海を渡った“美”が約150年ぶりの再会 『大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画』レポート
「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
東京都美術館の開館100周年を記念する展覧会『大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画』が、2026年10月18日(日)まで東京都美術館にて開催中だ。
大英博物館が誇る4万点の日本コレクションから厳選された、約200件が一堂に会する本展。開幕に先立って行われた報道内覧会では、大英博物館日本セクション長のロジーナ・バックランド氏と、本展担当学芸員の山田桂子氏(東京都美術館)が登壇し、現代まで続く収集の歴史と、国際的な文化交流によって明らかになった新たな発見について語った。会場の熱気そのままに、見どころをレポートしよう。
大英博物館でも大人気、百花繚乱のごとき江戸絵画
入り口で出迎えてくれるのは、大英博物館の外観を思わせる白い円柱の空間美術。まるでロンドンの本館に足を踏み入れたかのような気分にさせてくれる演出だ。まず学べるのは、大英博物館の日本コレクションを築いた5人のコレクターたちの存在。一人ひとりの情熱の積み重ねが、今日の膨大な収蔵につながっていることを実感する導入となっている。
大英博物館の三菱商事日本ギャラリーでは、常設展として約300点を展示し、年2回の展示替えを実施。「毎年約75万人の来場者が日本ギャラリーを訪れています」とバックランド氏が語るように、現地でも高い人気を誇っているという。
「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
序盤で見逃せないのが、法隆寺金堂の壁画の模写だ。焼損してしまったかつての姿を今に伝える貴重な一作で、大英博物館コレクションを調査していた彬子女王殿下によって再発見されたのだという。本展が初の里帰りとなる、まさに歴史の生き証人。その来歴を知ってから向き合うと、静かな迫力に胸が熱くなる。
桜井香雲《法隆寺金堂壁画 九号壁 模本》明治13年(1880)5月 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
2つの襖絵が海を越え、約150年ぶりに奇跡の再会
本展で最大の見どころといえるのが、明治の始めに離れ離れになってしまった襖絵が、今回初めて一揃いとなったことだ。
山田学芸員は、「長らく、これらの作品(大英博物館が所蔵する襖絵と青森県中泊町の宮越家にある襖絵)がペアであることは分かっていなかったのですが、この展覧会と並行して進められていた研究により、もともとは同じ場所にあった一連の襖絵であることが判明しました」と説明。さらに、技法や構図などの様式的な特徴から、作者が狩野派・狩野宗秀の門人にあたる狩野宗眼重信であることも判明したという。
襖絵は秋の風景から始まり、冬の情景、雪解け、最後は満開の桜と、四季の移ろいが見事に描かれている。実際に並べてみると、一枚一枚の絵が確かに連続していることがわかり、その発見の瞬間に立ち会えたような感動がある。
(左から)狩野宗眼重信《秋冬花鳥図襖》桃山時代末〜江戸時代初(17世紀初) 大英博物館蔵、狩野宗眼重信《春景花鳥図襖》桃山時代末〜江戸時代初(17世紀初) 個人蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
第1章から目玉作品で鑑賞者の心を掴みつつ、まだまだここでは終わらないのが本展の気合いを感じるところ。隅田川を描いた狩野休栄の絵巻、《隅田川長流図巻 中巻》からは、江戸の暮らしの息づかいが伝わってくるようだ。線遠近法による巧みな空間表現も見て取れる。
円山応挙が描いた虎の親子の愛らしさにも、思わず頬が緩む。写実と愛嬌が同居する応挙ならではの筆致を、ぜひ間近で堪能してほしい。
狩野休栄《隅田川長流図巻 中巻(部分)》宝暦〜明和年間(1751-1772) 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
円山応挙《虎の子渡し図屛風》天明元〜2年(1781-82) 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
8大浮世絵師、オールスターの名品が集結!
ヨーロッパで絶大な人気を誇った浮世絵版画。大英博物館の所蔵品は現在1万5千点ほどにのぼるといい、コレクションの充実ぶりにも驚かされる。鈴木春信に始まり、多くの絵師の作品が並ぶ様子から、昨年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』の記憶を呼び起こす人も多いだろう。
葛飾北斎《「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」》や喜多川歌麿《高島おひさ》など、誰もが知る錦絵の名品がずらりと並ぶ本セクションは、日本美術の鑑賞初心者にもおすすめしたい。可憐な美人画を得意とした春信はピンク、北斎はベロ藍のような深い青と、背景色が絵師それぞれのイメージカラーになっているのも見比べる楽しみのひとつだ。
「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
浮世絵の人気ジャンル、役者絵も見応え十分。音声ガイドを担当する歌舞伎俳優・市川染五郎の語りが、鑑賞体験に一層の深みを与えてくれる。鳥居清長《三桝徳次郎の夕霧、四代目松本幸四郎の藤屋伊左衛門》を前に、染五郎は「四代目松本幸四郎は、襲名前に初代市川染五郎と名乗っていた時期もある」と自身にゆかりのある作品であることを明かした。
歌舞伎座正面の絵看板は、現在も鳥居派の絵師の手によって描かれているそうだ。
鳥居清長《三桝徳次郎の夕霧、四代目松本幸四郎の藤屋伊左衛門》天明4年(1784) 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
謎多き絵師として名高い東洲斎写楽の作品が、これほど揃う機会も貴重だ。3面に並んだ洒脱な役者絵は、写楽ファンならずとも見入ってしまう迫力がある。
また、大きな骸骨が印象的な歌川国芳《相馬の古内裏》は、染五郎が「以前から惹かれていた」と語るお気に入りの一作だという。
「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2〜3年(1845-46) 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
王道のラインナップの中で珍しいのは、北斎が絵入百科事典『万物絵本大全』のために制作した、版下絵(原画)のセレクション。バックランド氏は「7年前にパリのオークションで見つかり、幸いにも大英博物館のコレクションに収蔵されました」と、貴重な発見の経緯を語った。
葛飾北斎《『万物絵本大全』》文政3年〜嘉永2年(1820-49)頃 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
日本とイギリスの文化交流の結晶がここに
最後に見てほしいのが、歌麿の肉筆画だ。絵師の筆跡や色づかいをそのまま残した一点物は、木版画とは異なる趣を放つ。そして時代は江戸から明治へ、北斎をリスペクトしていた河鍋暁斎の作品も並び、浮世絵の系譜が時代を越えていく様子を表現していた。
「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
喜多川歌麿《文読む遊女》文化元〜3年(1804-06)頃 大英博物館蔵 「大英博物館日本美術コレクション」展 会場写真
バックランド氏によれば、現在の日本コレクションは「閲覧室に研究者や学生が毎週訪れ、所蔵品を学んでいます」と、積極的に活用されているという。絢爛豪華な障壁画、江戸の町民文化を語る色鮮やかな浮世絵——まさに百花繚乱。日本が誇る江戸絵画の美や粋が大切に受け継がれてきたことは、日本人として誇らしく感じる。
150年という時間と、海という距離を越えてなお輝きを失わない江戸絵画の数々。その一つひとつに宿る物語を、ぜひ会場でじっくりと味わってほしい。『大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画』は10月18日(日)まで、東京都美術館にて開催中。
文・写真=さつま瑠璃
イベント情報
大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画
◆会期:2026年7月25日[土]~10月18日[日]
◆休室日:月曜日、10月13日(火)
◆開室時間:9:30~17:30
※金曜日は20:00まで
※入室は閉室の30分前まで
◆会場:東京都美術館企画展示室(東京・上野公園)
◆主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、大英博物館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
◆後援:国際浮世絵学会、ブリティッシュ・カウンシル
◆協力:日本航空
◆お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)