細かいところが面白い! 2018年版の『アニー』<後編>~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第26回】
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(左から)辺見えみり、新井夢乃、宮城弥榮、藤本隆宏 2018.4.20新国立劇場
【THE MUSICAL LOVERS】
Season 2 ミュージカル『アニー』【第26回】
細かいところが面白い!2018年『アニー』<後編>
丸美屋食品ミュージカル『アニー』。山田和也の「新演出」は2年目となった。いよいよ8月4日(土)からは、福岡・大阪・新潟・名古屋をまわる、夏のツアーが始まる。『アニー』第二シーズンの到来である。
2018年の『アニー』東京公演(チーム・バケツ/チーム・モップ)を観てみると、細かい部分がよりいっそう面白くなっていた! ──ということで、この<後編>では、今年のゲネプロレポート および<前編>では書けなかった、第二幕の面白さを追っていきたい。
■終始無言の、ミスター・アプローズ
第一幕の後の休憩明けとなる、第0場・前説。2017年に引き続き、効果音係を演じるのは谷本充弘だ。劇場の観客をラジオ番組の見学客に見立て、「APPLAUSE」というボードを掲げたら、観客は拍手をする。開演5分前からこのパフォーマンスが始まるのだが、その間、谷本はサーカスのピエロのように終始無言である。
谷本はまず、舞台下手(向かって左側)に出てきて、観客に手を振る。その時点で思わず拍手が! すると、裏面になった白いボードを指さし、「まだ!」と合図。満を持して「APPLAUSE」面を掲げ、拍手をもらうと、「Good!」というポーズ。たまにオーケストラピットからふざけて拍手が来ると、目で「めっ」と合図。二階にも視線を向け、上からも拍手をもらってご満悦。「は~、ひと仕事した」とばかりに汗をふきながら退場。思わず拍手する観客に、白いボードを指さし、やめさせる……かと思えば、去り際にまた「APPLAUSE」! 2017年よりも確実にシャープになっている!!
■「しゃべっていない人が面白い」がギッシリのラジオ局!!
効果音係による無言の前説(?)が終わり、アントラクト(第二幕前のオーケストラ演奏)からの第1場。アニー(新井夢乃/宮城弥榮)の「Maybe(Reprise II)」が歌われる。ここはNBCラジオ番組「スマイル・アワー」のスタジオだ。効果音係の「APPLAUSE」ボードが揚がれば、慣れた観客(我々)は拍手。司会のバート・ヒーリー(矢部貴将)がアニーに話しかける。何か発表があるときには、プロデューサー(鹿志村篤臣)の指示で、オーケストラの大げさなドラムが入る。が、このドラムの音が大きすぎて、アニーがお立ち台から転がり落ちてしまう。
さて、このラジオは見学客のいる公開録音という設定だ。【第10回】でも述べたのだが、「バートがおくる奇跡のタップ」が、効果音係の手操作で鳴らすタップ……。逆に「ラジオだからほとんどのお客さんに見えない」という前提なのに、人形術師フレッド・マクラケン(伊藤広祥)は人形ワッキーと腹話術をする。しかもお揃いの服で!バート・ヒーリーのズボンも、片方だけチェックという凝ったデザインだ。そして「ラジオ界唯一の覆面アナウンサー、ジミー・ジョンソン!」……ラジオで覆面にする必要性って!?
ジミー・ジョンソン(森 雄基)は、頭にすっぽりと紙袋をかぶっている。いちおう目と口は開いているのだが、ボイラン・シスターズ(岩﨑ルリ子、神谷玲花、坂口杏奈)が歌い出す際に、後ろの椅子へヨロヨロと手探りでハケる。座ったとたんに、(客に見えているのに)紙袋をはずしてくつろぐ。覆面の概念とは……? 外していいなら、紙袋のままヨロヨロと席に戻るところもおかしいし、そもそも紙袋の穴が、目の位置と合っていないのでは?
ジミー・ジョンソン
そんなジミー・ジョンソンとフレッド・マクラケンは、ボイラン・シスターズの曲の前奏で、小さくさりげなくステップを踏んでいる。紙袋をかぶった男と、お揃いの服の腹話術人形を持った男が無言で踊っている図を想像してほしい。
ボイラン・シスターズが歌い始めると、ジミー・ジョンソンとフレッド・マクラケンに、あれこれをジェスチャーを交えて話すプロデューサー。プロデューサーが席を立つと、その空いた席に、腹話術人形のワッキーを座らせるフレッド・マクラケン。椅子にワッキー人形が、ちょこんと乗っている図が気になって、見なくていいのに毎度注目してしまう……。プロデューサーは、今度はバート・ヒーリーに話しかける。話し込みすぎて、歌うきっかけを忘れるバート・ヒーリーが、効果音係に無言ではたかれる。そんなバート・ヒーリーのキャッチコピーは「涙もろくておなじみ」……それってラジオでわかるもの?? そしてボイラン・シスターズの曲の最中、効果音係が彼女たちの前をウロウロしながらラジオの台本(読み終わるたびに床に落とされる)を拾っている。ボイラン・シスターズのパフォーマンスが観たい見学客に邪魔がられていないのか? そしてボイラン・シスターズは、ウォーバックス(藤本隆宏)が出てくる際、身だしなみをささっと整え、手を振ってアピールしている。ウォーバックスから、アニーの両親への懸賞金5万ドルが発表されれば、こそこそと騒ぎ出す。この、カオスと遊び心いっぱいのラジオの現場、筆者は大好きだ!!
■ペパーって真面目なんだ!
第2場・孤児院(裁縫室)。孤児たちはアニーが出ているラジオを聴いて大盛り上がり。しかし、ペパー(田中樹音/武藤光璃)だけは黙々とミシンを踏んでいる。そういえば第一幕でハニガンが孤児たちに「ドレスの注文が入っている。何が何でも今日中に終わらせるんだ」と命令していたっけ。孤児たちは学校へも行かせてもらえず、労働しているのだ。
黙々と作業するペパー
バート・ヒーリーやボイラン・シスターズの真似をして「Fully Dressed」を歌い出す、ペパー以外の孤児たち。口火を切るのはダフィ(藤田ひとみ/山本樹里)。澄んだ声でソロを取るジュライ(山下琴菜/河﨑千尋)。それにしても、ボイラン・シスターズの振付は、ラジオだけなのに、なぜわかるのだろう? ま、それよりも、興味がないフリをしていたペパーも加わったり、ケイト(歌田雛芽/込山翔愛)がさりげなくバク転していたり、元気いっぱいに歌い踊る孤児たちを楽しもう。ペパー、ジュライ、ダフィのお姉さん組に持ち上げられる、モリー(尾上 凜/島田沙季)、ケイト、テシー(音地美思/林 歩美)のちびっこ組に頬が緩む。孤児院の院長ハニガン(辺見えみり)の目を盗んで、ドレス作り用のモール等で着飾る孤児たち。「おめかし」という歌詞でお化粧のパフをはたくポーズ、43歳の筆者もマネしたい。
■ハロルド・イッキーズの、アンジョルラス的ハンカチ芸!
第3場・ホワイトハウス閣議室。ローズベルト大統領(伊藤俊彦)の「FBIはアル・カポネに手を焼いている」については、【第11回】 でも述べたとおり、1933年12月時点において
★FBI(Federal Bureau of Investigation=連邦捜査局)の呼称は1935年以降。この当時はBoI(Bureau of Investigation=捜査局)
★1931年3月に、アル・カポネは、FBIではなく、エリオット・ネスの率いる財務省・酒類取締局に、すでに逮捕されている、
──のだが、それはさておき……。
アニーとウォーバックスも、ホワイトハウスの閣僚会議に参加することになった。まず口火を切ったウォーバックスが、「クーリッジ大統領の言葉を借りれば『アメリカ人の本業はビジネスにあり』」と言って、閣僚たちをウンザリさせる。とりわけ谷本充弘の仏頂面。彼こそが、のちの「ハル・ノート」(【第5回】参照)を生み出す、コーデル・ハル国務長官である。
ウォーバックスの隣には、「ハル・ノート」の叩き台になった私案を考案したヘンリー・モーゲンソウ財務長官(矢部貴将)。ローズベルト大統領の車椅子を押しているのは、大統領側近で特別経済顧問のルイス・ハウ(森 雄基)。唯一の女性は、アメリカ合衆国初の女性閣僚フランシス・パーキンス(川井美奈子)。ウォーバックスの発言に対してブツブツ言い出す閣僚に、アニーが「朝がくれば トゥモロー、いいことがある トゥモロー」とつぶやく。真面目な会議の席での、能天気なアニーの発言に怒るハロルド・イッキーズ内務長官(伊藤広祥)。だがローズベルトは、「ここ(アメリカ合衆国)はまだ、自由の国だよ」とアニーに続けさせる。するとアニーは「Tomorrow」を口ずさむ。興に乗ったアニーは椅子の上で歌い、しまいには机の上で晴れやかに歌う。これを見て、今後の政権の方針がひらめきそうになるローズベルト。
前年のイッキーズ(白石拓也)が確立したノリノリ芸。今年の伊藤広祥はそこに“革命”要素を加えた。
ローズベルトはイッキーズに、アニーが歌った曲を「歌え」と命じる。あたふたと拒否するイッキーズ。しかし大統領は再び「歌え!アニーのように」と命じる。恥ずかしそうに、少し震え声ながらも一所懸命に声を張って、音痴な歌を披露するイッキーズ。しかし歌っていて気持ちよくなってきたのか、アニーのように机の上に乗ってしまう。その後ろには星条旗が! 星条旗の代わりにハンカチを振り回すイッキーズ。最後にはハンカチを空に投げ、両手を広げて清々しい表情。歌い終わった皆に「お疲れ!」とばかりに、笑顔で肩をたたくイッキーズ。まるで革命の旗を振り回す、『レ・ミゼラブル』の学生軍リーダー・アンジョルラスのようではないか! イッキーズが意気揚々と発言する。「大統領、100と言わず、1000の公共事業を!」続いてパーキンスが「ダム」、イッキーズが「建設」、パーキングが「雇用」と、次々にキーワードが飛び出す。これから「ニュー・ディール政策」という改革が始まる予感!! 「大統領の、ソロだ!」とローズベルトがソロをとり、歌詞を間違えてアニーに訂正され、正しく歌えるとアニーに「ぐっ」とサムアップされるシーンもGOOD。
ただしハルは国務長官らしく、ドイツと戦争をすることに対する国力について発言していた。モーゲンソウは、ウォーバックスと話をしている。ウォーバックスのモデルは、『アニー』本編に何度も名前が出るバーナード・バルークではないかと筆者は推測しているのだが、そのバルークが1941年、モーゲンソウにABCD包囲網の一環として在米日本資産凍結を進言したことは、【第12回】 で述べたとおりだ。この第3場では、この先の「暗黒のTomorrow」(【第5回】 参照)を暗示していることにも注目したい。
『Franklin D. Roosevelt and the New Deal: 1932-1940』書影
■とにかく可愛い執事・鹿志村ドレーク パート2!
第4場 第5場a・ウォーバックス邸(ギャラリー)。<前編 >でも、ベテラン執事・ドレーク(鹿志村篤臣)の可愛さについて語ったが、第二幕でも可愛さはますます健在だ。
「アニーの親だ」と自称する617人の女性と519人の男性を面接した、ウォーバックスの秘書グレース(白羽ゆり)。合計人数に詰まるグレースに、執事ドレーク(鹿志村篤臣)が「1236人」と、ぼそっと答える。「マンハッタンに、こんなに嘘つきがいるなんて!」と憤るグレースに、ドレーク「ブロンクスからもいらっしゃってました」と静かにつぶやきながら去ってゆく。
ドレークはいつだって、旦那様=ウォーバックスに呼ばれる前に、先回りして到着している優秀執事だ。人気ラジオ番組「スマイル・アワー」を通した公開捜査でも、アニーの両親が見つからなかったことで、アニーはウォーバックスの養子になることにOKしてくれた。この流れで、もちろん呼ばれる数秒前には、スッ……と現れているドレーク。「養子縁組の手続きをする。ブランダイス判事に電話してくれ」と命じるウォーバックスに、ずずずいっ……とゆっくり無言で迫り来るドレーク。(怒っているのか?!)と両手を挙げてたじろぐウォーバックス。ドレークは、ぬっ、とウォーバックスに顔を近づけ「……かしこまりました」。そして去り際に「ヤッホ~~~~!」とジャンプ!! 筆者は2018年版を4回観たが、この「ヤッホー」、毎回、観客が一番笑いそうな温度でやっていた。日によっては小さく「ヤッホ」くらいのときがあり、その匙加減が毎度完璧!『アニー』出演18年目のなせる技である。一方ドジっ子グレースは、ウォーバックスに花やシャンペン等の準備を頼まれ、テンパってしまい調理棚に激突。「ガラガラガッシャ―ン!」「スコーン!」と幕内から音だけが響き、グレースが声だけで「だいじょぶですぅ~~」という場面は場内爆笑だ。
グレース大爆発
■アニーの「おめかし」=おなじみの、あの髪型!
第5場b 第6場・ウォーバックス邸(イーストボールルーム)。アニーを養子に迎えるにあたり、イーストボールルームでパーティーを開くことになった。ウォーバックスは、邸宅のスタッフも招待するので「バッチリ、キメてくるように」と指示。指示の先を読むドレークは、1秒でバッチリ、キメてくる。そしてグレースも純白のドレスに着替えるのだが、それを見たウォーバックスは「綺麗だ」。憧れのウォーバックスに褒められ、ふらぁ~っと倒れるグレースを、いつだって一歩先回りのドレークが受け止める!
ドレークの「♪おめかし しましょう」のソロが印象的な曲「Annie」。そこで盛大に迎えられるブランダイス判事(矢部貴将)。しかしブランダイス判事、なぜあんなにヒゲもじゃなのだろうか? 実際の顔に、ヒゲはなかったと思うのだが……。
おめかし
「おめかし」をして、パーマをあてたアニーも音楽に合わせて堂々と登場(『アニー』といったらおなじみの、あのショートっぽいくるくるヘアーは、第二幕のこんな後半まで出てこないのだ!)。ブランダイス判事により、いよいよ養子縁組の手続きをしよう、という瞬間、アニーの両親だと名乗る男女(マッジ夫妻)がやって来た。ウォーバックス邸のスタッフが「きっとまたニセモノだ」「このタイミングで」とばかりに、ヒソヒソと煙たがる。しかし彼らは、アニーの両親と言える証拠を全て揃えていた。その様子にブランダイス判事の「あれ~?」という表情。アニーの両親だと名乗る男女は、5万ドルの懸賞金でニュージャージーの養豚場を買い、そこでアニーを育てたいと言う。アニーに両親が見つかったことを喜ぼうとするウォーバックスとスタッフたち。しかしアニーは「養豚場なんて……すごい……」と浮かない顔。皆、アニーの両親が見つかった乾杯をしてくれるが、アニーはパーティーの場から去ってしまった。そこへタイミング悪く入って来るローズベルト大統領。「ホウホウホウ、メリー・クリスマス!」と陽気な挨拶!沈み込んで迎えるスタッフに、「私はそんなに人気がないのか……?」と側近ルイス・ハウにしょんぼり言うローズベルト、「いえ、そんなことは」とでも言っていそうなハウの表情が、面白哀しい。
さて、せっかく来たブランダイス判事とローズベルト大統領は、どう退場するのか。ブランダイス判事が大統領に事情を説明するジェスチャーで、一緒にはけてゆく。【第12回】でも述べたとおり、ブランダイス判事はローズベルトの私的アドバイザーも務めていたのだ。『アニー』では描かれないが、この先、ニュー・ディールの主な立法を合憲と認め、法律家の立場から大統領の政策を支えてゆくこととなる。
皆が去り、ドレークと料理人ピュー(坂口杏奈)だけが残る。ドレークが黙ってクリスマスツリーのライトを消す。ピューはさめざめと泣いてしまう。真っ暗な中、窓の外の雪が「Maybe」のストリングスに合わせて降りしきる。この後、アニーが「Maybe (Reprise III) 」を歌うが、【第7回】 【第8回】でも述べたとおり、『アニー』製作にあたって出資者を募ったバッカーズ・オーディション(1972年)の段階では、ここは「I've Never Been So Happy」という浮かれた曲だった。作詞、そしてブロードウェイ初演の演出を手掛けたマーティン・チャーニンによれば、「アニーはニュージャージーの養豚場での生活を覚悟しなくてはならないのだ。NG!パーティーじゃないんだぞ」。アニーは夢にまで見た両親が見つかった。けれどもそれは田舎の養豚場で、厳しい生活が待っていることは明らかだ。アニーだって、せっかく心を通わせた富豪のウォーバックスさんたちと離れたくない、と葛藤しているわけだ。浮かれた曲は没になり、「Maybe (Reprise III) 」が歌われるようになった次第だ。
だが、見つかったと思ったアニーの両親(マッジ夫妻)はニセモノだった。ウォーバックスに助けを求められたローズベルト大統領が、本当の両親(ベネット夫妻)は亡くなったのだとアニーに話してくれた。「本当は、なんとなくわかってた」「私のこと愛してたのに、迎えに来なかった、ってことは……」黙ってしまうアニーの心が落ち着くのをじっと待ち、「愛してるよ、アニー・ベネット」と、アニーの本当の名前で呼びかけるウォーバックス!
では、あの「アニーの両親」だと名乗ったマッジ夫妻は何者なのか?! アニーのロケット(ペンダント)の秘密を知っていたのは……ハニガンさんだ!ハニガンさん、それが鍵だ!!
さあ、ここからゲームが始まる。ドレークが嬉しそうに「ハニガンさんがお見えになりました!」ハニガンは、悪だくみがバレているとも知らずに、ゴージャスなドレスだ。
連れられた孤児たちは、ウォーバックス邸のゴージャスさに、口をぽかんと呆然顔。そんな孤児たちに用意されたプレゼントに、テシーが歓喜の声をあげる。「も~、やったぁ~~!」テシーの口癖「もうやだ(Oh my goodness)」が、「も~、やったぁ~~!(Oh my goodness!)」に!!ぬいぐるみやドールハウス、ボクシングのグローブなど、それぞれに合うプレゼントが用意されている中、モリーは我先に箱を開けている。そこが通り道になるので、いちいちモリーをまたぐドレーク。見かねてモリーをひょいっと持ち上げ、どかすウォーバックス。この無言のやり取り、最高に好き!
アニーは、自分の両親だと名乗ったマッジ夫妻の正体をこっそり知らされる。そこで叫ぶ言葉は「ビックリ仰天!」
ここは、オリジナルの英語台本では「Leapin' Lizards!」となっている箇所だ。【第15回】 でも述べたとおり、コミック・ストリップ『小さな孤児アニー』時代から、アニーの口癖である。原作コミックに慣れ親しんだアメリカ人にとって、アニーといえば「Leapin' Lizards!」というくらいおなじみの語句で、直訳すると「跳んでるトカゲ!」、実際には「おったまげー!」「ウソみたい!」という意味で使用される慣用句だ。「アニー好き」で「アニーになりたかった」と公言する平野ノラも、よく「おったまげー!」と叫んでいるが、このギャグの大元は『アニー』だったりして……!?
さて、正体がバレているとも知らずにマッジ夫妻がやって来た。アニーがわざと明るく「ハーイ、ママ! ハーイ、パパ!」と手を振る。しかしマッジ夫妻が手にした支払い保証付き小切手には、「ゲーム・オーバー」と書かれていた。ローズベルト大統領の「バーイ、ママ!バーイ、パパ!」、取り繕うハニガンが孤児たちに「ひいらぎかざろう」を歌わせるが、ウォーバックスが「私の、ソロだ!」と割り込む。「こいつも共犯 ラララ ラララ ラララ♪」ホワイトハウスでのローズベルト大統領の「大統領の、ソロだ!」のパロディ!
マッジ夫妻とともに逮捕されそうになったハニガンは、アニーに救いを求める。しかしアニーは「言えないよ」「だってハニガンさん、いつも言ってたじゃない。ウソをついては、いけないって……」モリーも「地獄へ落ちろ!」と、以前ハニガンに言われたことを、そっくりそのまま返す。そんな生意気な孤児たちに、ハニガンは「あんたたちのことなんて、誰も好きじゃなかった!!!」と最後っ屁。それも空しく、じたばたとドレークに連れ去られるマッジ夫妻=ルースター(青柳塁斗)と恋人リリー(山本紗也加)。
この後、アニーによってグレース、パパ(ウォーバックス)、ローズベルト大統領が孤児たちに紹介される。それぞれに「こんにちはぁ~」と返す孤児たちだが、ここはチームによって演出が違う。チーム・バケツのアニー(新井夢乃)は、「この人、アメリカ大統領!」と、大統領の車椅子のわきで「ふふん」と得意げ。チーム・バケツの孤児は、このとき「こんにちは」と言わずに無言。対してチーム・モップの孤児たちは、ローズベルト大統領へ「こんにちはぁ……」と、消え入りそうな声での挨拶。そういえばハニガンも、ローズベルト大統領を紹介されたとき、驚きのあまり固まってしまっていたっけ。
ローズベルト大統領から孤児たちに、もうハニガンは永久に戻ってこないことが告げられる。その代わり学校で勉強できるよ、と言われ、孤児たちは「げー」とガックリ。しかし、もう「どろどろスープ」とはおさらばだと聞かされた孤児たちは、歓喜のあまり「ノーモアどろどろ!」の行進。なんたって孤児たちにとっては、孤児院をおさらばできることよりも、「どろどろスープ」とお別れできることが、「いちばんすばらしいニュース」なのだから(【第13回】参照)。
そんな孤児たちに目を細め、ウォーバックスに「私たちにとっても、素晴らしいクリスマスになりそうだ」と手を取られたグレースが、黙ってしまうのがとても可愛らしい。好きな人に手を握られ、求愛されているとわかったら、驚くより前に黙っちゃうよね……わかります!幸せをつかんだ皆を、そっと見守るダンスキッズ。犬のサンディもアニーの元へ帰ってきて、めでたしめでたし。
カーテンコールはダンスキッズそれぞれの得意分野の見せ場があり、孤児たち1人1人の個性あるおじぎも楽しめる。が、孤児たちへの拍手のタイミングが毎度わからない。1人1人に目いっぱい、拍手したいのに~~!
さて、ミュージカル『アニー』東京公演には、観客にもれなくグッズがもらえる「わくわくDAY」がある。2018年はその日の最後、指揮の福田光太郎とオーケストラの何人かが「わくわくDAY」でもらえるキャップをかぶっていた。「『アニー』クリスマスコンサート2017」でも、指揮の福田はじめオーケストラメンバーが、サンタ帽を被っているという、お茶目なサプライズがあったっけ(【第20回】参照)。とにかく可愛さあふれる、2018年の『アニー』だった!
アニー2018グッズ。CDのボーナストラック、「Maybe(クリスマスコンサート Ver.)」は必聴!
ところで、2018年『アニー』CDのボーナストラックには、「Maybe(クリスマスコンサート Ver.)」 が入っているではないか! 歌うは2016年のアニー役:池田 葵、2017年のアニー役:野村里桜・会 百花、モリー役:小金花奈・今村貴空、ケイト役:林 咲樂・年友紗良、テシー役:井上 碧・久慈あい、ペパー役:小池佑奈・吉田天音、ジュライ役:笠井日向・相澤絵里菜、ダフィ役:宍野凜々子・野村愛梨だ。最高。っていうかクリスマスコンサートの音源、毎年フルで欲しい! 日テレさん、よろしくお願いいたします!!
次回に続く
★『アニー』のわからない語句・疑問については、当連載の「アニー用語辞典 <前編(第一幕)>&<後編(第二幕) > 」をご覧ください。さらに、ミュージカル『アニー』に関して、もっと深く知りたい方は、下記連載記事をどうぞ!↓
[第1回] あすは、アニーになろう
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編)
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー
[第24回]2年目の山田演出は、「より分かり易く」「より面白く」!ミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第25回]細かいところが面白い!2018年『アニー』<前編>
[第26回]細かいところが面白い!2018年『アニー』<後編>
※参考文献:
・ミュージカル『アニー』パンフレット(2018年版掲載 香盤表、日本公演)
・トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)
・Thomas Meehan『Annie -A novel based on the beloved musical!-』(2013年、Puffin Books)
・CD『アニー オリジナル・ブロードウェイ・キャスト』ブックレット内 歌詞およびライナーノーツ(2004年、ソニーミュージック)
文・イラスト=ヨコウチ会長
公演情報
■日程:2018年4月21日(土)~5月7日(月)
■会場:新国立劇場 中劇場
■日時:
2018年8月4日(土)15:30
2018年8月5日(日)11:30/16:00
※開場は開演の30分前
■会場:福岡市民会館(大ホール)
■料金:S席8,500円 A席7,500円(全席指定・税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。
■主催:FBS福岡放送、読売新聞社
■問合せ:キョードー西日本 092-714-0159
■日時:
2018年8月9日(木)~14日(火)各日11:00/15:30
※開場は開演の30分前
■会場:シアター・ドラマシティ
■料金:全席指定8,500円(税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。
■主催:讀賣テレビ放送株式会社
■問合せ:アニー公演事務局(10:00~18:00)0570-08-0089
■日時:2018年8月26日(日)各日11:00/15:30
※開場は開演の30分前
■会場:新潟テルサ
■料金:S席8,500円 A席6,800円(税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。
■主催:TeNYテレビ新潟・新潟テルサ
■問合せ:
TeNY
新潟テルサ 025-281-1888(休館日を除く9:00~17:00)
■日時:2018年8月31日(金)~9月2日(日)各日11:00/15:00
※開場は開演の30分前
■会場:日本特殊陶業市民会館フォレストホール
■料金:S席 8,500円、A席 6,500円(税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。
■主催:中京テレビ放送
■問合せ:中京テレビ事業:052-588-4477(月~金 10:00~17:00 土・日・祝休業)
アニー:新井 夢乃 / 宮城 弥榮
ウォーバックス:藤本隆宏
ハニガン:辺見えみり
グレース:白羽ゆり
ルースター:青柳塁斗
リリー:山本紗也加
ローズベルト大統領※:伊藤俊彦
(※キャスト表では「ルーズベルト大統領」ですが、当連載では「ローズベルト大統領」と表記しています→【第4回】参照)
男性アンサンブル:伊藤広祥、大竹 尚、鹿志村篤臣、谷本充弘、森 雄基、矢部貴将
女性アンサンブル:岩﨑ルリ子、神谷玲花、川井美奈子、坂口杏奈
脚本:トーマス ミーハン
作曲:チャールズ ストラウス
作詞:マーティン チャーニン
翻訳:平田綾子
演出:山田和也
音楽監督:佐橋俊彦
振付・ステージング:広崎うらん
美術:二村周作
照明:高見和義
音響:山本浩一
衣裳:朝月真次郎
ヘアメイク:川端富生
歌唱指導:青木さおり
演出助手:小川美也子・本藤起久子
舞台監督:倉科史典
■製作:日本テレビ放送網株式会社
■協賛:丸美屋食品工業株式会社
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/