファッションに合うものを身につけることができる。それに私、ジュエリーを買うのは下着を選ぶ感覚と近い、と思っているんです。」

ジュエリーと下着!? 思わぬ発想に身を乗り出して聞いてしまう。

「下着は絶対的に自分だけのものでしょう。人と貸し借りしないですよね。自分だけに合う自分の分身に近い。アクセサリーも本来そういうパーソナルなもので、起源をさかのぼるとアミュレットと呼ばれるお守りがアクセサリーの始まりなんですよ」

美しい輝きをもつルーサイトのネックレス

美しい輝きをもつルーサイトのネックレス

こんな風にアクセサリーに精通する清水氏のもとには年齢問わずさまざまな人が訪れる。共通しているのはブランドにこだわらず、自分に似合うものを探している人が多いことだ。

「西洋のアクセサリーデザインは完成された世界で、現代ものは今までの歴史からリデザインしてると言ってもいい。ジュエリーデザインの最盛期は50~60年代。色の感じ、手間のかけかた、断然ちがいます。お客様にはファッションの歴史と同時に成長してきたジュエリーの背景もお伝えしています。おしゃれしながら歴史を知るのも楽しみのひとつですね」

ファッションの歴史を旅してきたコスチュームジュエリー。その中から自分だけに似合うものを身につける……。なんと贅沢なことだろう。

カジュアルなシャツに一点付け加えるだけで自分らしさを表現してくれる”私の分身”。”もう一人の輝く自分”とジェリクールで出会ってほしい。

 

イベント情報
ジェリクール

住所:〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6-36-1 神楽坂ビル 1F
Tel/Fax:03(3260)0524
e-mail:info@jellicour.com
営業時間:12:00~18:30
定休日 :日曜日・月曜日 ・買い付け時(不定期)
http://www.jellicour.com/・・

 

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