【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』【第16回】Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>

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2017.10.2
©Sony Pictures

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【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』
【第16回】Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>

前回はこちら

前回は、2014年製作・2015年日本公開映画『ANNIE』(以下、<2014年リメイク版>)における過去の『アニー』へのオマージュを解説したが、今回は<2014年リメイク版>における、オマージュとはちょっと違うけれど、思わず「Leapin' Lizards!(おったまげ~!)」と言いたくなるような、知っておくとよりいっそう楽しめるトリビアを解説する(なお、1982年製作版ミュージカル映画『アニー』は今回も<1982年版>と表記する)。

■楽曲カットの理由

<2014年リメイク版>は、時代設定を現代(2013年~2014年)にしている。そのため、1933年を背景として作られたオリジナルのミュージカル『アニー』のうち、時代(現代)に見合わない曲はカットされている。その一方で、追加された曲もある。「The City's Yours」「Opportunity」「Who Am I?」の3曲である。

<2014年リメイク版>公開時のパンフレットには、カットされた曲の解説がなかったので、ここで列記しておこう。

「We'd Like to Thank You, Herbert Hoover」(第一幕にて、フーバービルに住む人々が、ハーバート・フーバーへの不満を述べた曲:【第4回】参照 )

1933年の大恐慌時代の状況が、時代に合わないためカット。

「N.Y.C.」(第一幕、大富豪ウォーバックスが孤児アニーにニューヨークを徒歩で案内する曲)

<2014年リメイク版>においてウォーバックス的役割を担う、携帯電話会社CEOのスタックスは、ヘリコプターに乗って、アニーに自社の基地局を見せる、という話に変わった。そのため「N.Y.C.」はカットされ、代わりに新曲「The City's Yours」がスタックスによってヘリコプターで歌われる。

「You Won't Be An Orphan For Long」(第一幕最後、アニーの両親を何としても見つけ出す、と約束したウォーバックスらが歌う曲)

<2014年リメイク版>では、アニーは「孤児(orphan)」ではなく「里子(foster kid)」という名称になっているのでカット。ただし、同様に「orphan」の歌詞が含まれる「It's the Hard Knock Life」の場合、「No one cares for you a smidge, when you're in an orphanage」を「No one cares for you a bit, when you're a foster kid」と韻をそろえながら歌詞変更することで、曲はカットされなかった。

●ラジオ局のシーンでアニーが歌う「Maybe」の一節/ホワイトハウスでアニーと閣僚、ローズベルト大統領が歌う「Tomorrow」のリプライズ(第二幕)

いずれも、アニーが大勢の人の前で歌声を披露する、という場面だった。グッゲンハイム美術館でのパーティーで、大人たちに向かって歌った新曲「Opportunity」が、これに相当する曲と考えられるだろう。

「Something Was Missing」(第二幕、ウォーバックスが、アニーによって自分の空虚な心境が救われたことを歌う曲)

初号試写の段階ではカットされずに披露されたが、電車内で眠るアニーの横で歌うスタックスの哀しい雰囲気が不評だった。そのため、「仲のいいハッピーな2人を見せたい」と、映画の本公開の段階でカットになったという。そしてスタックスの心情は、新曲「Who Am I?」で歌われる。なお「Who Am I?」では、アニーおよびハニガンの、前に向かおうとする心境も歌われ、3人の気持ちが同時に表現された。

映画『ANNIE/アニー』クリップ“Who am I”

「(We Got)Annie」(第二幕、アニーがいよいよウォーバックスの養子になるか?! と期待される場面で、ウォーバックス邸で働く使用人たちがその喜びを歌う曲)

現代の富の象徴は無人のオートメーションであり、スタックス邸には「食事係」「お風呂係」「洋服係」といった人たちがいない。それゆえにカット。「I Think I'm Gonna Like It Here」も、同じ理由で大幅にアレンジされている。

「A New Deal For Christmas」(第二幕ラスト、アニーやウォーバックス、ローズベルト大統領によって「新しい価値」を歌う曲)

もともとこの曲は、(日本版歌詞には反映されていないが)ローズベルト大統領のニュー・ディール政策とかけた歌詞だ(【第5回】参照)。ゆえに時代背景と合わないため、カット。

「Little Girls」「Easy Street」も、アニーたちを世話するハニガンの人物設定が「C+C Music Factory」出身の元歌手になったことで大幅アレンジ。「You're Never Fully Dressed Without A Smile」(第二幕頭、ラジオ局のバート・ヒーリー&ボイラン・シスターズおよび、リスナーの孤児たちがそのマネをしながら歌う曲)は、アニーと孤児たちが、映画『ムーンクエイク・レイク』後のパーティーに呼ばれたときのバックミュージックで、シーアが歌っているバージョンに大幅アレンジ。また、歌詞中のオシャレのアイコンが、「Beau Brummelly」「Saville Row」から、「シャネル」「グッチ」になっている(【第10回】参照)。

■<2014年リメイク版>を読み解くキーワードは「地理」

<2014年リメイク版>では、学校の授業が終わったアニーが駆けてゆく中、「Overture」がかかる。掘削機、シャベル、足音、ドラックのドアを閉める音、クラクション、自転車のベルの音がかぶさってゆく(音楽スーパーバイザー:マット・サリヴァン)。

他人様のレンタサイクルを借りて、125丁目駅からトライベッカのレストラン「ドマーニ」へ走るアニー。そこからハーレム126丁目とセント・ニコラス・アベニューの角にある、デヴィッド・ザヤスが演じるルーのデリでバケツを借りて、目の前のハニガンの家(アパート)のはしごをよじ登る。

「Tomorrow」のロケ地は、レキシントン街と116丁目の角である。スタックスの家は、オープン前の新ワールド・トレード・センター、タワー4。

終盤近く、ヘリコプターと車のチェイスは、54丁目から57丁目、10番街からアップタウンのワシントン・ハイツへ、ワシントン・ブリッジを渡りニュージャージーのリバティ州立公園まで、というルートだ。

「I Don't Need Anything But You」は、自由の女神やエリス島、スタックスの住む新ワールド・トレード・センターが見える構図になっており、町も画面に彩りを添える。

そう、<2014年リメイク版>は、現代のニューヨークの「地理」がポイントになっている。

■アニーはスタックスとの上空飛行で、なぜ一瞬、顔が曇るのか?

「地理」がポイントとは言ったものの、<2014年リメイク版>のパンフレットやDVDの監督音声解説でも、基本的に「ロケ地はどこ」という説明しかない。だが<2014年リメイク版>には、ニューヨークの「地理」がわからないと理解できない会話がある。

携帯電話会社CEOのスタックスが、アニーを連れてヘリコプターに乗り、自社の基地局を見せるシーンがある。スタックスが「96丁目から先は行かない(基地局に力を入れていない)」と言った瞬間、アニーが一瞬、顔を暗くする。

96丁目は、スパニッシュ(イースト)ハーレムとアッパーイーストサイドの境界である。アニーが住んでいる地域はハーレム(110~155丁目)の126丁目に住んでいる。つまりアニーの住まいは、基地局に力を入れていない「96丁目から先」なのだ。

アニーは、同居する里子たちに「つながる携帯電話だよ」とスタックス・フォンを配った。「つながる、と言って渡した携帯電話が、つながらないんじゃないの?」と思って、一瞬顔を暗くしたのでは?と筆者は推測する。しかし、それを見逃さなかったからこそスタックスはその後「基地局を拡げよう」と秘書グレースに話すのだろう。

■「Opportunity」をくれる町・ニューヨーク

『アニー』では、登場人物の住んでいる場所が、本人の立場を示すひとつのアイコンとして機能している。

<2014年リメイク版>のアニーは、アフリカ系アメリカ人が多く居住する地区「ハーレム」に住んでいる。そこは今、かつてほどには貧しい地域ではなくなったが、それでも、アニーがスタックスの家に行くことになった際、ハーレムでデリを営むルーは「おめでとう、この町を抜け出せて」とアニーに言った。

一方、舞台版のミュージカル『アニー』において、ウォーバックスは「5番街987番地」に住んでいた。「5番街」に住んでいると聞けば、すなわちアッパー・イースト・サイドの高級住宅街であり、すぐに「お金持ち」と結びつく。

<2014年リメイク版>におけるウォーバックス的役割のスタックスは、ウォール街を擁するロウアー・マンハッタンにある「新ワールド・トレード・センター」に住んでいる。現代において、新たな発展と再生を象徴する場所だ。

とはいえウォーバックスもスタックスも、最初から、そこの出身だったわけではない。

ウォーバックスは自分が「ヘルズ・キッチン」出身だったことをアニーに明かした。かつてそこはギャング団の巣食う、最も治安の悪い地域だった。「アメリカ大陸でもっとも危険な地域」とさえ言われた。

スタックスもまた、貧しかった子ども時代の話をアニーにするために、「クイーンズ(ロケ地はブルックリンのシープスヘッド・ベイ)」の高架線下に連れてゆく。スタックスは、自分の父親がこの高架を1日20時間作り続けて過労死したと話す。

だがウォーバックスもスタックスも、いわゆる「成金」で、成功に沿って大きな家を持つようになった。スタックスは言う。「がむしゃらに働けば誰にでも好機があるのが、ニューヨークだ」。

アニーも、「スタックスさんは私に大きな好機をくれた」と、グッゲンハイム美術館でのパーティーで「Opportunity」を歌って返す。それは「好機」という意味だ。「Opportunity」をくれる希望の町、それがニューヨークなのだ。

■字が読めないアニー

そのパーティーで、アニーが字が読めないということを知ったスタックス。だが<2014年リメイク版>では、このパーティーまでの間に、そのヒントが出てきていた。

アニーが授業で作文を書かず「頭の中にある」と言い張ったこと、里子たちに両親からの手紙を読んでとせがまれたとき、目線は手紙を見ていないこと、自分の個人情報を得ようと福祉局へ行ってみた際、その場で結果を読んでもらっていたこと。

だが、これらのヒントで「アニーは字が読めない」と誰しもが気づけるのだろうか。

アニーはスタックスに言う。「名前が書けるのはカモフラージュ。学校の先生にはごまかしてきた。里子はただでさえやっかいな存在、それに恥ずかしかった」だからハニガンに打ち明けられなかった、と。

親に勉強をみてもらうこともできず、社会に置き去りにされたアニーに、12歳で父親を亡くして以来、人を拒絶してでもがむしゃらに働いてきたスタックスが動く。アニーを特別視するのではなく、社会の子ども全体のために動こうとする。

ニューヨーク市長選のイメージアップのためにアニーと暮らしてきたスタックスは、市長選出馬を取り消した。代わりに、すべてのニューヨークの子どものため、「スタックス・リテラシー(識字)・センター」を設立した。読み書きができる、ということは、底辺から抜け出す、最大の「Opportunity」となるだろうから。

ここでひとつ補足。「里子(foster kid)はただでさえやっかい」とアニーが言うが、最初、スタックスも、スタックスの元で働くガイも、アニーのことを「孤児(orphan)」と呼ぶ。アニーはその都度「里子(foster kid)」だと言い返す。

ガイにいたっては、出迎え文句が「小さな孤児アニー!(Little Orphan Annie!)」である。もちろん、ここはハロルド・グレイ『小さな孤児アニー(Little Orphan Annie)』へのオマージュなのだが……。

アニーはスタックスに「(里子と食事をして市長選の支持率が上がるなら)一緒に住めば大統領ね」と言い、ガイがそれに乗る。その時「簡単よ、食べ物とベッドだけで週に157ドル入る」と言うように、里子とは経済的に援助されている子どもであって、法的な親子関係はない。

アニーにしてみれば、両親が戻るまで経済的に援助されているだけで、別に本当の両親はいるのだ、ということだ。スタックスと一緒に住むことになったアニーに、記者が尋ねる。「スタックスがあなたを養子にする、ということですか?(He is going to adopt you?)」と。するとアニーは「違う違う違う、両親はいるの(No, no, no, I HAVE parents.)」と答える。養子(adopted child)になってしまっては、スタックスに親権が発生してしまう。だからアニーは否定しているのだ。

■アニー役は、ウィル・スミスの娘のはずだった?!

「子どもは細菌だらけ!!(Kids with germs!!)」が口癖で、いつも大量に除菌ジェルを持ち歩いているほどに、子ども嫌い・人嫌いだったスタックス。そんなスタックスも心の空虚さに気づき、アニーや秘書グレースを愛するようになる。何でも持っているはずのお金持ちが、ファミリーを得てゆくというのは、『アニー』のフォーマットでもある。

さて、<2014年リメイク版>のメイン・プロデューサーは、ジェイ・Zと、ウィル・スミス&ジェイダ・ピンケット=スミス夫妻である。

主役アニーもスミス夫妻の娘であるウィロー・スミスが演じる予定だったそうだ。ただしウィローは成長しすぎてしまったため降板となり、代わりにクヮヴェンジャネ・ウォレスがアニー役となった。

製作は、ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズと、オーバーブック・エンターテインメント。オーバーブックの設立者はウィル・スミス。

Leapin' Lizards!

もしウィローが演じていたら、完全にスミス・ファミリーの映画である。ファミリーを得てゆく話どころか、最初からファミリー・ミュージカルになるところだったのだ。筆者も「アニーになりたい」ではなく、「スミス夫妻の子になりたい」と思っていたことだろう。

ただし監督のウィル・グラックは、ファミリーを映画に出すことが大好きな人なのだ。DVDの監督音声解説によれば、さしあたってグラック監督のファミリーが3人出演している。

まず、アニーがサンディを連れているところに、「私たちと一緒に写真を撮って」と寄って来る女の子と、撮ってもらってバク転する女の子は、グラック監督の娘たちだ(「Girl flipsover Annie, Gets Selfie」の見出しで「TRENDING NOW IN NEWS」に写っている2人)。

そもそも、<2014年リメイク版>開始直後、アニーがレストラン「ドマーニ」の前で路上にチョークで絵を描いているが、これはグラック監督の娘が現場に来て描いたものだそうだ。

そしてグッゲンハイム美術館の館長のおじさんは、グラック監督の父親。

Leapin' Lizards!

撮影現場には、グラック監督の娘たちはもちろん、スタックス役ジェイミー・フォックスの娘、クワベンジャネのきょうだい等が来ており、いつも子どもたちのいる明るい家庭的な現場だったとのこと。他のクルーの子どもたちも映画館での観客役で映画に映り込んでいるそうだ。

グラック監督は「ファミリーが来られる現場じゃなくっちゃ」という考えだそうだが、筆者も「グラック監督の娘だったら、<2014年リメイク版>に出られたのか~」と、羨望を隠し切れない思いだ。

さてスミス夫妻の娘がアニー役を降板後、クヮヴェンジャネがどうやってアニー役に選ばれたのだろうか? アニーになりたい筆者としては最大の関心事だ。

<2014年リメイク版>パンフレットの彼女の言葉によれば「オファーがあった」ということなので、特にオーディションというわけではなかったようだ。

ちなみに<1982年版>アニー役、アイリーン・クインはオーディションで選ばれている。こちらの記事によれば、アニー役オーディションでは、ドリュー・バリモア(後のハリウッド・スター)やクリスティン・チェナウス(後のブロードウェイミュージカル・スター)ら8,000人をはねのけてアイリーンが主役の座を獲得したそうだ。

なお、クリスティン・チェナウスは、ロブ・マーシャル監督のテレビ映画『アニー』(1999年)に、リリー役で出演している。

アイリーンがアニーに選ばれた秘話については、<1982年版>DVDに特典映像があり、大人になった本人がその秘話を話すコーナーもある。「Leapin' Lizards!」と言いたくなるような当時の貴重映像も入っているので、アニーファンは必見だ!

■ブロードウェイと<2014年リメイク版>、ドッグトレーナーは同じ!

DVDの監督音声解説によれば、<2014年リメイク版>サンディのドッグトレーナーはビル・ベルローニ。なんと彼は、1977年オリジナル・ブロードウェイ『アニー』のサンディのトレーナーでもあるのだそうだ。1970年代初めまで、犬の役は、犬の扮装をした人間が演じていたのだが、やはり本物を……ということになり、若き俳優の卵・ビルが犬探しを命じられた。

ただ、誰にも犬の訓練は経験がなく、ビルが保護犬を訓練。彼は俳優を辞めてドッグトレーナーになり、<2014年リメイク版>のサンディもドッグシェルターで見つけて訓練してくれたそうだ。

ところで<2014年リメイク版>では、サンディが保護されているシェルターに、この映画の重要人物が働いている。<2014年リメイク版>の楽曲を担当するシンガー・ソングライターのシーアだ。彼女は、音楽プロデューサーのグレッグ・カースティンと共に、<2014年リメイク版>ナンバーのアレンジと、新曲3曲の創作を手掛けている。

玉ねぎヘア、黄色いエプロンで犬を抱いている女性がシーアだ。シーア自身が表に出ることはめったにないそうなので、レアな映像である。シーアは『アニー』を「約150回は観た」というほどの愛好家だから、シーア、推せる……!

■夢は、かなう?! かなわない!?

ハニガンに掃除を言いつけられた里子たちが言う。「私、夢の中で、ホンモノの氷の上でスケートしてた」「憧れるわ、無制限のカードで買い物」「アメ玉の海」「ロケットで月旅行」

これらはかなわない夢として語られるが、アニーが映画『ムーンクエイク・レイク』のパーティーに里子たちを招待すると、そこにはホンモノの氷のスケート場、大量のアメ玉が! 会場を走る乗り物も、「月に行くロケット」という設定で、無制限のカードで買い物をしたような贅沢な空間がつくられている。

映画『MoonQuake Lake』trailler

本来はここで、「ね、夢はかなうでしょ?」というアニーのセリフがあったそうだが、カットしたそうだ。まあ、スタックスのお金でやったことを、アニーが「ね?」と言うのもどうかと思うので、カットして正解だろう。

■配給・ソニー系会社ならではの「C+C Music Factory」

スタックスによってかなえられた里子たちの夢。一方、ハニガンの夢はといえば、「もう一度、第一線の歌手に戻ること」。<2014年リメイク版>では、ハニガンが「C+C Music Factory」出身の元歌手という設定になっている。それは説明のセリフ、家に飾られまくった写真、「Little Girls」の歌詞など、折に触れ表現されていた。

<2014年リメイク版>におけるルースター的な役割であるガイによる、「ニセ両親」にアニーを渡す悪だくみに、ハニガンは乗ろうとする。が、「アニーが貴女の歌に心から感動した、励まされたそうだ」とスタックスから聞かされたハニガンは、改心の行動に出る。それだけでは終わらない。ハニガンの夢は加速する。ラスト近く、アニーとスタックス、そしてスタックスの秘書グレースが歌う「I Don't Need Anything But You」に、突然入り込んで来るハニガン。

映画『ANNIE/アニー』楽曲クリップ“I don’t need anything but you

「♪Everybody Dance Now!」

C+C Music Factoryヒット曲「Gonna Make You Sweat (Everybody Dance Now) 」の一節! さらには、エンディングで「Tomorrow」の〆を気持ちよさそうに歌い上げるハニガン!

そして、日本で公開された吹替版は、Flowerによる「TOMORROW ~しあわせの法則~」が、字幕版は平井堅による「Tomorrow」がエンドロールに流れる。両者ともソニーミュージック所属の歌手である。

Flower 『TOMORROW ~しあわせの法則~』

そして無論、C+C Music Factoryもソニーミュージック所属なのである。<2014年リメイク版>は、配給・コロンビアピクチャーズ(ソニーカンパニー)である。ソニーミュージックの強烈な印象を残して、映画は終わる。

■アニーの「ニセ母」こそ、歌えるキャストである!

ハニガン役を演じたのは、キャメロン・ディアス。歌手というワケではなくとも歌声を披露してくれたが、<2014年リメイク版>では、絶対に歌うと期待したキャストが歌わなかった。

それはアニーの「ニセ母」だ。彼女はトレイシー・トムズ。映画『RENT』のジョアン・ジェファーソン役(モーリーンの新恋人の弁護士)でミュージカルファンにおなじみのブロードウェイ女優だ。

他のアニー「ニセ両親」オーディション受験者は歌っていたし、「トレイシーもどこかで歌うかな~」とワクワクしていたら、一切歌わなくてビックリである。何のための歌える女優のキャスティングだったのだろうか?!

■現代のFBIは、携帯電話会社!

ハニガンに思いを寄せる男、というのは、『アニー』おなじみのフォーマットだ。ミュージカルの舞台では、洗濯屋バンドルズが担う(ただし2017年新演出版では、この設定ではなかったが……)。<2014年リメイク版>では、ハーレムでデリを営むルーがその役割だ。

ルーは、アニーからスタックス・フォンをプレゼントされるが、こうつっぱねる。「個人情報を抜かれて大企業に人生を支配されるから、要らない!」

これはルーの杞憂ではない。その後アニーは、スタックスの元で働くナッシュ(いい人)に、スタックス・フォンのコントロール・センターに連れて行ってもらう。「電話でスパイできる?」と聞くアニーに、ナッシュは「過去20年の通話やデータ通信を追跡できる」と言う。

ミュージカルの舞台と違って、<2014年リメイク版>では、アニーの苗字は初めから判明している。アニーの苗字「ベネット」で職員に探させるナッシュ。すると瞬時に「ベネット」に関する通話データが出た。ナッシュは言う。「人が恐れるべきは、政府ではなく携帯会社さ(People shouldn't be scared of governments. They should be scared of cell phone companies.)」

なんだか、ローズベルト大統領の名言「我々が恐れなければならないのは、恐れそのもの(The only thing we have to fear is fear itself.)」みたいでカッコいいが、よく考えると言っていることはコワい。

さてミュージカル『アニー』の舞台では、アニーの両親はFBIによって捜索された。<2014年リメイク版>では、「本当の両親」探しは行われず、「ニセ両親」にさらわれたアニーを探すためにFBIや警察が動く。しかし最終的にアニーの居場所を特定したのは、アニーを見かけた人がツイッターでつぶやいた写真や位置情報だった。

ちょうど<2014年リメイク版>が日本公開の頃に出た携帯アプリ『ANNIE』が、Facebookと連動させないとテコでも動かない仕組みだった。この時から、すでに個人情報を収集されている感いっぱい、「現代のFBIは、携帯電話会社だ!」とは、うすうす感づいてはいたが……。

■<2014年リメイク版>の細かい仕掛け

<2014年リメイク版>には他にも細かい仕掛けがいっぱいだ。ミュージカル『アニー』の舞台でも、ウォーバックス邸の壁の絵がどんどん変わってゆくが、<2014年リメイク版>のスタックス邸でも、アニーが来て以来、バスキアの絵が犬の動画に変わっている。アニーの「ニセ両親」が来ると、いつも出る噴水の水が出ない上にサンディが騒ぎ出す。アニーからの目線のときには、カメラの位置が下がっている、等々。

観れば観るほど、「Leapin' Lizards!」なトリビアが見つかる。それが<2014年リメイク版>なのだ。観直す際には、自分だけのトリビアを探してみるのもオススメである。

次回につづく

参考資料:
・2014年製作・2015年日本公開映画『ANNIE』パンフレットおよびDVD(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)
・1982年製作映画『アニー』DVD(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)



<THE MUSICAL LOVERS ミュージカル『アニー』>
[第1回] あすは、アニーになろう 
[第2回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(前編) 
[第3回] アニーにとりつかれた者たちの「Tomorrow」(後編)
[第4回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その1>フーバービル~
[第5回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その2>閣僚はモブキャラにあらず! 
[第6回] アニーの情報戦略
[第7回] 『アニー』に「Tomorrow」はなかった?
[第8回] オープニングナンバーは●●●だった!
[第9回] 祝・復活 フーバービル! 新演出になったミュージカル『アニー』ゲネプロレポート
[第10回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その3>ラヂオの時間
[第11回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その4>飢えた人々を救え!
[第12回] 『アニー』がいた世界~1933年のアメリカ合衆国~ <その5>ウォーバックスにモデルがいた?
[第13回] ブラックすぎる!? 孤児院の実態
[第14回]ウォーバックスの財力と華麗なる元カノ遍歴
[第15回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<前編>
[第16回]Leapin' Lizards! リメイク映画『ANNIE』のトリビア<後編>
※上記のうち2017年4月21日以前の掲載内容は新演出版と異なる部分があります。
 
公演情報
アニークリスマスコンサート2017


丸美屋食品ミュージカル「アニー」クリスマスコンサート2017
人気ミュージカル『アニー』から誕生したクリスマスコンサート。
今年も「トゥモロー」や「ハードノックライフ」などアニーでおなじみの楽曲と
クリスマスソングを素敵なゲストと共にお届けします。 
タップキッズも特別に復活!! 新旧アニーズのハーモニーをお楽しみに!
■構成・演出: 小川 美也子
■出演予定: 
藤本 隆宏 / 彩乃 かなみ
2016年/2017年/2018年アニー&アニーズ

 
■会場:新国立劇場 中劇場 (京王新線・初台駅)
■日時:
2017年12月22日(金)18:00開演
2017年12月23日(土・祝)12:00/15:00/18:00開演
開場は開演時間の各30分前
■席種・料金:全席指定:6,900円(税込)
■チケット一般発売:2017年10月21日(土)
※4歳未満のお子様のご入場はできません。
※チケットはお一人様1枚必要。
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/news/2017/10/2017-13.html


丸美屋食品ミュージカル『アニー』2018年
東京:2018年4月21日(土)~5月7日(月)予定
その他地域:8月~9月頭予定

■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/
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