細かいところが面白い! 2018年版の『アニー』<前編>~【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第25回】
キャストボード(左=チーム・バケツ、右=チーム・モップ)
【THE MUSICAL LOVERS】
Season 2 ミュージカル『アニー』【第25回】
細かいところが面白い!2018年『アニー』<前編>
丸美屋食品ミュージカル『アニー』。山田和也の「新演出」は2年目となった。いよいよ8月4日(土)からは、福岡・大阪・新潟・名古屋をまわる、夏のツアーが始まる。『アニー』第二シーズンの到来である。
2018年の『アニー』(チーム・バケツ/チーム・モップ)を観てみると、細かい部分がよりいっそう面白い! この<前編>では、東京公演のゲネプロレポート では書ききれなかった細かい部分の面白さも含め、第一幕を追ってみた。
■ちゃっかりしていてイタズラ者の孤児たち!
孤児たちはちゃっかりしていてイタズラ者ぞろい。そんな中、イタズラっ子ランキングでいくと、誰が1位か? それはやっぱり、ちびっ子・モリー(尾上 凜/島田沙季)だろう。
第1場・孤児院の共同寝室。孤児院の院長ハニガン(辺見えみり)は、孤児にはつらくあたり、酒ばかりあおっているアル中だ。モリーはハニガンの後ろから、その威張った歩き方を真似て観客を笑わせる。酒をあおるハニガンを、後ろからジロジロ見るモリー。ハニガンが「お薬だよ」と言えば、モリーは「すっっっごく病気なんだね」なんて生意気を言う。ハニガンから「地獄へ落ちろ!」と怒られても動じない。モリーは、この後の曲「It's The Hard-Knock Life」でも、が掃除する中、ひとりハニガンのセリフを真似て、孤児たちに掃除の指示をする。のみならず、「ピー!ピー!ピー!(笛の音)」「ぐびぐびぐびぐび(酒を呑む音)」など、ハニガンのクセも擬音でなぞってご満悦だ。洗濯物のシーツの山に入り込み、ハニガンに叱られても平然とするモリー。アニー(新井夢乃/宮城弥榮)が孤児院を脱走した後、バケツにハマっちゃうところなど、最高にキュートだ。
モリーがバケツに!
しかし、このモリーのキャラクターはオリジナルのもの。新演出においてイタズラ好きが際立つのは、ケイト(歌田雛芽/込山翔愛)ではないだろうか。ケイトといえば、第4場・孤児院(ハニガンのオフィス)で、ハニガンにネズミの死骸を見せるシーンでおなじみだが、第1場からさりげなくイタズラっ子ぶりを発揮している。ペパー(田中樹音/武藤光璃)とジュライ(山下琴菜/河﨑千尋)とのケンカに、「もうやだ」と頭を抱えるテシー(音地美思/林 歩美)。かなりうるさいのに、ベッドから片足を出して、マイペースに寝ているケイト。テシーは毛布にくるまってケンカに怯えるが、その後起き出してきたケイトが、テシーの毛布をぺろっとはがして、中を覗いて笑っている。ケイトはイタズラもマイペースだ。
最年長のダフィ(藤田ひとみ/山本樹里)も負けてはいない。ケイトにネズミの死骸を見せられたハニガンに追い打ちをかけるのがダフィは、「ハニガンさんハニガンさん、ハニガンさ~ん!」と、あたかも楽しい報告があるかのように、弾んだ口調で語りかける。「ハニガンがコニー・アイランドで買ったお気に入りのサテンのクッション、あるじゃないですかぁ」。クッションをほっぺたに当て、頬ずりするハニガン。「それにモリーがゲロ吐いた!」イヤァ~~とクッションを放り投げるハニガンの姿を指さして、けたたましく笑うダフィ。アニーになりたい歴31年の筆者だが、もはやハニガンの辛さの方がわかる。っていうか辺見えみり(41歳)、筆者(43歳)より年下だった……。
こんな孤児院出てゆきたい! ハニガンが歌う「Little Girls」には、彼女の幻覚のように孤児たちの姿がチラつく。ケイトは、ちょっとヒッピーっぽい帽子がお気に入りで、その帽子を触ってご満悦。「もうやだ、もうやだ」が口癖のテシーは、頭を抱えている。ペパーは、手で顔面を覆っているが、これは孤児院を抜け出そうとするアニーに皮肉を言った際、懐中電灯を当てられたときの動作だ。これまで出てきた、孤児の「クセ」や特徴が、振付に現れている!(振付・ステージング:広崎うらん)
「Little Girls」ハニガンと孤児たち
■かわいそうなハニガン
孤児たちのイタズラ連発から気を取り直したハニガンが、大好きなヘレン・トレントのラジオドラマ(【第21回】 参照。声は鹿志村篤臣!)を聴いている。すると物語のイイところで邪魔が入る。孤児院を脱走していたアニーが、17管区ウォード警部補(矢部貴将)に連れ戻されたのだ。孤児院に珍しくやって来た若い男性に良いところを見せたいハニガンは、孤児たちに優しく語りかける。「お遊戯室に、ホットココアとジンジャークッキーをご用意してあげたワ」。
孤児院にお遊戯室などない。ましてや、おやつなんて……。これに対し「どこ?」と訝しむペパー。ハニガンが無の声色で「あっち行け」と追い払う。ウォードだけがハニガンを「こんな良い人」と言うが、アニーが「この人は全然」……その口を後ろから押さえつけるハニガン、モゴモゴするアニーが可笑しい!
■野生味ある孤児・アニー
さて、旧演出、とくにジョエル・ビショッフ時代(2001年~2016年)のアニー像は、「天真爛漫、明るく素直」というイメージで創られていたように思う。いまでも東京以外の『アニー』のキャッチコピーが「きれいな心あげる!」だったりする。
だが山田和也演出のアニーは違う。孤児院からの脱走を企てるアニーは、得意げな表情で洗濯袋に入る。ハニガンの目が届かなくなると、洗濯袋から顔を出し、「フフン」とばかりに悠然とした余裕を見せる。「アニーは、素直で明るくて優しい子」ではあるが、山田演出は「頭が良くてちゃっかりした子」の印象も植えつけるのだ。
大富豪ウォーバックスの秘書グレース(白羽ゆり)が、クリスマス休暇を一緒に過ごす孤児を探しに来た際の演出も違う。グレースの求める「賢い子」には「Mississippi」の綴りを答える等、オーダーどおりにふるまうアニー。さらにアニーは、グレースに自分の赤毛をアピールし、年齢もジェスチャーで上げさせ、「11歳、赤毛」の女の子を所望していると言わせる。ここまでも旧演出にスピード感が加わっているが、ここからが山田演出。アニーの行動を面白がって応えてくれたグレースに対し、「ぐっ」とアニーがサムアップ。しかしハニガンは、「ほかの子なら誰を連れて行ってもいいけど、アニーはダメ」と、孤児たちを呼んで並ばせる。孤児たちは「何してるんだろう?」「アニーどうしたの?」と、ひそひそ。アニーは、グレースの「アニーおいで」の呼びかけに応え、行く手を阻むハニガンの足をバシッと踏みつける! アニーの行動に、孤児院で培った知恵と、サバイバルな孤児院社会を生きる粗野さが加わった!
Mississippi!賢さをアピールするアニー
■サンディの名前の由来は……?
アニーの知恵といえば、孤児院を脱走していた際に、野良犬サンディと出会った時にも発揮された。
第2場・セントマークスプレイスの街角にて、野犬狩りが行われている。野犬捕獲人助手(大竹 尚)が野良犬をケージに入れる。野犬捕獲人(谷本充弘)が、「これで50セントだ」。野犬を捕獲すればお金がもらえるようだ。彼らに捕まらなかった犬こそが、後のサンディだ。アニーが、ごみ箱の中をガサゴソと漁り、食べ物のカスが入った袋を探し出す。寄って来るサンディ。とはいえこの時は、名前はまだない。アニーが「この犬は野良犬ではない、自分の犬だ」と証明するために、その砂っぽい薄茶(sandy)な毛色から、とっさに「サンディ」と名づけるのだ。2018年からサンディは犬種が変わり、レトリバーの血を引くミックス犬となった。薄茶の混じる新しいサンディは、文字通り「sandy」だ。
サンディを演じる「バブ」は、『アニー』公演中の5月6日、テレビ朝日系列『復讐捜査』にて名演技を披露。『アニー』ファンのみならずお茶の間の話題となった。
サンディ
なお、旧演出では「Sandy Beach(砂浜)」のポスターが貼られており、それを見たアニーが名前を思いつく設定だった。
■ローズベルトの対抗馬
続く第3場にて、アニーはサンディとともにフーバービル(貧民街)にゆく。フーバービルで暮らす失業者達は失政が原因のひどい暮らしに文句を言う。それに対し、アニーがうまいことを言うと「まるで小さな政治家だ」とチヤホヤ。そんなアニーの機転に、リンゴ売りが言う。「ローズベルトの対抗馬になれるぞ」。あれ……あなたは、第二幕で登場するローズベルト大統領(伊藤俊彦)ではないか!これは2018年からローズベルト大統領になった伊藤への、山田演出の遊び心だろう。
ところで、山田演出になってから、ここでソフィ(岩﨑ルリ子)が皆に配る「謎の煮込み」が美味しくなっているようだ。旧演出ではアニーが「おえっ」という表情をし、サンディも食べない、文字どおり「犬も食わない」ものだった。しかし山田演出は、本当の魅力が詰まっているブロードウェイ版に立ち返る基本姿勢を表明していた。ミュージカル『アニー』の脚本を手掛けたトーマス・ミーハンの設定では、アニーが一番つらいことは、孤児院の「どろどろスープ(mush:乾燥トウモロコシを溶いたもの)」を食べさせられること。しかも、いつもぬるいか冷めている。寒い中、優しく接してくれる人たちから熱々の煮込みをもらえたら、孤児院の「どろどろスープ」よりもよっぽど美味しいはずだ。
■とにかく可愛い鹿志村ドレーク
さて、ここで、筆者の推し・鹿志村篤臣の話をしたいと思う。さきほどのフーバービルにも鹿志村はいたが、何といってもウォーバックス邸での鹿志村に注目だ。
アニーがグレースに連れられ、駅舎のように豪華なウォーバックス邸にやって来た。執事のドレーク(鹿志村篤臣)に「コートをお預かりします」と言われ、とっさに「返してくれる?」と、ファイティングポーズで応戦するアニー。
ファイティングポーズのアニー
ドレークと女中頭のグリア(川井美奈子)が指揮をとり、ウォーバックスの帰宅に必要なものはスタッフたちが全てそろえている。その忙しいさなかでも、おもてなしのプロとしてアニーを迎えるスタッフたち。アニーへの夢のような待遇が歌われる「I Think I'm Gonna Like It Here」(谷本充弘の回転ジャンプの跳躍力がスゴイ!)に、アニーは「誰かつねって」。するとドレークが真に受けて、真顔で横からつねる。知らんぷりを決め込むドレークを、つねり返すアニー。それでもしれっと真顔を崩さないドレーク、しばらくするとアニーに触られて乱れた衣服を、サッサッサッと直す。いや、直すフリをして、アニーがつけたシラミを払っているのか!?その、真面目なロボットのような動作が、筆者の大のお気に入りだ。それにしても1933年の世界大恐慌の余波が色濃いご時世の孤児、しかもアニーは孤児院を脱走していたのだから、風呂に入ったのはいつだったのか……。
■グレースの投げキッスの数、増大!
ウォーバックス(藤本隆宏)が6週間ぶりに出張から帰って来た。秘書グレース「アニーは、このお屋敷に来て初めての夜なんです」。そこで「何か特別なこと」を提案するウォーバックス。グレースが必死のジェスチャー、しかしウォーバックスには一向に伝わらない。しびれを切らしたアニーが「映画!」と当て、グレースに「そう!」と褒められると、得意げにサムアップするアニー。
thumb up!
さて、グレースの一連のジェスチャーの中に、ウォーバックスへの投げキッスがあったのをお気づきだろうか?! しかも4月のゲネプロでは1回の投げキッスで「キャッ」とはにかんでいたグレースが、5月に観た際には5~6回投げキッスを飛ばした上、「I love you!!」とウォーバックスに向かって口が動いているではないか!! 料理人ピュー(坂口杏奈)がグレースに「ウォーバックスさんが戻って嬉しいですわね」と含み笑いで言っていたように、グレースはウォーバックスに恋しているのだ。その想いをジェスチャーの中に混ぜてしまうグレースが、とっても愛らしい。
グレースのジェスチャーが功を奏し、アニーは映画に連れて行ってもらえることに。が、ウォーバックスは仕事で行かれないと言う。「いいの、大丈夫!」と返すものの、あからさまにシューンとしょぼくれるアニー。ウォーバックスが言い訳をすると、「大丈夫!」と、またシューン。バーナード・バルークからの電話を地団駄でジャマするアニーに、ウォーバックスがついに折れる。バルークに「これから10歳のレディと約束がある」と言うウォーバックスに、アニーはすかさず「11歳だよ」と、ませたポーズと大人びた声色。アニーに「し、失礼!」と、紳士的に詫びるウォーバックスには、グレースじゃなくても「キュン」とくるのではないだろうか。ウォーバックスは、子どもの前だから、と汚い言葉はやめようとするのも良い。ウォーバックスに怒られそうになれば、ファイティングポーズで応戦するアニー。そんな生意気さがすっかり気に入るウォーバックス。そして、アニーの癖はサムアップとファイティングポーズなのだな、と、躍動感ある演出が印象づける。
■アンサンブルに注目の「N.Y.C.」
第6場・ニューヨークの街。ウォーバックス、アニー、グレースはロキシー・シアターに向かっている。ウォーバックスがリード・ボーカルをとるビッグ・ナンバー「N.Y.C.」には、ニューヨークの特徴として、こんな歌詞が出てくる。「口汚く罵る、タクシードライバー」「胸やけを起こさせるホットドッグ」。その歌詞に連動して登場するタクシードライバー(矢部貴将)と、ホットドッグ売り(谷本充弘)。
アニーに「サン・モリッツ・ホテルのカフェ(ニューヨーク5番街に位置するラグジュアリーホテル。カフェのアイスが名物。【第21回】参照)で、アイスクリームソーダを頼むといい」と言っていたウォーバックスだが、ロキシー・シアターに向かう道中、アイスクリーム屋台にアニーが食いつき、ウォーバックスも相伴する(旧演出では、アイスクリームソーダを飲むカットが挟まれていた)。確かに、孤児院を出ていきなりサン・モリッツは敷居が高すぎる。映画館では、アニーにポップコーンをすすめるウォーバックス。ウォーバックス自身、久しく食べていないと言う。そういえば道中、少女がポップコーンを持って走っていたっけ。ウォーバックスはアニーを迎え、ニューヨークの街角での買い食いを一緒に楽しんでいる。ウォーバックス一行は、ティファニーのバッグを持った人ともすれ違っている。ウォーバックスはここで、後の買い物のインスピレーションを得たのだろうか。
さて、このナンバーを彩るダンスキッズ(大川惺椰、大谷紗蘭、大星優輝、齊藤芯希、平井蒼大、山中莉緒奈/東 未結、高橋奈々、髙橋有生、田中愛純、廣瀬奏空、宮原咲心)も、未来のスター(坂口杏奈)の着替えとともに、華やかな衣裳にチェンジ! このナンバーの余韻をふんわり残すかのように、ダンスキッズだけが残るシーンも美しい。オールド『アニー』ファンは、2010年にタップキッズとしてこの曲に参加していた神谷玲花が、カップルや案内嬢としてこのナンバーに登場するのも注目だろう。パンフレットには振付助手補佐として、2015年のタップキッズだった出口稚子の名もあった。『ビリー・エリオット』のシャロン・パーシー役(大人バレエガールズ)としても輝いていた彼女が、こうした形で後進の指導に当たっているのも、オールド『アニー』ファンにはグッときてしまうのではないだろうか。「N.Y.C.」の華やかさが終わるとともに、サンディが登場し、「アニー、どこ~?」とばかりに舞台を横切ってゆくのも、毎年のことながら可愛い。
「アニー どこかな~」と、てくてく横切るサンディ
ところで山田演出の「N.Y.C.」には、ルースターが登場しない。旧演出(ジョエル・ビショッフ時代)は、刑務所から出所したてのルースターが登場し、靴磨きをしてもらっている間にコインを消す芸当を披露、靴磨き屋が驚いている一瞬に代金を払わずトンズラしていた。後にルースターの恋人リリーが「ルースターは邪魔なものは、何でも消せるのよ」と語るシーンにつながる演出だった。ちなみにルースターはその際、姉・ハニガンあての大きなプレゼントを抱えていた。中身は姉の好物である酒。刑務所にいて禁酒法(【第13回】参照)が解かれたのを知らなかったのか、ずいぶん大げさに(別のものに見えるように)ラッピングしていた。
■シラミだらけのみなしご
第7場・孤児院(裁縫室)。ハニガンが黙々と、モリーのシラミを取っている。「あ、やっぱり孤児たちはシラミだらけなんだな」と思わせる。するとこの後、ハニガンの弟・ルースター(青柳塁斗)が歌うではないか。「シラミだらけのみなしご」……実際の英語の歌詞に「シラミ」のフレーズはない。「我々がわずかなお金を得る間に、あの小さなガキはウォーバックスを得た。フェアじゃない。頭がおかしくなりそう」という内容を、韻を踏みながら歌っている。ただしこの訳詞は山田演出よりも前から使われているものだ。山田演出の「分かり易さ」から、ハニガンにシラミを取らせているのだろう。
モリーのシラミを取るハニガン
■「このロケットを取らないで!」初めてアニーが涙を見せる
第8場・ウォーバックス邸(オフィス)。アニーを養子にしたいと思うウォーバックスは、ティファニーでロケット(ペンダント)を注文した。それが届いたと知り、緊張するウォーバックス。「アニーを世界一幸せな子にするんでしょう?」と、ほほ笑むグレース。白羽グレースは、セリフの後の余韻の残し方がとても素敵だ!
アニーを呼び出したはいいが、すぐには養子の話ができないウォーバックス。自分のことをわかってもらおう、と、自身の生い立ちを話し出す。両親を早くに亡くし、23歳で100万ドル、10年で1億ドル稼いだのだ、と。1億ドルに対し、「当時としてはすごいお金だよ」と語るウォーバックスに、「今でもすごいお金ですが……」と毎年思ってしまう筆者だ。その告白を、ふむふむ……と聴くアニー。アニーはウォーバックスが「モナ・リザ」の絵を飾らせている間も、何の絵と知る由もなく、ふむふむと見ていた。ウォーバックスから「ベーブ・ルースに会いたいか?」と聞かれれば、「わぁ~、すっごく会いたい!(誰だろ?)」と、その場では合わせていた。案の定、ウォーバックスの身の上話が難しく、わかっていないのに合わせていただけのアニーであった。
難しい身の上話は切り上げ、アニーにロケットをプレゼントすることで喜んでもらおうとするウォーバックス。アニーがいつもしているロケットは、古くて壊れかけているから……と外そうとする。だけどアニーは「やめて!」とその手から逃げた。これは両親が孤児院に置き去りにしたときに自分にかけてくれた、両親の子だという証明だ。ウォーバックスさんとクリスマス休暇を過ごせたのはラッキーだったけど、本当の望みは、普通の子と同じように、本当の両親と暮らすことなんだ。アニーは泣きながらグレースにすがりつく。ショックで「この子(アニー)にブランデーを……」とよろめくウォーバックス。ウォーバックスはそのまま、自らブランデーを持ってきて気付とし、その勢いでFBIのフーバー長官に電話、アニーの両親の捜索に乗り出す。<※1933年はFBI(Federal Bureau of Investigation=連邦捜査局)の呼称ではなく、BoI(Bureau of Investigation=捜査局)であるが……。>アニーは今まで肌身離さず身につけていた2つのもの-ロケットと、孤児院に置き去りにした両親が書いた手紙-の両方を、手がかりとして託す。
手紙
グレースはアニーに優しく微笑みかけ、ウォーバックス邸のスタッフは、「You Won't Be An Orphan For Long」の曲で、「きっと両親が見つかる」と、勇ましくアニーを元気づける。皆が円をなして盛り上がる中、ウォーバックスは輪に入れない。
ドレークが皆を下がらせ、ドレークも様子をみてひっそり去る。孤児院の友だちに、「すぐに両親が見つかるそうです」と、晴れやかな表情で手紙を書くアニー。アニーを見つめる、寂しそうなウォーバックス。ウォーバックスを黙って切なく見つめるグレース。誰の視線も合わないまま、幕が下りる。
お気づきだろうか。アニーは後にも先にも泣くことはない。第二幕でショックなことがわかっても、嬉しいことがあっても泣かない。ミュージカル『アニー』の脚本家・トーマス・ミーハンが書いたノベライズ本『アニー』によれば、この場面、アニーは必死に泣くまいとしている。だけど「物心がついて初めて、アニーは泣いていた」とあるのだ。アニーにとってロケットを外す、ということは、ロケットのように古くて壊れかけた両親との絆を奪われる思いだったのだろう。だけどウォーバックスの優しさや、自分が恵まれていることもわかっている。その状況で、本当の望みをどう言葉にすればよいのかわからず、涙がこぼれ落ちてしまうアニーなのだった。
<後編>(第二幕)に続く
★『アニー』のわからない語句・疑問については、当連載の「アニー用語辞典 <前編(第一幕)>&<後編(第二幕)> 」をご覧ください。さらに、ミュージカル『アニー』に関して、もっと深く知りたい方は、下記連載記事をどうぞ!↓
[第1回] あすは、アニーになろう
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編)
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず!/span>
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
[第17回]ミュージカル『アニー』2018の主役&孤児役合格者、発表! 新アニー役は新井夢乃&宮城弥榮!
[第18回]決まったぞ~! ハニガン役に辺見えみり、グレース役に白羽ゆり!丸美屋食品ミュージカル『アニー』大人キャスト
[第19回]サンディが33年目にして犬種チェンジ! 丸美屋食品ミュージカル『アニー』
[第20回]新旧演出版のアニーたちが最後の共演!「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2017」レポート
[第21回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<前編>
[第22回]『アニー』劇中 人名&用語辞典<後編>
[第23回]パワーアップする2018年『アニー』~演出の山田和也にインタビュー
[第24回]2年目の山田演出は、「より分かり易く」「より面白く」!ミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第25回]細かいところが面白い!2018年『アニー』<前編>
※参考文献:
・ミュージカル『アニー』パンフレット(2018年版掲載 香盤表、日本公演)
・トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)
・Thomas Meehan『Annie -A novel based on the beloved musical!-』(2013年、Puffin Books)
文・イラスト=ヨコウチ会長
公演情報
■日程:2018年4月21日(土)~5月7日(月)
■会場:新国立劇場 中劇場
■日時:
2018年8月4日(土)15:30
2018年8月5日(日)11:30/16:00
※開場は開演の30分前
■会場:福岡市民会館(大ホール)
■料金:S席8,500円 A席7,500円(全席指定・税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。はお一人様1枚必要です。
■主催:FBS福岡放送、読売新聞社
■問合せ:キョードー西日本 092-714-0159
■日時:
2018年8月9日(木)~14日(火)各日11:00/15:30
※開場は開演の30分前
■会場:シアター・ドラマシティ
■料金:全席指定8,500円(税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。はお一人様1枚必要です。
■主催:讀賣テレビ放送株式会社
■問合せ:アニー公演事務局(10:00~18:00)0570-08-0089
■日時:2018年8月26日(日)各日11:00/15:30
※開場は開演の30分前
■会場:新潟テルサ
■料金:S席8,500円 A席6,800円(税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。はお一人様1枚必要です。
■主催:TeNYテレビ新潟・新潟テルサ
■問合せ:
TeNY専用ダイヤル 025-281-8000(平日10:00~17:30)
新潟テルサ 025-281-1888(休館日を除く9:00~17:00)
■日時:2018年8月31日(金)~9月2日(日)各日11:00/15:00
※開場は開演の30分前
■会場:日本特殊陶業市民会館フォレストホール
■料金:S席 8,500円、A席 6,500円(税込)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。はお一人様1枚必要です。
■主催:中京テレビ放送
【名古屋公演に関するお問合せ】
■問合せ:中京テレビ事業:052-588-4477(月~金 10:00~17:00 土・日・祝休業)
アニー:新井 夢乃 / 宮城 弥榮
ウォーバックス:藤本隆宏
ハニガン:辺見えみり
グレース:白羽ゆり
ルースター:青柳塁斗
リリー:山本紗也加
ローズベルト大統領※:伊藤俊彦
(※キャスト表では「ルーズベルト大統領」ですが、当連載では「ローズベルト大統領」と表記しています→【第4回】参照)
男性アンサンブル:伊藤広祥、大竹 尚、鹿志村篤臣、谷本充弘、森 雄基、矢部貴将
女性アンサンブル:岩﨑ルリ子、神谷玲花、川井美奈子、坂口杏奈
脚本:トーマス ミーハン
作曲:チャールズ ストラウス
作詞:マーティン チャーニン
翻訳:平田綾子
演出:山田和也
音楽監督:佐橋俊彦
振付・ステージング:広崎うらん
美術:二村周作
照明:高見和義
音響:山本浩一
衣裳:朝月真次郎
ヘアメイク:川端富生
歌唱指導:青木さおり
演出助手:小川美也子・本藤起久子
舞台監督:倉科史典
■製作:日本テレビ放送網株式会社
■協賛:丸美屋食品工業株式会社
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/