ミュージカル『FACTORY GIRLS』で再び主演! 柚希礼音が語る、再演への熱い思い
サラは人間的で大好きなキャラクター
──そういう熱気のなかで作り上げたものを、舞台に持っていったあとの、お客様の反響はいかがでしたか?
稽古のなかでこれはすごいものになると確信していたので、(開幕前に)「どういう作品なの?」と訊かれるたび、「是非観て欲しい」と言い続けていたのですが、いざ幕が開くと、皆様大感動してくださって。当時は楽屋に面会にも来ていだたけていたので、直接感想をお聞きすることができたんですよね。女性だけに刺さるお話なのかなと思いきや、男性の方々もすごく深く刺さってきた、色々なことを感じたとおっしゃってくださって、それが本当に嬉しかったです。楽屋でお目にかかるのは、この業界の方がほとんどですから、同じエンターテイメントの担い手である人たちが、こんなに感動してくださっている、それがひしひしと伝わってきたのがものすごく励みになりました。
──感動がどんどん良い相乗効果になっていったんですね。また、先ほどご説明くださいましたように、日米合作で板垣さんが上演台本を書かれたということで、板垣さんはヒロインのサラ・バグリーを柚希さんに当て書きされたとおっしゃっていて、柚希さんの魅力が本当に生きたお役柄だなと思いましたが、改めてそのサラという役柄を当時どう捉えていらしたのですか?
初演のビジュアル撮影の時には、女性たちのリーダーという感じなんだろうなと思っていたのですが、板垣さんがより深いところを追求してくださって。それは何かというと、サラ・バグリーという人は、もともと女性たちを率いていく、強いリーダーだったわけじゃなくて、なんとか家族のために一人前の働き手になりたいという夢をもって、理想に燃えて工場にやってくるのだけれども、そこでの女性たちの待遇とか、置かれている状況、現実を目の当たりにして愕然とするところからはじまるんです。それで、「みんなこれでいいの?こんなことにただ従っているだけでいいの?」と、自分から発言してしまったが為に、人を傷つけてもしまって、このままではかえって皆の立場が悪くなるんじゃないかなどと、サラもすごく悩むんです。でもそこでみんなから背中を押され、支えられて立ち上がっていく。
カリスマ的な強いリーダーじゃないからこそ、みんなが「私はあんなに強くはなれないから無理だわ」にならずに共感し、団結していけた。ですから、決して強靭なスーパーウーマンではない普通の女性が「こんなことでは絶対に駄目だ」と思い、一歩ずつ、一歩ずつ権利を勝ち取ろうとしていく、そういうとても人間的で大好きなキャラクターでした。
──そんなサラを再び演じるにあたってはどうですか?
私自身も再演までの期間にありがたいことに様々な経験を積ませていただいて、自分自身でも感じることがたくさんありましたし、世の中も非常に大きく変わっていっているので、初演よりも一層繊細に深く作っていきたいなと思っています。ただ、私は同じ作品を再演させていただく機会が多いのですが、その度に再演の怖さを感じます。再演ができるのは、初演が評価してもらえたことの証しですからとても嬉しいのですが、どうしても年月が経つと、皆様のなかの初演の記憶って、実際よりも更に良いものになっていてくださることが多いんです。宝塚時代に初演させてもらったフレンチミュージカルの『ロミオとジュリエット』の時もそうでしたが、初演がとても良かった、素晴らしかった、とずっと言っていただいていて。
──『ロミオとジュリエット』の初演は、確かにかなり伝説化されていましたよね。
そうなんです。でも実際に私も再演させていただくまでの日々で、色々なことを経験していますから、どう考えても初演の時の若者らしさ、ロミオらしさというものは既に減衰していっているだろう、そうとう頑張って作り直さないと初演の自分、初演のロミオに太刀打ちできないという感じだったんです。ですから今回の『FACTORY GIRLS』も「初演が本当に良かったからまた観られるのが楽しみ!」と言ってくださる方もいらっしゃれば「観られなかったから、今度こそ絶対に観にいくね!」とおっしゃる方もいらっしゃる中で、初演の記憶とか、想像が膨らんでいるところに再び作品をお観せする為には、そのお気持ちの1000倍ぐらい良くないと絶対に駄目なので、本当に丁寧に、私たちの感情を毎回、毎回、大きく動かしていかないと、と思っています。初演は1から立ち上げていく分、手探りでもありましたし、ある部分ではみんなの勢いで行ったところもあったのですが、今回は楽曲も台本も、もう一度冷静なところから見て、自分自身のことを客観視して、最初にも言いましたがゼロから作り直したいです。より気合いが入ればいいなと思っています。