「偉大なる現代の動物画家」による動物画が一挙集合 『開館50周年記念 山口華楊展』レポート
『開館50周年記念 山口華楊展』
『開館50周年記念 山口華楊展』が、2026年7月11日(土)から8月30日(日)まで、SOMPO美術館(東京都西新宿)にて開催されている。
山口華楊(1899-1984)は京都を中心に活躍した日本画家。西村五雲(1877-1938)に入門後、京都市立絵画専門学校へ入学して頭角を現し、五雲亡き後は画塾・研究団体の晨鳥社(しんちょうしゃ)を再興した。大正期には文展、帝展に何度も入選し、昭和期には帝展で連続特選を果たすなど、京都画壇を代表する画家の一人である。1981年には文化勲章を受章しており、1982年にはフランス・パリのチェルヌスキ美術館で個展を開催、「偉大なる現代の動物画家」との評価を得た。
本展は、SOMPO美術館が収蔵する《葉桜》《猿》《幻化》3点を中心に、華楊の初期から晩年までの画業を広く紹介するもので、SOMPO美術館としては初めての日本画展である。また巡回の予定もなく、たいへん貴重な機会だ。
初期作品から円熟期まで広く紹介 生涯の作品を広く展覧
展示は「第1章 初期作品」「第2章 系譜――師・五雲から華楊へ」「第3章 探究――植物表現の生命力」「第4章 大成――『偉大なる動物画家』として」の4章に加え、間にコラム1「憩う動物―『かわいい』の理由」、コラム2「ちいさな仕事―下絵やスケッチとともに」が入る構成となる。出展作は45点で、素描や下絵、資料なども入れると約60点の出品だ。
右:《山羊》1924(大正13)年 滋賀県立美術館、左:《素秋》1932(昭和7)年 佐久市立近代美術館
初期作品から始まり、西村五雲より受け継いだ画風を感じ、植物表現への熱意が伝わり、円熟期の動物画による到達点を知る、という概ね時系列の流れで鑑賞できるので、華楊の画業が分かりやすく伝わってくる。12歳(数えで13歳)で五雲に師事した華楊が早い時期に才能を発揮し、ほぼ70年にわたって活躍してきた軌跡をじっくり確認することが可能だ。
展示風景
大下絵と並んで鑑賞できる《葉桜》
華楊の作品は京都に集中しており、東京での回顧展は実に27年ぶりとなる。またSOMPO美術館が収蔵している3点はいずれも華楊のキャリアを代表する作品であり、本展ではその3作品を同時に鑑賞することができる。
画面を青々とした葉が覆いつくす《葉桜》はSOMPO美術館収蔵の名品。今回は京都府所蔵の《葉桜(大下絵)》も展覧されるが、《葉桜》の本画と大下絵が並べて展示されるのは史上初とのこと。下部に描き込まれている蛇は、華楊が葉桜の下で見つけた蛇を元に構想したが、スケッチを見返すと細かい部分が描かれていなかったので、絵に合った蛇を捕らえて写生したという。緻密な筆致で描かれた蛇からは、観察を重視する華楊の真摯な姿勢が伝わってくる。
左:《葉桜》1921(大正10)年 SOMPO美術館 右:《葉桜(大下絵)》1921(大正10)年頃 京都府(京都文化博物館管理)
本展は、主に官展をはじめとする展覧会への出品作(大作)を展覧しており、大きな画面から考え抜かれた構図や造形をじっくり味わうことができる。また小品や下絵、スケッチ類や屏風といったさまざまな作品が揃っているので、華楊作品の繊細な叙情性を感じ取ることができるだろう。
展示風景
左:《南海魚》1967(昭和42)年、右:《茄子》1975(昭和50)年 共に高島屋史料館
犬、猫、鹿、馬、猿、狐……繊細な筆致の動物画に魅了される
華楊が得意とし、とりわけ熱心に取り組んだ画題は花鳥画や動物画である。師匠の西村五雲や、五雲の師匠である竹内栖鳳も動物画に定評のある画家であるため、師弟間で繋がってきた部分もありそうだ。本展では動物が221匹程度いるそうなので、さまざまな動物たちを発見するのも楽しい。
左:《神鹿》1940(昭和15)年 京都国立近代美術館、右:《制空》1944(昭和19)年 名都美術館
華楊は馬や牛、鹿や鳥、ライオンや虎といった動物のほか、犬や猫などの身近な動物も魅力的に描いている。第1回新文展に出して政府買い上げとなった《洋犬図》は、当時としては珍しかったボルゾイ犬を主題としており、表情が異なる三匹のボルゾイの端正な姿を正確に描きつつ、漂う気品までも捉えた作品だ。
左:《草》1941(昭和16)年 京都市美術館、右:《洋犬図》1937(昭和12)年 東京国立近代美術館
猿は第8回帝展で特選となったお気に入りのテーマであり、後にも度々描かれた画題である。SOMPO美術館が所蔵する《猿》は、華楊が嵐山の支峰である岩田山に取材して制作したものだが、猿は自ら飼っていたこともあるそうで、取材先でのスケッチをもとに身近な猿を観察して描いたのだろう。背景にモチーフを描かないことで主題が際立つ見事な構図である。
左:《猿》1959(昭和34)年、右:《猿(大下絵)》1959(昭和34)年 共にSOMPO美術館
青々とした葉の中でじっと身を潜める猫と、その傍らに落ちている柿を描いた《青柿》は、葉や青柿の色味の鮮やかさや、黄と緑の混じった瞳でこちらを見つめる黒猫の姿が印象的だ。黒猫は、秋の落葉や柿が季節感と哀愁を漂わせる《秋晴》でも姿を見せる。
左:《鶏頭の庭》1977(昭和52)年 京都市美術館、右:《青柿》1978(昭和53)年 北澤美術館
左:《秋晴》1976(昭和51)年 北澤美術館、右:《木精(こだま)》1976(昭和51)年 山種美術館(展示期間:〜8/2(日))
華楊は狐を気品ある存在として捉えており、「第4章 大成――『偉大なる動物画家』として」の後半には狐の作品が多数展示されている。SOMPO美術館が所持している《幻化》は、草むらを背景とする二匹の狐を描いた晩年の作品で、幻想的な情景の中で遊ぶような姿の狐が配されている。風格すら感じさせる華楊の真骨頂だ。
左:《叢原》1971(昭和46)年頃 名都美術館、右:《白狐》1983(昭和58)年 北澤美術館
左:《幻化》1979(昭和54)年 SOMPO美術館、右:《月夜野》1971(昭和46)年 京都国立近代美術館
山口華楊の作品が東京に勢揃いし、画業の軌跡を辿ることができる『開館50周年記念 山口華楊展』は、SOMPO美術館(東京都西新宿)にて、8月30日(日)まで開催中。
文・写真=中野昭子
イベント情報
※最終入場は閉館30分前まで